怪人のレシピ
私が中学生に上がると
周囲の兄を知る先輩連中は
兄の弟だというだけで寄ってきては
勝手に期待していった。
期待とは、私が兄の弟であるからこそで、私に向けられた期待ではなく、あくまでも兄に向けられた期待であった。
文武両道、容姿端麗、人徳もあり、兄に対しての期待感とは裏腹に、私はそれとは似ても似つかぬほど普通であった
それも、兄の期待あっての「普通」ということで、兄がいなければ私は普通以下である。大きく見積もって普通なのであった。
私は私なりに頑張ったが、しかしそれでも兄に対するそれには劣るもので
私はそのうち
兄に対しても嫌悪感を抱くようになった
が、
自我が芽生え自己を認識、肯定する事で私はなんとか私を保つことができた。
その頃になると
内在する遠藤平吉は成りを潜めるようになった。
高校生になってもそれは続いた
時々覗く遠藤平吉を尻目に
私は私として成長していった。
その頃になると、
遠藤平吉を自在に御する事が可能となっていった。
しかし、そこまでであった。
大学に上がると、
内在する遠藤平吉が顔を出す機会が増えていった。
環境の変化は大きく、また、自己否定を繰り返すことで、遠藤平吉は私の予想を上回る勢いで成長していった。
その頃になると、御することはおろか、内在する筈の遠藤平吉が基本となる日も幾日か出てくるようになり、卒業する時には、1日のうちに半分は遠藤平吉になっていったのだった。
社会人になり、まるでうだつの上がらぬ私はバイト生活を余儀なくされた。飲食店のアルバイトから始まり、そのうち、バイト生活から抜け出すことを目標に、警察の一般職を受けることにした私は、何とかその職をもぎ取ることが出来た。
私は宮城県警富沢駅前交番勤務配属が決まった。
両親にも顔向けできるようになり、毎日正義の為に働く事を天職と思った私は、生涯をかけて地域の正義の為に働く事を肝に銘じたのだった。