第12話 初めての受注と工房の挑戦
ヴァルター男爵との商談が無事成立し、俺たちは正式な受注を得ることになった。これは商会にとっても、ルートヴィヒの工房にとっても大きな前進だ。
「やりましたね、マクシミリアン様!」
オットーが満面の笑みを浮かべる。商人としての手腕を発揮し、貴族相手に商談を成功させたことが彼の自信につながったのだろう。
「これが始まりだよ、オットーさん。でも、ここからが本番だ」
「はい。まずは納品スケジュールと生産計画をしっかりと立てる必要がありますね」
俺たちは商会に戻り、父に報告をした。
「ほう……貴族相手に初めての契約とは大したものだ。だが、受注したからには確実に納品しなければならんぞ」
父は満足げではあったが、同時に慎重な口調だった。
「そのためにも、工房の生産体制を強化する必要があります」
俺はルートヴィヒの工房へ向かい、今回の契約について説明した。
「ふむ……つまり、安定した品質のガラスを、決められた数だけ納品する必要があるってことだな」
ルートヴィヒは炉の前で腕を組みながら考え込む。
「今の弟子たちだけじゃ厳しいかもしれねえな……新しい職人を雇うか?」
「その前に、作業の効率化を考えましょう」
俺は以前から考えていた生産管理の仕組みを提案した。
―――
「まず、作業工程を整理しましょう」
俺は木板に作業の流れを図示しながら説明する。
1. 砂の選別と洗浄
より純度の高い砂を確保し、不純物を徹底的に取り除く。
2. 溶解炉の温度管理
均一な品質のガラスを作るために、温度を一定に保つ工夫をする。
3. 型による成形の標準化
熟練した職人だけでなく、弟子たちでも作業を進められるよう、型を活用する。
4. 品質チェックと仕上げ
最終的に形が崩れていないか、傷がないかを確認する。
「つまり、各工程をしっかりと分担し、効率的に進めることで、生産を安定させるということですね」
オットーが頷きながら補足する。
「さらに、今回の納品分だけでなく、次の受注を見越して材料の確保も進めておくべきですね」
「なるほどな……坊主、お前、商人の息子ってだけじゃなく、こういう管理の才能もあるんじゃねえか?」
ルートヴィヒが苦笑しながら言った。
「まぁ、前世で培ったものがあるからな」
「……何?」
「いや、何でもない」
少しヒヤッとしたが、ルートヴィヒは深く詮索せず、作業に戻った。
「よし、まずは試験生産を始めてみるか」
―――
試験生産の第一弾が開始された。
炉の温度を一定に保ち、弟子たちにも作業の手順を細かく指導する。ルートヴィヒは熟練の技で最初の数本を作り、弟子たちはそれを見本として動き始めた。
「おい、ガラスが歪んでるぞ! もっと均等に型に流し込め!」
「温度が少し下がってしまいました……再加熱します!」
工房の中は活気に満ちていた。俺もオットーと共に、進捗を確認しながら次の段取りを考える。
しかし、ここで新たな問題が発生した。
「……ガラスの気泡が増えている?」
出来上がった試作品を確認すると、微細な気泡が混じっているものが多かった。
「これは……炉の温度が安定していないのか、それとも原材料の問題か?」
俺はルートヴィヒと共に原因を分析し始めた。
「高温になりすぎても気泡が出やすくなる。逆に温度が低すぎると、完全に溶けきらねえ」
「つまり、温度管理をさらに厳密にする必要があるな」
こうして、俺たちは新たな課題に取り組むことになった。
(ガラス作りは想像以上に奥が深いな……だが、これを乗り越えれば、確実に成功へと近づく)
納期まであとわずか。俺たちの挑戦は、まだ始まったばかりだった。