第02話 最悪の回想
私が人を信用できないのは
私という
最も信用できない人を知っているからだ
〜人助けの魔女〜
バイトと言っても当然ではあるが種類がある。
だから、ここは敢えて王道ではない分け方をしよう。
大まかに言ってエッチかエッチじゃないかだ。
私が勤めていたのは後者だった。
もし前者であっても高校生でそういうバイトをしていれば勿論犯罪ではあるから、友達の前で言えないなんていうのもあるのかもしれない、正直勤めていても絶対に言わないのだが、
どうやら友達は違ったようだ。
⬜︎
相談された、それもそれなりに広かった交友関係の中でもとても明るくて、真面目で、貧乏な子に…
ではない
むしろ裕福で、真面目とは言えなくて、だけどとても心優しい子
その子について特別気が合うわけでもなかったからか、あまり話をしたいなかった私でも、彼女の表情を見れば、その焦った顔を見れば、もうこの子には頼れるのが私しかいないんだな、と悟らざるを得なかった。
彼女は、「私には人を見る目がある」と言っていた。
そのある意味不敵な態度も、彼女の普段の行動から推察してみればなるほど正しいのだなということが理解できた。
ある日は、困っている人を助けたり。
またある日、と言うよりこちらがメインの話しではあるのだけれど、
いわゆる陽キャとも言われる、
他人を気にすることなく騒いだりまぁ単純に仲間内ではしゃいだりする人達、私の同類。
その中でも一緒につるんだりしている連中の中でその男子グループの中で次のイジメの対象になりかけた、その首謀者と彼女が、同じ班になった時に、
特別仲が良いわけでもないなりかけ被害者君(名前を出すわけにはいかないので便宜上そう呼ぶ)に事前に頼み込んで班仕事に必要な情報や、道具を持ってくるように言い、
二人の関係を改善しようとした、というのを知っている。
結局はイジメに発展してしまったのだが、事前の班の手伝いと被害者君(これも便宜上)の元の面倒見の良さ、そして彼女のサポートのおかげで期間事態は短めにすんでいた。
つまり彼女は敢えて首謀者君(便宜上)に直接注意するのでは無く間接的に、被害者になってしまった君の良さをさりげなくアピールしたのだ。
その前はただ、なんとなく人のことをよく見ていそうだなという私自身の彼女に対する評価が誤りであり、
過小評価であったことをその出来事で確信した。
⬜︎
そうして勝手に自分の中で侮っておきながら、先の出来事のおかげで見事に心の中での株が上がったという一連の出来事の原因となった行動をとった彼女と、
その関係については
それからなんの進展もなく、ただ時間だけが過ぎていった。 結果、
あの行動から3ヶ月後の8月の某日、私は彼女から、<Rain>に、
バイトが休みの日に学校で会えないかという連絡を受けて、なんのことか分からないながらも馳せ参じた。
呼び出されたのはバイト終わりの夜7時、バイトで忙しかったためこの時間になってしまった。
仕事で忙しかった理由としては、14歳から孤児院を出て一人暮らしをしているせいとも言える。
担当先生やそれ以外の職員さん、そして教会の神父さんにお願いをして、一部、仕送りをしてもらいながら、それでも貯金を貯めたり、切り崩したり、同じ場所でバイトをしている同級生の子たちにシフトを譲って貰いながらも、頑張って生活をしていたのだ。
そんな私に対して送ってきた呼び出しの内容は「エッチなバイトについて相談したい」だった。
そうして今に至る、
私とは正反対の裕福な環境に居ながらもそれを自慢せず、人に優しくし続けるような人だったけれど、流石にこの相談には面食らってしまう。
いや、言えないだろう。
それなりの交友関係を持ちながらも、自分で言うのもなんだが、しっかりと友達や同級生の相談に乗っていた私以外には
人をよく知っている、見ている彼女からしてみれば。
いや、私以上に人の話を聞くのが上手いんじゃないのかなと言う人も確かにいたのだけれど、彼女にしてみれば少しでも信用できる人物を選びたかったと言うのが実情なのかもしれない。
なにせあの子は普段の服装や格好のイメージそのままの態度とは違って他人に話しかける時には躊躇いがない、いわゆるコミュ強と言える娘だった、つまり根性のある子だった。
そんな彼女でも言いづらいのか、続きの言葉が出てこない。
椅子に座って間に机があるからか距離はあるが、
彼女は目を伏せて背もたれにすらもたれずに背をピンと伸ばして下を向いたままだ。
それをじっと見ている訳にもいかないので、私も下を向き目を瞑る。
誰かに聞かれる可能性を考えて念のために借りていた放送室、その鍵を、スカートのポッケの中でギュッと、握った。
取るのにそれなりに時間も用したし、向かう前に格好が変な人ともすれ違ったけどそれは今、そんなことは、いま、どうでもいい
言う必要も無いかもしれないけれど私は彼女に怒っている……わけでは無い。むしろ私は、、
「緊張している。そうでしょう?」
・・・そうして彼女は、いつも通り見透かしているような態度を取る。まるでさっきまでの態度が薄っぺらい嘘だったと思えてしまうような堂々とした振る舞い。
、、いやむしろ、彼女には見え透いているのだろうか、私の行動が、その動機が
「いいえ、ただの勘よ。女の勘」
彼女の方が相談をしていたはずなのに、弱っていた筈なのに、いつの間にか彼女は調子を取り戻し、私が彼女の言動に、勘の良さに、圧倒されている。
少し、いやかなり奇妙に思われてしまうかもしれないが、これが私たちの普通、私が好調であろうとなんだろうと、私は彼女に流される。頻繁に会話するわけでも無いのに行動とその動機を見透かされ、言い当てられる。
まるで一つになったように、もっと言うならまぐわったている最中にどうシて欲しいかどう責められたいのか一言も言ってないのに、その相手に伝わってしまうよう
「それは、少し言い過ぎじゃ無い?!まぐわうって何よ!まぐわうって!そういうスケベなのをたまに口に出してしまっているのもあなたの悪い癖よ、シアさん。」
そう言って彼女、Iさんはプンスカ怒っている。
マジか、口をついていたというのか、今度からは気をつけよう。
気をつけよう。気をつけよう…
・・そう何度も過去に自分に言い聞かせたであろう言葉を頭の中で8回ほど反芻した。
因みに彼女の前でやらかすのはこれで10回目だ。
その度こうやってスケベなんていう、正直友達同士でもあまり聞かない言葉で、私を罵倒、いや注意してくる。
まぁ当然悪いのは私だし、今は事態が事態だ。
余計なことを口走って雰囲気を崩しすぎるのも良く無い。
そう考えたあと、少し伸びをしてからまっすぐ彼女の綺麗な目を見て本題へと切り出した。
「エッチなバイト、について、詳しく教えて欲しい。」
◼️
聞いた話としては大まかにこうだった。
4月から一週間前まで付き合っていた彼氏、ここでは仮称A君、とさせていただこう。
その子が中学の先輩とは言え、犯罪を犯したり犯さなかったりしている黒よりのグレーと言えるほどの、悪い先輩から紹介されたお店にA君がついて行った時にまで遡る。
そのブラックワルワル先輩はA君に対して、性的なサービス、いわゆるエッチなサービスをお金を払って受けるよう半ば強要したようだ。
だが、人が良いながらも強かである事で有名だったA君は、ガンワル先輩に対して、うまいこと断ろうとした。
だがしかし、強かであることが有名だったからか、それとも元々断られる前提で動いていたのか。
その黒カス先輩は、受けなかった時の条件として当時彼と付き合っていた彼女、いわゆるこの話をしてくれたIさんに対して、ストカー的行為を行い、挙句彼女を強姦して、そしてその最中にとっていた動画を彼に見せながら、こう言ったという。
「この映像をネットにばら撒かれたくなけりゃ、黙ってIを連れて来い、もしくはここのサービスを受けろ、高え金を払ってな」
そうしてゴキブリ以下先輩に未成年ながら春を買うか、その案を提案したゴキブリ未満先輩と明らかに生中な仲では無い自分の彼女をここに連れて来させるのかの二者択一を迫られた彼氏は、特異な状況に焦っていたのか、彼女の連絡先だけならどうか、、と言ってしまった。
それを承諾したゴキブリと比べるのもゴキブリに失礼先輩は、連絡先を受け取ったあと、Iさんに連絡を取り店に呼び出したあと同様の脅迫行為を仕掛け自身が経営している(おそらく)店に働くように誘導し、彼に多額の金を払わせて性的なサービスを無理矢理受けさせた、という訳だ。
その時ちょうど働く事になった彼女に彼の「相手」をさせて。
⬜︎
「回想ありがとう、すごくわかりやすい話だった。」
それが、iが話を受け止めた直後に発した言葉だ。
そんな様子に対しては流石の私も驚かざるを得ない。
「やっぱり国語力が違うのかなー、あとあだ名になんだか怒りが詰まっていたようなー」
なんていう彼女の軽口を含んだ言葉も耳から頭を通ってすぐに通り抜けていった。だがそれも人として当然の反応だろう。
何故なら彼女が受けたのはイジメなんてとうに超えた陵辱、人として単純に許してはならない、犯してはならない線を当然のように踏み越えた非人道的行為だ。だからこそ私は怒りのまま彼女にこう言った
「それで、いつそのクズを細切れにしにいく」、と
そんないつもの冗談なようでいてまるっきり本気の意思をこめた言葉に対する返答は、普段の温厚な彼女にはとても不似合いな言葉だった。そして私には信じられない言葉だった。
「もう、細切れにしちゃったあとだよ」
と、私が滅多に目にすることはなかった朗らかな笑顔で。
まるで心地よい運動をした後にする、のびをしながら。
彼女はそう言った。