第11話 試作品の完成と市場への第一歩
商会の支援を受け、俺たちは本格的な試作品作りに取り掛かった。
「ルートヴィヒさん、型を使ったガラスの成形を試してみましょう」
「型か……。今までは全部職人の感覚で作ってたが、確かに均一な形を作るには良さそうだな」
俺たちは試しに、シンプルなコップと酒瓶の型を用意した。弟子たちも興味津々で作業を見守る。
「まずは溶かしたガラスを型に流し込んで……」
ルートヴィヒが慎重にガラスを注ぐ。今までとは違う成形方法に、職人たちも緊張している。
「おい坊主、型から外してみろ」
俺は慎重に型を外し、取り出した。透き通ったガラスのコップが現れる。
「おお……!」
光にかざすと、市場に出回っているものよりもずっと透明度が高い。
「これは……売れるぞ」
オットーが目を輝かせる。商人として、品質の良さがすぐに分かったようだ。
―――
試作品が完成したことで、次は販売先を決める必要があった。
「まずは貴族向けの試作品として、何人かに見せて反応を見よう」
俺は商会の顧客リストを確認し、富裕層の商人や貴族に売り込むことを決めた。
「私が交渉を担当します。信用のある顧客を選び、見本を持っていきましょう」
オットーが前線に立ち、サンプルを持って回ることになった。
「そして、俺は工房に残って、量産の準備を進める。貴族向けにするなら、さらに精度を上げる必要がある」
ルートヴィヒも納得し、弟子たちと共に量産の試行錯誤を繰り返した。
―――
商談の日、俺たちはヴァルター男爵の屋敷へと向かった。馬車の揺れとともに、俺の胸は高鳴る。貴族相手の商談は初めてであり、うまくいかなければ今後の事業に影響を及ぼすかもしれない。
ヴァルター男爵の屋敷は、街の中心から少し離れた高台に位置していた。門をくぐると、広々とした庭が広がっている。派手な装飾はないが、手入れの行き届いた低木や整然と並ぶ石畳の小道が、男爵家の気品を物語っていた。
建物は石造りの二階建てで、頑丈ながらも質素な印象を与える。装飾よりも機能美を重視した造りで、貴族としての派手さよりも実用性を重視する姿勢が感じられる。扉は重厚な木製で、金具は磨き上げられているものの、華美な装飾は見られなかった。
執事に案内されながら廊下を歩く。壁には代々の男爵が治めてきた証となる家紋が刻まれており、絵画や彫刻といった芸術品は最小限に留められていた。床は磨かれた石造りで、落ち着いた雰囲気が漂う。
「こちらでお待ちください」
執事に案内された部屋もまた、質実剛健な雰囲気だった。大きな窓からは庭が見渡せ、日差しが暖かく差し込んでいる。重厚な木製の机が中央に置かれ、背の高い椅子が並んでいた。
扉が開き、ヴァルター男爵が現れた。彼は三十代中盤の男で、がっしりとした体格と落ち着いた眼差しを持っている。装飾の少ないシンプルな服装は、彼の実直な性格を表しているようだった。
「これは……確かに素晴らしい透明度だ。今までのガラスとは違う」
ヴァルター男爵は、光にかざしてガラスの出来栄えを確認している。
「王都でもこのようなガラスは見たことがない。もし大量に揃えられるなら、ぜひ注文したい」
「ありがとうございます。納品の規模と価格について、ご相談させていただきます」
オットーが冷静に交渉を進める。俺たちのガラスが、正式に市場へと出る瞬間だった。
(これは、俺の商売の本当のスタートラインだ)
俺たちのガラスが、ついに市場へと第一歩を踏み出した。