第10話 新たな市場探し
ガラスの改良が進み、次なる課題は量産体制の確立だった。
「いくら良いガラスができても、安定して作れなきゃ意味がねぇからな」
ルートヴィヒは炉の前で腕を組みながら言った。
「大量生産を考えるなら、まずはどれだけの原材料を安定して確保できるかが問題ですね」
オットー・ラングが横で頷く。彼は砂の調達を担当し、現状では新たな採取地の確保も進めていた。
「この前の砂は良質でしたが、安定供給できるかはまだ分かりません。商会としても、輸送や人員の確保を考えねばなりませんね」
「つまり、ザイドル商会を本格的に巻き込むってことだな」
俺は商会の協力が必要不可欠であることを改めて実感し、父に相談することを決めた。
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父の執務室に入り、俺はこれまでのガラス開発の経緯と今後の展望を説明した。
「ほう……。確かに、お前が言う通り、良質なガラスが安定供給できれば、大きな商機になりうるな」
父は顎に手を当てながらじっくりと考え込む。
「しかし、商会として投資する以上、採算が取れる見込みがなければならない。ガラスの用途をもっと明確にする必要があるな」
「用途ですか?」
「市場でどの層に売れるのか、どんな需要があるのか、そこをしっかり分析しないと、大量生産しても売れ残るだけだ」
父の言う通りだった。俺は今までガラスの品質向上ばかりに目を向けていたが、販売先を具体的に想定することが必要だった。
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商会の帳簿を調べ、エーバーハイムの市場を分析してみると、ガラスにはいくつかの活用方法が考えられた。
1. 窓ガラス- 貴族や富裕層の屋敷向けに高品質な窓ガラスを販売する。
2. 鏡 - より透明度の高いガラスを使えば、貴族の装飾品としての鏡が作れる。
3. ランプカバー - ろうそくの光を和らげるガラスのカバーも需要がありそうだ。
4. 酒瓶・食器 - ガラス製の食器や酒瓶は、特に都市部の商人に需要が見込める。
「なるほど……。これらの需要を考えると、富裕層向けの高級ガラスと、実用品向けの標準ガラス、二種類に分けるのが良さそうですね」
オットーが市場分析を手伝いながら提案する。
「そうか。なら、まずは貴族や富裕層向けのガラスを少量生産して、需要を確かめるのがいいな」
「そうだな。それなら商会としての投資もしやすくなる」
父も納得し、商会としてガラス事業への本格的な参入が決まった。
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商会の支援が決まり、次に考えるべきは工房の生産能力の向上だった。
「今のままじゃ、弟子たちの手作業だけで対応するのは難しいな」
ルートヴィヒが渋い顔をする。
「炉を増やすしかねぇか……?」
「それもそうですが、もっと効率的に作業できる方法を考えるべきです」
俺はガラスの成形方法を見直し、型を使った量産技術の導入を提案した。
「今は全部職人の手で形を作っていますが、ある程度型を使って成形できれば、より均一なガラス製品を作れます」
「なるほど……。確かに、手作業よりも安定するな」
こうして、俺たちは型を使ったガラス成形の実験を進めることにした。
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商会の協力を得て、ガラスの新たな市場が見えてきた。
「次は、試作品を作って実際に市場に売り出してみるか」
「そうですね。貴族や富裕層の関心を引くために、試作品を持ち込む先を決めましょう」
俺はオットーと共に、次の展開を考え始めた。
(これは、俺の商売の本格的なスタートになる)
量産技術、販売戦略、そして新たな市場の開拓——
次の課題に向けて、俺たちはさらに動き出すことになった。