第3話 ガラス職人との出会いと決意
市場で粗悪なガラス製品を見つけてから、俺の頭の中はガラスのことでいっぱいだった。
(透明度の高いガラスを作ることができれば、この世界での商売の大きな武器になるかもしれない)
そう考えた俺は、父にガラス職人について尋ねてみた。
「お父様、この町にはガラスを作る職人がいるの?」
「ガラスか? ふむ……エーバーハイムではあまり作られていないな。精々、窓ガラスや粗雑なコップ程度のものだ。しかし、町の外れにルートヴィヒ・ケスラーという職人がいる。彼は昔、王都でガラスを作っていたらしい」
王都でガラスを作っていた? それは興味深い。
「会ってみたいな。その人に話を聞きたい」
「お前がガラスに興味を持つとはな……。いいだろう。だが、ルートヴィヒは頑固な男だ。お前一人では相手にされないだろう」
父は机の引き出しから羊皮紙を取り出し、筆を走らせた。
「これは紹介状だ。ザイドル商会の名において、お前がガラスのことを学びたいと伝えるためのものだ。これを見せれば門前払いされることはないだろう」
「ありがとう、お父様!」
さらに父は、執事に命じて上等なワインとパンの詰め合わせを用意させた。
「手ぶらで行くより、礼儀を尽くした方がいい。職人にも誇りがある。気持ちよく迎えてもらうためにな」
こうして、俺は町の外れにあるルートヴィヒ・ケスラーの工房を訪れることになった。
ーーーガラス工房ーーー
工房に足を踏み入れると、強烈な熱気が立ち込めていた。炉の中で赤々と燃える火が、周囲の空気を重くする。
「何だ、客か?」
低く渋い声が響く。炉の前に立つ大柄な男、それがルートヴィヒ・ケスラーだった。
彼は肩幅が広く、腕は丸太のように太い。顔には無精ひげが生え、煤で黒く汚れているが、その瞳は鋭い。年の頃は五十手前といったところか。見た目からして、かなりのベテラン職人であることが分かる。
工房の壁は煤で黒ずみ、作業台には様々なガラス片が散らばっていた。溶解炉の周りには、鉄の工具や木型が並び、職人たちが慌ただしく動いている。
俺はルートヴィヒの前で深く頭を下げ、父の紹介状と持参した土産を差し出した。
「初めまして、私はマクシミリアン・ザイドルです。お話を伺いたくて参りました。これは父からの紹介状と、ささやかな贈り物です」
ルートヴィヒは紹介状を受け取ると、手早く目を通した。その太い指が羊皮紙の端をしっかりと掴んでいる。
「ザイドル商会の坊主か……。なるほど、お前がゲルハルトの息子か」
彼はちらりと俺を見やり、次にワインの瓶とパンの詰め合わせを確認すると、口元にわずかに笑みを浮かべた。
「ふん……少なくとも礼儀は心得ているようだな」
「ありがとうございます。市場で売られているガラス製品を見て思いました。もっと透明で、綺麗なガラスが作れたら、商売の幅が広がるのではないかと」
「ふん……口だけなら誰でも言える。ガラス作りがどれほど難しいか、知っているのか?」
ルートヴィヒの声には、長年の職人としての誇りが滲んでいた。
「いいえ、詳しくは知りません。でも、それを学びたいんです」
「……面白い坊主だな」
ルートヴィヒは目を細め、少し考え込むように顎を撫でた。
「じゃあ、まずはこの工房を見ていけ。ガラス作りの基本を教えてやる」
こうして、俺のガラス作りの学びが始まった。
ーーーガラス製造における課題ーーー
工房を見学するうちに、ガラス製造には大きな課題があることが分かった。
1. 材料の純度が低い → 現在使われている砂には不純物が多く、透明度の高いガラスが作れない。
2. 炉の温度が不安定 → 高温を維持できず、均一なガラスが作れない。
3. 成形技術が未熟 → 厚みが均一でないため、歪みが生じる。
(この問題を一つずつ解決できれば、より高品質なガラスが作れるはずだ)
「ルートヴィヒさん、今使っている砂はどこから?」
「近くの川辺で採れる砂を使っているが、不純物が多くてな。良い砂を探すのが難しいんだ」
「……では、より純度の高い砂を探してみるのはどうでしょう?」
「は? そんな簡単に言うな。砂の純度を上げるには、洗浄や選別が必要でな……」
ルートヴィヒは頭を掻きながらため息をつく。
「まあ、やるだけ無駄ではないが、砂を探すのは大変だぞ?」
「それなら、試してみる価値はありますね」
俺は、まず、より良い砂の確保から始めることにした。
(これは俺の最初の商売の挑戦になる……!)