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怪人と佐々木史郎

この頃になると、ほぼ遠藤平吉が基本になっていた。元々の基本人格である家路写楽は逆に成りを潜めていた。


家路は暇さえあればミステリー小説を読んでいた。その知識は私にも入ってきていた。基本的に、人格が入れ替わればその時の人格の記憶は消えるものであるが、常時慣れ親しんだ物事については受け継がれていくようだった。

家路の記憶の断片に出てくるミステリーの記憶は新鮮で、私自身もミステリーを読むようになった。


家路が隠れて30数年が経つ。私も正義の為に尽くせるのは数年しかないと思うと非常に寂しいと思うようになった。

そんなある日、私は持病の為、精神科病院を訪れていた。何やら騒がしく暴れる男性が、取り押さえようとするナースの手を振り払って暴れている。

私はいてもたってもいられず、彼女らの間に仲裁に入った。興奮状態の男を宥めると、まるで人が変わったように大人しい男になった。

職業柄、名前を聞くことが癖になっていた私は落ち着いたその男をベンチに座らせながら名前を聞いた。

佐々木史郎と、その男は名乗った。

どうやら多重人格と夢遊病で悩まされているようだった。


私は精神科に通院する度に、その佐々木史郎という男と雑談を交わすことが何よりの楽しみになっていた。

佐々木は、私より1つ多く人格を持っていた。基本の佐々木史郎、興奮状態の男、そして岡田という男だった。岡田に関して聞くと、医者の話では、落ち着いた史郎と興奮状態の男を足して二で割ったような男だと言っていた事を教えてくれた。私は岡田に興味が湧いた。直感的だが、岡田とは話が合いそうだと思ったからだ。

私は岡田に会いたいことを話すと、快諾してくれた。実は史郎は常に別人格の挙動に怯えていたのだった。眠ると人格が入れ替わる為、それを少しでも理解してくれる人、見張ってくれる人がいれば、それだけ安心して眠れるということだった。

早速その日に佐々木のアパートに訪ねることにした。

佐々木のアパートは富沢駅から徒歩10分程の、交番にも近い場所だった。私はあまり非番の日に同業者に会いたくはないので家で過ごすことが多いが、この時は致し方ない。交番前の通りを道路を隔てて通る。

内田と、最近入った二宮が留守をしていた。遠目に見た為か、私には気づかなかったようだ。佐々木のアパートに向かう。


佐々木は取り憑かれたように料理をしていた。料理をしてはタッパーに物を積めていた。

どうやら夢遊病の人格者、岡田はこうでもしないと至るところを汚すということだった。何を言っているのか分からなかったが、見てみれば分かる事だと思った。

佐々木史郎が料理を終わり寝床につく。定点カメラを仕掛け、私はカーテンに隠れた。

史郎のいびきが聞こえてきたその時、いびきが止み、むくりと史郎が起き上がった。

その顔は、史郎とはまた違う男の顔だった。

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