第03話 魔法を使える理由
思えば、考えるべきだったのかもしれない
どうして男に乱暴を受けた少女がそのことを言葉に詰まりながらも
ただの高校生に話してくれたのか
どうして、あくまで間接的に対処をして、首謀者君との直接的な対立を避けるという手段を取るほど、慎重な少女が、ただの高校生に
そのことを教えてくれたのか。
「嫌だな〜、私は信用しているよシアちゃんのこと。」
そういう彼女の表情はどこまでも慈悲深い、まるで子供を諭している母親のよう。
「シアちゃんには、いないんじゃなかったの?施設で育ったって聞いたけど。」
・・・・・・確かに、私は親に捨てられた挙句寺院に断られて、偶々受け入れてくれた教会の施設で育った。
親を知らない子供だ。
「だけどだからこそ、知っているんだよね。
自分がもう見ることの出来ない、だから思い出すことも出来ない。
あなたの知らない自分の本当の母親がしていたかも知れない母性に満ちた貌を。」
・・・相変わらず人のデリケートな部分も見抜き、感情を言い当てる。だから苦手だったのに、、
<Rain>で相談を受けたからって、ホイホイ、言われた通りについてきてなんの対策もしなかった、しようとしなかった、自分の、私自身のあまりの迂闊さを呪う。
「私のデリカシーのなさを恨むんじゃなくて、自分の迂闊さを呪うなんて、本当に優しいんだね、シアちゃんって」
「それは貴方もだろう。井伊波さん」
・・いや正確には、だったというべきか。
「名前言っちゃうんだね、いつもは名前も呼んでくれないのに。なんかの練習でもしてるの?それとも、もしかしてちょっと怒ってる?」
ああ、当然だ。怒っているとも、貴方がもっと早く、私に相談してくれなかったことに。
「それは、あの人が死んじゃいけない人だったってこと?」
そう発した彼女の言葉は、笑顔のままだというのに、これまでとは比べ物にならないくらい、毒を含んでいた。
決して、死してなお、殺してなお、あの男を絶対に許さない、という。真っ黒な憎悪を。
彼女はきっとこう思っているのだろう、私自身の力で、この如何ともし難い状況をどうにかしようとしたのに、後から話しただけの貴方が、今悔やんだところで、意味などないし、もうヤってしまったことは手にかけてしまったことは変えられない、だから何も言わないでと。
だけど言わないと、言わなければ
彼女はもっと暗い場所に行ってしまうかもしれない、そう考えて私は口を開く。
「それもある、けど、けれど、、いくら名前を授かる価値もない男でも殺してはならない、それをしてしまえば・・・」
「同類になる、、とでも。最初に恨まれる理由を作ったのはあの人だよ。」
「・・それは論点ずらしだ!!理由を、恨まれる理由を作ったというのは、正しい、だけどもっと、やり方があった筈だ。例えば証拠を取って、、「警察」に通報するとか。」
「以外と考えが甘いね、シアちゃん。それに結構怒ってくれてるね。
まぁそんなことよりも、わからないかな。私がどうしてここまでの行動を取ったか、私に考えが足りなかった?それもあるかもね、でもね、もっと絶望的だったんだ私たちの状況は」
「・・・・まさか警察組織もグル?!」
「その通り!!ふふいくら警察に通報しても、襲われたと言ってもハハ!
、何もかも無駄だったってこと!!なにせ自分で撮ったそういう動画でさえははは、証拠として届けても、何もヒヒヒ、取り合ってくれなかったんだもん!!
・・・・・きっとこの男が事前に根回しをしていたんじゃないかな」
怒りを露わにしながらけれど狂ったように笑うという器用なマネをした後、一拍おいて落ち着いたと思えば、私に小さくて奇妙な色のブロックを投げ渡した。
それを危なげなく捕まえて手の中を見る。
それは1センチにも満たない小さな立方体、けどこの状況で意味のないモノを渡すほどボケてはいない筈だ。だからじっくりと検める。・・やはりただのブロックなのだろうか全て赤色でただ小さいだけの
、、、いや違う、これは奇妙なブロックなんがじゃない!
・・・・・・これは、、、、
「あの人だったものだよ?、
随分とちっちゃくなっちゃったから、もうどうな顔か、どんな姿だったか、わからないかもしれないけど。」
「初めまして私の名前はグズダメ男でーす」
なんてふざけた調子で言いなが椅子からも卓からも身を乗り出して私の手のひらの上にある人だったものを強い力で抑えながら、嘲った表情をそれに向ける。
「それで、、貴方は何がしたいの!!
まさかコレを自慢するためじゃないよね?!、そんな役にたたない事を「役に立たないことなんて言わないで」
そうして初めて私の言葉を明確に遮った井伊波は 必死な表情で頭の中にあるであろう言葉を感情のまま伝える。
「この男は、この子は、人を貶めて悦に浸ることしか生きる意味を見出せなかったのに!!
この姿になってようやく!他人の、、他人の幸せを手助けすることができたんだから!!?」
・・・・もうめちゃくちゃだった。肉片になったのに、消しゴムのかけらにも満たない大きさにしてしまったというのに、それが人を幸せにするとか。
嘲った表情をそれに向けていたのに私が否定すればミンチ以下にした肉片の価値を必死に、私に対して説くところとか。
・・・明らかに狂っている、狂人と呼ぶになんの躊躇いもない行動と言動。
どうしてこうなってしまったのか、、。
「そう思ってる?」
いつのまにか彼女の顔が、私の目と鼻の先にあった。
私とは違う綺麗な瞳が、艶やかな唇が
ん?!
今私は何を考えた?
彼女の瞳は、まぁ綺麗だけど、艶やかな唇?
なんだそれは。私がどうして同性に対して、どうして。そんな感情を抱くはずが、
おかしい、何かが、決定的に。
「ようやく効いてくれた。」
小さくなりすぎた肉片を見るために、左に向いた重心が、さらに傾いてゆく。
その怖さに、恐ろしさに、目を瞑ってしまったあと、目を開けば私の視界には放送室の床が見えている。
体が動かない。口すら動かない、動かせない。
「混乱してるよね、だから教えてあげる。」
そのすぐあとに乗り出していた机から離れ、床に臥した私に、膝を床につけ、這うように近づいて私の顔を覗き込みながら、こう言った。
「私は魔法が使えるの」
⬜︎
「は、今こいつ何言った?って思ったよね。」
思いました。本当に何を言ってらっしゃるんですか。
魔法なんてあるわけないじゃな「いや、あるんだって本当に」
は?全然わかりませんもしかしてその戯言と私が口も動かせないのには関係があるのですか。
「いや、あるって言ってんじゃん。そういう魔法なんだから」
・・・つまり、今私がこうして頑張って貴方の顔を見るために目を必死に動かしているのも、貴方のいう。魔法のせいだと?
私がそれにかかったと?
「私がかけたんだけどね、だから動けない。あと、びっくりしすぎると敬語に戻っちゃうんだねー」
初対面を思い出すわーなんていう軽口については頑張ってスルーして、他のもっと根本的でだけど重要なことを聞く、目で、頑張って訴えかける。
魔法を使えるってどういうこと?!
どうしてそんなことができるように!??
そうしたら彼女は心を読んでいたかのように答えた。あっさりと、なんでもないかのように。
「貴方が手に持ってるその子のおかげだよ」
「は?」