第16話「ガラス事業の飛躍と学園での仲間たち」(10歳)
学問所での交渉シミュレーションを終えた俺たちは、そこで得た知識を実際の商売に活かすべく、動き出していた。王都の豪商へのアプローチを進めながら、工房の生産体制も見直す必要がある。
「気泡の問題はまだ完全には解決していないけれど、大量生産するなら管理方法をさらに工夫しないとね」
エリザベートが試作品を光にかざしながら言った。
「品質を安定させるためには、炉の温度管理をもっと厳密にする必要があるな。新しい燃料の選択肢も考えた方がいいかもしれない」
ルートヴィヒも真剣な表情でうなずく。
「それと、王都の貴族層に売り込むなら、装飾の面でも差別化を図るべきだろう。高級感のあるデザインに仕上げれば、単なる実用品以上の価値を持たせられる」
俺たちは品質とデザインの両方を強化しながら、ガラス事業の次の段階へ進もうとしていた。
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一方、学問所では新たな実践課題が出された。
「次の課題は、架空の都市国家を運営し、税制や交易政策を考えるものだ」
グスタフ先生の説明に、クラス内がざわめく。
「つまり、貿易と財政管理を学ぶ実践演習ですね」
テオドールが興味深そうに言う。
「そういうことだ。各グループごとに役割を決め、自分たちの都市がどう発展するかを考えてもらう。成功すれば富が増え、失敗すれば衰退する。交易品の価格変動もシミュレーションするぞ」
「面白そうね。じゃあ、私たちはどうする?」
フレデリカが俺に問いかける。
「俺たちは商業国家として発展を目指そう。交易を活発にして、どの資源が重要かを見極めるんだ」
エリザベートやテオドールもうなずき、俺たちは都市運営の計画を立て始めた。
この授業を受けながら、俺はふと考えた。
(この内容、俺が現代の知識を持っているからなんとか理解できるけど……11歳の子供が学ぶにはレベルが高すぎるんじゃないか?)
周囲を見渡すと、貴族の子弟たちは比較的スムーズに議論を進めていた。フレデリカやテオドールのような生徒は、既に入学前からこうした学問に慣れ親しんでいるようだ。
(なるほど……貴族の子供たちは幼いころから家庭教師をつけて勉強しているのか。一方で、商人の子供や平民の子供には、そんな時間も金もない。だから、学問所に通える平民の割合が少ないんだな)
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学問所での都市運営シミュレーションを進める中で、俺はガラス事業にも応用できる新しいアイデアを思いついた。
「ガラスはただの贅沢品ではなく、都市の発展にも貢献できる。例えば、光を取り入れるための建築用ガラスを普及させたらどうだろう?」
「確かに、街の中にガラスを使った建築が増えれば、景観も変わるし、貴族だけでなく商人層にも需要が生まれるわね」
エリザベートが鋭く指摘する。
「その方向で商会に提案してみるか」
俺は商会に戻ると、オットーと共に父に新しい市場展開の可能性を話した。
オットーも熱心に説明を補足しながら、「なるほど、都市整備に関連する需要を狙うのは面白いな。王都の建築家とも話をつけるべきかもしれん」
父も興味を示し、新たな販路開拓の一歩が始まった。
(学問所と商売、それぞれの経験が相互に影響し合っている。俺は両方を活かして、この世界での成功を掴んでいきたいな)