損な性格
一つ下の妹は利かん気が強く私よりずっと優秀だった。
中学の時、「二人姉妹のどちらが大学まで進学とする?」という話になり、結局、私は商業高校へ進学し、卒業と共に、とある企業の支店の事務職に就いた。
入社した頃はそれなりに初々しかったし、社員は男性ばかりだったので、その“物珍しさ”から生まれて初めてちやほやはされた。
普通なら、この“一時の夢”から醒めて痛い目に遭うところだが……
幸い、私を“センパイ”として指導して下さったパートのお姉様が“気っ風がいい”という感じのお人柄で……随分とお世話になった。
私にはとてもセンパイの真似は出来ないけど、受けたご恩を少しでも“後輩”に返したいと思っている。
一方、妹は四年制大学を卒業し、3年後に結婚、出産と相変らず我が家の話題を独り占めで……孫の顔を見せに来たついでに冷蔵庫の中や積まれたお歳暮達からめぼしい物を“真っ先に”ゲットしている。
私とて姪っ子には目が無いので……妹は私や母に子供を預け、思いっきり羽を伸ばすという構図だ。
そんなわけで、私の事はとやかく言われなかったのだが、さすがにアラサーの声を聞く年になると、耳の痛いお小言が多くなり、私は思い切って独立する事にした。
妹からは
「オトコには敷居を高くしなよ!じゃないとチンケな男が入りびたるただの“ヤリ部屋”に成り果てるんだから!」
なんて言われたのだけど、浮いた話など皆無な私は
「うん!分かってる」とお茶を濁した。
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そんな私のお部屋を最初に訪れたのは迷いネコのチャチャで……この“新しい妹”に会いに来てくれたのが後輩の吉永君と相田さん。
初めての“人間”のお客様で、私は腕に撚りを掛けた料理をふるまい、痛飲してノリノリの二人にノンアルビールでムリムリテンションを上げて付き合った。
主に相田さんが吉永君に話を振って吉永君がそれに答える。
私は感心したり相槌を打ったりしながら飲み物やおつまみの補充をする為に席を立ったり座ったりしている。
で、レンジがチン!と鳴ったのでクッキングシートの上のカニカマをひっくり返しさらに過熱、キツネ色になったのでお皿に取って持って行くと、スヤスヤ寝入った吉永君に相田さんは自前のブランケットを掛けてあげていた。
「あ! 毛布持ってくるわよ」と言うと
「毛布は、いーですからタオルケットとバスタオルを貸してクダシャーイ」とケラケラ笑う相田さん。
「エッ?!エッ?!」と戸惑うと
「センパイはチャチャと一緒に向うのお部屋で目と耳を塞いでいてくださ~い!!」なんて言う!!
実は心の片隅で『吉永君、いいなあ』なんて思っていた私だけど、相田さんの目の奥の“恐ろしい圧”に負けてチャチャと猫用トイレを抱えて奥の部屋に逃げ込んだ。
“酔った勢い”の相田さんの……何度もトライする声が聞こえて来て、
私はオンナの恐ろしさを目の当たり?にし、チャチャを抱き締めて震えていた。
そんな夜が過ぎ……
翌朝は相田さんも吉永君も無言で……朝ごはんも食べずに帰ってしまった。
二人を送り出した私はモワンとくぐもった空気を、窓を一斉に開けて掃き出し、結局掃除に明け暮れた日曜日となった。
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『実は“関連会社”の御曹司だった吉永君!!……“玉の輿狙い”の相田さんはお局様の部屋で激チン!!』
こんなタイトルのトピックスが若い子の間で飛び交っているのを“当事者”の吉永君から直に見せられて初めて知った。
「今回の事でセンパイには大変ご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ございません!!」
「私はたった今知った事で、どうしてこういう噂になったのかは分からないんだけど……大丈夫?」
「はい! 絶対センパイにはご迷惑をお掛けしません!! 本当に……僕がチャチャを見に行きたいなんて言わなければこんな事にならなかったのに……全て意気地のなかった僕が悪いんです!!」
「違うの!私が言いたいのは『あなたが大丈夫か?』って事!!……まあ、お局さんのネコを見に行くなんて、勇気のいる事かもしれないけど……チャチャを見に来てくれるって聞いて考え無しに喜んだ私がいけなかったの!だから……」
そう言うと吉永君はますます恐縮して言葉を継ぐ。
「本当言うと、キッカケが欲しかったんです! その……センパイと親しくなりたくて……」
こんな、私にとっては一生に一度も聞けないかもしれない言葉に!!
「へっ?!」
と間抜けな返答をしてしまった私なのだけど……
今は妹に負けないくらい幸せで……チャチャと二人してカレにじゃれ付いている。
ここに至るまでの紆余曲折の“愛の物語”をお話するには、もうページ数が足りないので、ひと言だけ……
「損な性格の私でも、幸せになれたよ!」
おしまい!☆
昨日、愚妹のしろかえでが私の真似をしてくれたので、今日はその“お返し”です(^_-)-☆
ちょっとは可愛いく書けたでしょうか??
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