第04話 行動推定
「貴方が手に持ってるその子のおかげだよ」
なんの気なく言った彼女の言葉は、さらなる困惑をもたらすのに十分だった。ん、いやそれよりも、、、
「さっき喋れたよね、は?って少しだけ聞いた話と違うような」
違和感の正体に気づく。元凶の言葉で、いいや今はそれよりも、
口、口だ、口を再び動かしてみる。
「我々は宇宙人だ!!」
いける、しゃべれる。
「・・・まだ、ボケ足りないのかな?もうツッコミ疲れちゃったけど。」
自由にすればいい、ツッコむのは自由なのだし。
まぁそれでも覚えていてほしいこともある。
そう切り出した。
彼女は様子を伺っている、じっとこちらを見ながら。
早く話せということなのだろうか。
ならば望み通りにしよう。そしてその隙を見せたことを、後悔させてやる!!
「ツッコまない自由もあるんだよ!セックスみたいに!!」
・・・・勝った、これは勝った。
なにせ井伊波は一言も言い返してこない、言い返せるほどの反論が思いつかないのだろう。
私の言葉があまりにも優れていたが故に、カウンターの機会さえ奪ってしまうとは、自分の才覚が少し、恐ろしい。
学校で待ち合わせたあと、相談を受けて翻弄されてばかりだった私が、普段からも彼女の言動に翻弄されまくった私が、ようやく勝てた。
これは神に感謝を述べなければ、ずっと続けてきた祈りの成果が出たのだ。
彼女の鼻を明かしてやりたいという純粋な願いに対して、主が、私の願いが叶うように、その御力で導いてくださったのだ、、、
まぁ 一回も祈ったことないけど。
「私ではどうやってもツッコミが追いつかないや」
やった、ようやく聞けたよその言葉が、そう考えたあと喜びのまま次の言葉をきく。
ならば聞かせてもらおう、初めて味わう敗北の味は、と少し、いやかなり大仰な物言いだが
「わかってるなら聞かないでほしーな、
あと忘れてるかもしれないけど、今貴方は寝転がってて、しかも
声も出せなかったのにやっと、出せるような状況なんだよ。
何か他に言うことは?」
それが敗北者の言葉か。
「シアちゃん。」
・・・なんでしょうか
「しつこい。」
ひ、、怖い。
ま、真顔で、そんな感情を感じさせない瞳で私を見ないで、、、、
「なら、どうすればいいかわかるよね?」
は?全然わからんが?
「は?」
前略
お父さん、お母さん。
私は今日、死ぬかもしれません。
私が自転車に乗って転んだ時も、勉強で壁にぶつかった時も、
優しく導いてくれましたね。
その事を心より感謝します。
まぁ、親なんていないんですけど。
「・・・・もう本当にすごいねシアちゃんは、、私には真似できないや。」
諦められている、呆れるのを通り越して、諦められている。
どうして、こんなことになってしまったんだ?!
こんなふうになるのは、これで3度目だと言うのに!!
ん、、、、、3度目?
3度目ならいっか。
「そんなのは神様が許しても私が許さないよ。」
そうじとっとした目で笑みを引き攣らせながら言われた
本当に器用な真似をする。
けどそろそろボケるのも終わりにしないと
「・・ほんとボケ倒しで、傍若無人なんだから。
いやというより、あえてやってるのかな、私だけに。
他の人より私のこと下に見てるんじゃないの?」
下に見ているというのはあり得ない、どちらかといえば
貴方のことは、、
「怖い?」
あぁ、怖いよ、その察しの良さも。
私の方が成績がいいはずなのに言ってもいない本心を理解されることも。
「も、ってことは他にもあるんだ。
そのことは今のわたしに、いえそう?」
無理だね、
「絶対?」
絶対。
「それは残念」
・・そうやって、すぐに察して引き際をいつも誤らないところも、、本当に怖い。
だけどまぁ、今はいいや。
怖いことばっかり考えるのも、あまり健康に良くないしね。
、、、それで本題なんだけど、
「ん、あぁ本題、本題ね。覚えてる覚えてますとも!」
そういう彼女の目は、泳ぎに泳ぎまくっている。
その速さだと、もう洗濯物を前に置けばすぐ乾かせそうな程に。
「そんなに泳いでません。」
泳いでる自覚はあったんだ
「当然です、人並みには自分のこと客観視できるんだから。」
、また、いつもの謙遜?
目を泳がせるほど動揺してる時に普通の人はわざわざ、自分の行動を分析していないと思うのだが。
それとも、そもそも見た目ほど動揺していなくて、さっきのはあくまでも、演技だとか?
「考えすぎだよ〜、シアちゃんてばぁ〜。もう、ホントにわたしのこと信用してないんだから〜。わたしのこと信じれない、悪い頭はここかな〜」
いたい、結構いたい。
こめかみに爪を立ててぐりぐりしないでほしい、
人差し指一本だけど痛い。
なんで頭って言ったのにこめかみなのって、ことがちょっとしか気にならない程痛い。
「お仕置きってやつだよ〜、まぁ結構余裕そうだけど、そうじゃないと態々わたしの言葉の違いについてツッコまないよね。
それに本題を話すって意味では私も賛成かな。そろそろ話しておかないと時間が足りなそうだし」
・・・・時間がない?
そこはかとなく嫌な予感がするが、一体なんの話だ。
「あなたには、あなた達には、魔女の血を飲ませたの。」
魔女の・・血? なに、、、それ?
◼️
「魔女の血っていうのはね、
飲めば魔法使いになれる不思議な血なんだよ。
「信じられないかな?、無理もないや。けどね、わたしは嘘はつかないよ。 嫌いだからね。あと正確には魔女かな、女の子の魔法使いだからね。
「え、そんな事は、割とどうでもいい?、、話を続けろ??
結構酷いこと言うね、自覚ある?
・・・まあ、いいや。
お求め通り、話をもどすね。
「魔女の血っていうのはね、こことは違うけど、この宇宙と同じくらいの異界を作って死んじゃった、「魔女」の血なんだよ。
それをさっきの肉片に混ぜておいたんだ。触れた時に「飲む」ように、当然概念的に。
同じくらいていうのは、宇宙全体のエネルギー量と、大きさの話ね。
「だから、普通の人も魔法使いにできるほどの強力な力がある。
けどね、そんな便利な魔女の血だけど当然、デメリットがあるの。
「そのデメリットは精神力が、根性が無ければ、死んでしまうこと。普通の人も魔法使いににはなれるけど、誰でもなれるわけじゃない。
「とんでもないデメリットだって?
まぁデメリットの方は裏技を使えば、解決できるよ。
「もっとも、その様子だと、シアちゃんは適正者ではないかも知れない。確実に言い切れる訳ではないけどね
「・・・・驚かないんだ、もっとすぐに治せって泣き喚いたり、
最悪舌でも噛んで、自殺すると思っていたのだけど。だって口は動かせるんだしね。
「まぁ、舌だってかなり根本の部分を噛み切らないと死なないらしいから、人間って案外しぶといよね。
「だからわたしから提案。これまで使ってた裏技以外の荒技を試す、実験台になってよ。
⬜︎
「断る。」
それが彼女の提案に対して、出した私の結論だった。
「どうして?
わかっているとは思うけど、あなたに提案する時点で、ある程度実用的な段階に進んでいるんだよ。
シアちゃんに根性がないとは、普段の様子や、さっきまでの肝の太さから、とても信じられなかったから、多分魔女の血の方がおかしいんだよ。
だからそれを調整させてくれって言ってるの。
わからないわけないよね、あなたは私よりも頭が良いんだから。」
あぁ、私は貴方よりも、頭が良い、だからわかる。
これは、無理だ。助からない
「本気で、言っているの?」
あぁ本気だ、声は確かに出せるし、意識も考え事が出来るくらいはっきりしているが、それ以外の感覚がない、これでは何をしても無意味だろう。
「なら、まだ、調整でどうにかなる範囲だよ。
ちょっと後遺症は残っちゃうかも知れないけど、それだって他の手段を使えば「それに!」
私は彼女の言葉に被せるように、
きっと彼女にとって残酷な言葉を放つ。
「もう、目も見えていない」
◼️
「冗談でも笑えないよ、シアちゃん。」
そう言った彼女の顔はどうみても、悔しさに苛まれている人間のソレだった。
「ほらやっぱり見えてるじゃない。どうみてもなんて言葉、そうじゃないと説明が付かないよね。わたしを騙そうなんて100年早いんだから。」
その声色にはしかし喜色は含まれていなかった。
彼女とて気づいているのだろう、私が目に映らない情報以外の全てを利用して彼女の、井伊波の行動を組み立て、推測して、描写していたことに、
正直いくつか間違っているものと思っていたが、
ここまで当たっていると博士号がもらえるかも知れない。
「はは、ホントに、、笑えない冗談なんだから。
それに博士号は、最低でも5年間大学に在学して独創的な論文も最低3本は出さないと取れないって、聞いてるよ。もうそこまで生きられないかも知れないけど」
?聞いてるよの後が小声でよく聞こえなかったが
それよりも気になることがある。
「取れないって聞いてるよ」なんだか露骨に人に聞いたような口ぶりだ。
聞いてるよって言っているし。
死にかけで気になることではないかも知れないが、それでも、気になるものはなってしまう。
「一体誰に聞いたの?」
一々目も見えないのに細かいことが気になるのに驚いたか、それとも単純に聞かれるとは思っていなかったのか、
彼女は少しだけ驚いた素振りをしたあと、素直に答えてくれた。
「お兄ちゃんに聞いたんだ。もう随分と昔の話だけどね。」