怪人の正義
正義の為
正義の為
正義の為
正義の為
正義の為
...
私は幾度と無く唱えながら職務を全うした。
異動人事も昇格人事も断り続け、
個人の利益より他人の利益、
他人の利益より地域の利益、
地域の利益より日本の利益、
日本の利益より世界の利益、
世界の利益より人類の利益。
私が地方の交番に勤務することで、それが全体的な利益に繋がることが何よりも幸せであった。
しかし、それを覆すことが正義に反することならば、覆した人物ひいては社会全体、人類全体に徹底的に正義について学ばせることが必要だと思うようになった。
ある日、交番に自転車を取られたという相談があった。
自転車の特徴を聞き、近くの自転車置場を探してみると、やはり無い。
勤務交代の後、明くる日まで自転車置場を見張っていると1人の初老の男性が似た自転車に乗っていたので声をかけ職質をかける。相手は知らぬ存ぜぬで来るものだから、とりあえず防犯ステッカーを照合することにした。
すると、先程までの知らぬ存ぜぬで通そうとしていた男が世話しなく理由を述べてその場を離れようとする。
そのうちナンバーが照合され盗難車であることが分かった。その為交番まで同行を願うと逃走したので足を折ってやった。
なんて事をしやがるだのなんだのと、地域住民のご迷惑になる程煩いので、口を塞ぎ失神させた。どうにも動かない上に、私は非番であることを思い出したので、男を近くの川に連れていき浮浪者の家に預けた。
その度に行方不明者の届け出が増えた。しかし、私は浮浪者の家に預けただけで、その後の足取りは分からない。何より、正義に反した者には学ばせなければならない。
その為、街で偶然捜索願の出ている者を見ると、気軽に話しかけてきて礼を言われる事は多々あった。皆、忙しそうに礼だけ言って帰っていく。もと来た道を戻ることも多々あった。わざわざ礼を言いに来るまでに成長したのだと、私は足を折ったり鼻を折ったり窒息させたりして良い行いをしたと心から思った。