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成り損ないの魔女  作者: 白河田沼
第一章 鏡の国
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第08話 ておくれ

気付けば全て手遅れだった時、人には二つの選択肢が用意されているという。


まず一つ目は狂うこと。

人が正気を保てなくなるのには段階がある。

五つの順序からなるそれは初めに過ちから始まる

次に平静と不安。

そして次に発覚


最後の破滅

そうして初めて成してしまった事の重みに耐えられず自分を保てず、ヒトは狂うのだ。



そうして二つ目、抗うこと。

過去は消えない。

事実は曲げられない

罰からは逃れ得ないし、罪も決して無かったことになど、出来はしない。


ならばせめて、これからの未来を変えてみせよう。

そのどうしようもなく意地汚く、醜い足掻きをして初めて人は正気を保てる

前を向いて、明日へと踏み出せる。



思えば今までの、私が選んだのは後者なのかも知れない。

いいや、これは烏滸がましい話か、

私には「力」など無かった。

皆を救う力も、皆を助ける力も

どころか昨日の事さえ覚えていなかったのだ

記憶力すら心配な私に()()をどうにか出来るとは考え難い。

そう、この光景を見た時には


クリミナが頭から食べられているこの惨状を見た時には。

ソレに気付いた時には全て手遅れだったのだ。






ガラガラという音に目を開いた時には目の前には粉塵があった。

半分が赤い粉塵、瞼がやけに重く頭が何故か痛む。

どうなった、私はさっきまでクリミナに荷物のように運ばれて、それでふと振り返れば・・・

この頭の鈍く鋭い痛み、すぐに直感した。額が割れている。左目に血が入る程。

少し咳き込んだ後土埃の中辺りを見回す

白色の厚い壁の破片、それが足元に、そして手元に、大小雑多に転がり。そして出っ張った棒状のソレが左腕を支えている。

右腿と腹部に感じる冷たい異物感。

これは一体・・・


「何がどうなってッ、っゴホ、ゲホ、ゲホ。」

咳き込んだ途端鉄の味が咥内に広がり、口の端を生暖かい液体が伝っていた。

それを手の甲で拭えば、鮮やかな赤が視界に納まる

「え、これ、何?」

今、再び目を開いた時は赤からなる歪な円がその一部を一滴、一滴と滴として手甲から母指球にまでしたり落としていた。


チだ、チ。血が流れている。


「ッ、ゲホ、ごほ、オエ。」

そう心付いたタイミングで背中と腹腔に痛みが奔りまた咳き込む。


咄嗟に血の付いていない片方の手の平で受け止めた。


吐きそうだ、痛みで、

腿も、というより体の節々も痛い、、、どうなってる


「ゴホ、ゲホ、ゴホゴホゴホ・・・・・」

内臓全てを吐き戻してしまうのではないのかという吐き気と痛みに朦朧とする視界には鮮やかな赤と左の掌に在る人肌程のぬるいソレ

首がガクリと垂れればそこには紅く染められた尖った石材が顔を覗かせていた

半分ではない。ソレそのモノが血に染められている。

円錐型の瓦礫が貫いていたのだ私の体を足を、文字通り

他でもない私の血をべったりと付けて

「ッ、~~~~~~~~~」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛い



「ッ、、はぁ、~~、はぁ、、はあ。~~~~~~」

息を吐いて痛みをやり過ごそうとしても却って腹の傷が疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く疼く痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛む痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い



「は、、、、ッハ、、、、はは。」

一体なんだ、なんだというのだ。

今日は最厄の日か、何かか。それともこれで終わりなのか。

()()で、()()()()()()

左の掌に、赤い視界に薄い紅が二滴落ちる


「どうして、私が。

あの時、彼女を助けられなかったからでしょうか」


そんな言葉が漏れた

そんな臍を噛むような言葉が、そんな己の無力をを悔やむ言葉が

けれど、、、


「もう、遅い、、、、か。」

その言葉と共に舌を噛み切ろうとして、視界が晴れた






私の視界にはソレとクリミナが映っていた。

ソレ、私が意識を失う前最後に収めた、竜。濁った白の爪に白い鱗、真っ白な肌、朱い瞳を持つ美しい竜。

私は顔を上げ視線をなけなしの力を振り絞って戻すことによってそれを見る事が出来た。

腹に穴の空いた摩天楼、白の壁と灰色の床に挟まれたソコにその竜が、「居た」。

気品を感じるその居住いにはしかし気を取られてはいない

口を傘のように広げ、何かを喰らおうとしている。


「クリ、、、、、、、、み、、、、、ナ。」

幼女が、クリミナがその下にいた。

体の節々をあらぬ方向に曲げたまま

肌も、髪も、何もかも血塗れの姿で、血の海の中で目を瞑って、

立っていた、捻じ曲げられた足で




「クリ、、ミナ、、、、に、、、、、げて。ゴホ」

体なんてどうでも良くって腹や腿に感じる異物感と体中の痛みを歯を食い縛ってやり過ごし、なんとか言葉にした。けれど喉から出たのは微かな声。

先ほどまでのような小さくともはっきりとした物ではなく、ほんの少しの、風で掻き消されてしまいそうな、弱弱しい、自身の力を振り絞ったとも思えない、それ。


どうして、有り得ない、何故今に限って。

自身に関する問いは尽きない

「役立たず」

そんな言葉が頭に浮かぶ

・・・果たしてその声が聞こえたのか、彼女が目を開く

金に染まった、(みどり)の瞳を、、、、




眦から涙がこぼれ落ちる。

(あか)い涙が

幼女(クリミナ)の唇が微かに震えた


「・・・・・無念じゃ。」


その言葉と共に傘は閉じられた。


無情にも

無残にも

血の海を残して


()()()()()()()()

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