「絹糸」
ここは暗い。たまに明るくなったと思ったら、ご飯が置かれていく。両の手足は壁に繋がれている。一糸まとわぬ姿だが寒くは無い。ここで私は生かされている。
ここはまるで繭の中だ。生命の心配は無いが、それ以外もまるで無い。ただの部屋の明暗で、誰が喜ぶのだろうか。まったく、陽の光が恋しいものだ。
最近、気付いたことがある。この繭は他にもいくつもあるのではないかと。私1人を閉じ込めて、何をするでもなく生存させることに意味は無いだろう。つまり、比較対象がどこかにいるのでは無いだろうか。しかし、私を何と比較するというのだろうか。
普段と変わらぬ46,722回目のご飯の時間、43,075回目の排泄、128,792回目のため息。こういうものも統計が取られているのだろうか。人の探究心とは恐ろしいな。そういえば、僕の排泄物はどこに消えているのだろうか……暗くて何も見えない。
ああ、流石に暇だ。この世界は視覚的にも物理的にも行動範囲が狭すぎる。いっそのこと素数でも考えるか。1、3、7、11……。
ーーーなあ。
ーーーん?
ーーー今、観察対象から未発見の素数が出てこなかったか?
ーーー検証してみるか。
ーーーそうだな。
ーーー……これ、ちゃんと素数になってやがる。
ーーーこれでまた論文が書けるな。
ーーーあぁ、割のいい仕事だ。
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