第05話 '運命"が扉ごと噛み砕く音
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お兄ちゃん、か、
そんなこと初めてあった時も聞いたことなかったな。
思えば私たちが初めて顔を合わせたのは中学2年生の頃。
今のボケボケ優等生である私と、ツッコミ担当劣等生の井伊波の、偶に話すけど正直挨拶しかしていないし、私としては苦手という。
関係とは、少しだけ違っていた。
具体的には私が成績不良、彼女が成績良好の、
アベコベコンビだったのだ。
・・・いや、それは嘘だな。
嘘というより、言葉が、説明が足りていない。
いいや、足りていないとは言っても当時の私達の関係を表す言葉が足りていない。決定的に、根本的に、
順を追って言おう、私たちは当時とても仲が良かった。
◼️
「そんな重要な回想より、まずは私のお兄ちゃんの話をしようよ〜、前回スッゴイ意味深な感で終わったじゃん。きっとみんなもそっちの方が気になってるって〜」
・・・・世の中の大半の人はね、友達の優秀な兄の話より、かつて親友だった子供たちがどう仲を拗らせたかの方が興味があるんだよ。
あと、メタイ話禁止。
「・・・・・」
どうしたんだろう何故黙るのだ?
「・・・・・・・シアちゃん。
わたし普通に心配になってきたんだけど、視界が潰れて、体もうごかせないのに、その話、が誰に需要があるとか、そんな小さいこと気にしてる場合?
バカじゃない、っていうのは、まぁわたしをあれだけの間、騙したから違うって言えるけど、それにしても危機感ってものが足りないんじゃないかな。
いや、人が倒れているのになんの気なしに私達の過去回想から、自分の兄の話の方が価値があるとしてすり替えようとした、私が言えることでは無いけど。」
・・まぁそれもそうか、メタイ話というツッコミを何の気なしにスルーしたのは置いといて、
わたしに危機感が足りないという彼女の認識は、正しい。
けど、その危機感の無さもある意味私らしいと言える。
「詳しく話して、魔女の血の適正条件が何か知っているよね。」
根性があるかないかでしょ。
覚えてるよ
「なら、早く話してほしいな。、あなたにはもう、、」
確かに私には時間がない、目も見えなくなるどころか今は、、口すら
さぁ言えるうちに早く行ってしまおう、シア。
「つまり私は、考え方がずるいだけなのだ。」
◼️
「その言葉を聞いて安心した。」
え、、今ので、私の回想終わり?
「終わりだよ」
え、うそ私のむっちゃ重要そうな回想、さっきのなんとでも解釈できる一言だけで、終わりなの?
「終わり、だって言う必要がないもの。」
、、、、それはつまり、私にはそれ以降の話を聞く必要が無いほど、根性なしのヘタレ女、ってこと?
「うんう、違う。貴方はね、とんだ根性の持ち主だよ。」
「理由は言わないけど」なんていう言葉もあとに聞こえたがそれよりも重要な言葉があった。
「とんだ根性の持ち主」か
そっか、、、
なんか良かった。
「・・・そんなに他人の評価が気になるの?
いつもは、他人の様子なんてなんのそので、いきなり変なことしたり。さっきみたいにボケ倒したりするのに?
それに今だって喋れるギリギリの状態なのに?」
他人の評価、か。
まぁそれも気になるけど、貴方は他人じゃ無いでしょ
「他人じゃ無いならなに、赤の他人?」
友達。
「は?」
・・・・今のやり取りで確信したよ、私たちは友達だ。
「、、今のやり取りの何処に友達だって確信するところがあったの。少なくとも貴方の中の私に対する評価は精々が人殺し、悪く言って、サイコキラーってとこじゃ無いの?死ぬほど恨んでるからって、人を細切れにした、ただのやばい女じゃ無いの?」
「確かに、貴方は人を殺した。
それもどうやったかは知らないけど1センチ以下の肉片にして、加えて肉片の価値を否定したら発狂するし。
けど、さっき会話して、
そのデリカシーは無いけど、私を心配してくれる言葉の数々で、私は貴方にあった時からしてた都合のいい楽観がただの私の勘じゃなくって、本当のことだって信じられるようになった。」
「それは、その楽観って言うのは何。」
気になってしまうのだろう。
無理もない、私だってこんなふうに言われたらつい気になって、聞いてしまうのだろう。
だから、私はこう答える私らしく、
ずるい言い方で。
「これ以上は無粋。
貴方が私に教えてくれた言葉だよ。」
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「はは、本当に、ずるいや。
狡くて、賢くて、けど、本当にあなたらしい。」
そう言う彼女の顔はきっと満足げだ。
「きっとって、もう自信無くなっちゃったの?
あれだけ人を騙くらかしてくれちゃったくせに、それとも、もう。」
あぁ、時間のようだ。
少し眠くなってきた、口も動かせない、ぶっちゃけ耳も聞こえるギリギリくらいだ、これで詰みか、、
「待って、うっかり死のうとしないで」
・・なんだ?
こっちは、考えるのだってギリギリなのに、もう少し寝かせてほしい、あとで宿題はやっておくから。
「馬鹿、死んだら宿題も何もできたものじゃないでしょ!
今からなんとかするから、気合いで意識保って!!
あと、変な寝言言いながら死のうとすんな!!!」
荒技なら受けないぞ、
貴方の力を死体になる女に使わせるわけにはいかない。
どんな力かすら知らないけど。
そう言ったのに私はそのすぐあと不穏な言葉を聞いた。
「なら、新技なら言い訳だ。」
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え、もう死んでいいですか?
「ダメです、死んでも生かします。
あと、死んでもいいですか?なんて、こんな状況で聞かないで!殴り倒すよ!!」
うぇ、怖い。
そんな私のリアクションを一切気にすることなく、彼女、井伊波は一方的に言葉を告げる。
「私の魔女の血の大半を貴方にあげる。だからそれを使って祈るの!!」
なにを、どうやって。
「私に力を貸しなさい!!
って、一方的に、そうすれば血は叶えてくれる。
何故ならそれは、貴方が抱きうる最も強い欲望に反応する筈だから」
わかったけど、一体どうやって血を・・っ
いきなり立ち上がって近づいてきて、どうしたのって・・・まさか?!
「そう、この私の血を分ければいいのよ、
切った手首からこぼれ出した新鮮な魔女の血をね!!」
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「なにしてんの?!
手首切ったりしたら本当に貴方死んじゃうじゃない!!」
そう言ったのは私だった、まさか本気を出しても小声を出すので精一杯だった、今の私にここまでの力が残っているとは。
こいうのを火事場の馬鹿力というのだろうか?
いや、今そんなことどうでもいい、マジでどうでもいい。
とっとと消えろ!!余計な考え!!!
目は見えない、体も動かせない、耳もギリギリ、鼻はそれなり、彼女の鉄錆の匂い、血の匂いを嗅げる!!まだ!!!
それと、首だけならギリギリ動かせる。口もまだいける、、
はやく止めないと!
そうして、彼女を止めるために動かした口は、悲しいかな。
彼女のこぼした血を受け取るのにちょうど良い場所にしか動かすことが出来ず、
そのまま手首から出る大量の血によって喋る機会を奪われてしまった。
・・・いや、悲しいかなじゃない、最悪だ、、
彼女がどんな魔法を持っているかは知らないが、魔女の血の大半と言っていた。
たとえ治せる力を持っていてもそれを失えば、私に渡せば、
それは明らかに手遅れだ。
もう、彼女の傷を治せない。
そもそも私がちゃんと力を手に入れられるかすらわからないと言うのに、そんなことをすれば井伊波は確実に、、
「死んじゃうかもね、、けど、いいんだ。私に悔いはないよ。」
そうして首しか動かせない私の顔にそっと手が添えられれば消えた
温もりを感じる
彼女の体温を感じた
彼女の鼓動を感じた
彼女の心を感じた
直感で彼女が抱きしめていることが分かった
自身の膝を枕にし軽く抱きとめる事にも、それに困惑しているのをまるで気にせず彼女は話しを続ける。
「私達は友達、なんでしょ。」
・・・そんな当たり前だけど、今の私が最も欲しかった言葉を発した後、
まるで、人の半身を噛み砕いて飲み込んだような
音が聞こえた