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Adonai's Failure  作者: 白河田沼
第一章 始まりの回想と鏡の国

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第16話 一度目の復活

禍根鳥憂喜は存在しない

それは魔女達の間でまことしやかに囁かれる噂である


曰く、禍根鳥憂喜は何も考えていない

曰く、禍根鳥憂喜は生きていない

曰く、禍根鳥憂喜はこの世にいない

これら三つの噂はそれら全てが繋がっているのだ

そう当然禍根鳥憂喜についてのこと、だけではない。

なり損ない(フェイラー)に在る種にているというところでも、ない

それら全てがシアが魔女の噂を裁判前に又聞きしたこと、だけではない。

それら全て、死と繋がっていることである。


死と繋がっているその意味とは・・・・・



「一体どういうことなの。なんで。心はある筈なのに、心の声は必ず聞こえるはずなのに。なんで。」


「聞こえなかったか。ならばそれは当然貴様に問題があるな。」

マウントポジションで跨る禍根鳥はけれど慈悲深く私に告げる。

首先に向けられた剣が肩の傷に突き刺さる。

文字通りの意味のそれは途轍もないものを齎した、そう他でもない痛みを



「グゥ、がハ。」


「悲鳴を上げないのだな立派だ。」

ぐりぐりと捩じられ、断絶されていく筋線維、指数関数的に増していく、悲鳴(痛み)にごくりとシアは唾を呑む

肩に感じる異物感を無視しつつ、本能で痛みを頭の隅に置いて考えた・・・

これから連想される禍根鳥の返答は三つ


一つ目は「開き直り」である

一見単純に過ぎるその作戦の効果は絶大である。

いくらシアとは言え「だから、なんだ」と言われれば、ごり押されればかなり聞きづらくなるのだ。

ただ、ただそれだけでも、他のどの作戦よりも純粋かつ多大な利益を得られるだろう、主に禍根鳥だが。



二つ目は「茶化して誤魔化してしまう」ことであった。

これは単純に茶化され方の度合いに依るのだが、万が一想定以上に彼女(禍根鳥)の茶化し方と誤魔化しかたが上手ければ誤魔化されてしまうのだ、シアでさえ、あっという間に。



そして最後の三つ目その両方である。

ある種、お互いのバランス感覚の必要なそれはこれら三つの良いとこどりである、しかし失敗のリスクを考えれば最も選ぶべきではない案であった。


端的に言おう、二つの案全てのデメリットが襲い掛かるのだ。

単純に「開き直り」や「茶化して誤魔化してしまう」ことを作戦に両方入れてしまうが故に

得を疾く得ようとするが故に


けれど彼女(禍根鳥)が取った行動は・・・


「・・・・・・・・・・」


「え」

間抜けな言葉に対してなのかそうでないのか今私は理解した

視界が、回る。

意識が、回る

頭が軽い。剣の形をした虹の七色から成るブロックノイズ、それが閃き、黒い幕が視界その端に映り、消えた。


視界が下がる。

片方は血に濡れ、幕はばらばらと散って消える

一見意味不明な光景にしかし彼女は思い出した鈴を、鈴の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()髪を、そして井伊波恣意(かのじょ)


そうそれはシアの血に濡れたブロックノイズ(七色から成る剣)、そして禍根鳥に切り取られた髪であった。

断頭された、断頭されたが故の髪の切れ端、だったのだ

断頭されたが故の血の付着だったのだ

断頭されたが故の頭の回転、意識の流転なのだ、そして他ならないこの視線の違い、それは単純に意識が髪に吸い寄せられ目がそれを追ったのだと、今理解出来た。



「回転しながら下を向いていただけで私の目の前には幕なんて無かったってことか。」そう私は独り言ちた。心の中で私は独り言ちた

べっとりとこびりついた血を浴びた、虹の剣、だったということだ。

道理で頭が軽くなったのだなと朧気に考えながら

その腰ほどまである、いやあった長い髪を見つめる。それは垂れ幕のようにゆっくり、ゆうっくりと落ちていく


達人の刹那、

アスリートや戦いに身を置くものが体感することのある、端的に言えば倍化された時間であった。

極限の集中によって引き起こされる意識の時間間隔の拡大と思考能力の超過使役、つまりは()()()()()()()()()()()()()()そのものであった。




付随する走馬灯を見ながらも

けれどその倍化された時間の中でさえ断頭されたと直感したころには既に時遅く、首を絶たれた激痛と四肢を失った喪失感と走馬灯で垣間見た苦しい記憶をリフレインしながらそれをじっくりとじーくりと味わいながら味わいながら


少女は死んだ。


空の孔が埋まる、更なる暗雲に世界は光を失った。






「起きたか少女。」



「・・・・・・・・」

パチリと目を私は覚ます

そこにあるのは白い天井、

汚れが目立ち、

汚れやすそうなソレだった。



「ここは医務室だ。遺灰城の医務室わかるかいないいないば」



「・・・・・・」

肩を触ればそこに傷は無く、頭を断たれた時にさえ感じた痛みと喪失感はそこには私から見ても無かった。

あの時、少女は自身を完全に制御出来ていなかった、それ故に断頭の喪失感と痛みをゆっくり、ゆーくりと味わうはめになり、かつ肩の痛みにまで幻肢痛よろしく苛まれていた、ついでに走馬灯で苦しい記憶も見た。

未だ自身は力を制御出来ていないのかと考えかけ、意識が白い天井に戻る、白い天井に。

こんな者はすぐに汚れてしまうだろうと思いながら息を吐き出し少女が頭を起こせば・・




私達(オレ)。が運んで来てやったんだ感謝しろ。お~よしよし」

バフォメット(プネウマ)がいた、しかも赤子を抱いて、赤子をあやして、変な顔で私の目の前に。

女体に山羊頭は誰でも変だろうと思うだろうが、それ以上に変な顔だったのだ、いわゆる変顔である。

変顔であやしていたのだ、このマスコットは。もうマスコット擬きなのではと思いながら想い返す。

小さなマスコットが自分よりも大きな赤子を抱いていた。

意味が分からない、

意味が分からないと思うだろうがもう一度聞いて欲しい。


小さなマスコットが自分よりも大きな赤子を抱いていたのだ、もう一回言おう、小さな「起きたか、少女。」


「おはよう。」

慈悲深い少女は目の前にしかしそこに私は見た。

しかしそこには白髪を二つ結びにした目隠しの少女、野太い声を持つ女、禍根鳥がいた。

少女の結ばれた白髪が風に揺らめく

部屋の窓を止まり木にしていた白い鳥が飛び立った。

黒々とした雲の下、黒い足輪にてキラリと機械の目がただ煌めいた



「何かよう。私に何かした」

そう平坦に言ったのは私だった。

想像以上に落ち着いた声に、それを発した自身に驚く。

私はここまで驚かないのかと考えかけ、思い出した。


何も思い出せないことに、

自身の名前はまだわかる。性別も分かる。

彼女達の名前も、分かる、印象深い記憶や直近の記憶も思い出せは、する。

けれどそれ以外が思い出せない。どうして私がここに、その思考で埋め尽くされかけ・・



「っ・・・・・」

頭がずきりと痛んだ。

ずきりずきりと

何かを訴えるように、何かを叫ぶように、何かを()()ように


痛んだ。


「何これ、とでも考えたかなり損ない(フェイラー)。」


「ッ・・・・」

少女を見つめる、赤紐の赤子でもないバフォメットでもないただ一点二つ結びの白髪目隠しをした少女に、野太い声の女に慈悲深い少女に私は目を向ける。




「私に、何をした。」

冷静で平坦な言葉、二言目のそれはしかしはじめに発した言葉程私の記憶には残らなかった。

何せ今は


「余裕が無いんだ、早く答えてくれ貴方は誰だ、ここはどこなんだ、そして。」


「・・・・・・・・調整は「予言」通り済んだと見える。説明はいるかな」


「いや、いい。何言ってるか知らないけど」



「いいのか、答えなくとも少女(わたしたち)が誰なのか、ここがどこなのか、そして。」

とんと額に指が据えられたのだ私に。

柔らかくて毛穴一つ見当たらない綺麗な細く白い指、というのは当然気にならなかった。

バフォメットがこの場を気にせず赤子をあやしていることも、気にならなかった。


記憶


記憶が流れ込んでくる。

幼女と話した記憶幼女に突っ込んだ記憶幼女に突っ込まれた記憶幼女に首を絞められているのを言葉にした記憶赤目の少女との回想を始めた記憶赤目の少女について思いおこしていた記憶赤目の少女に相談を持ち掛けられたのを思い出していた記憶赤目の少女を評価していた記憶赤目の少女について振り返った記憶赤目の少女と会う前に変な恰好の人を目に収めた記憶赤目の少女を心配した記憶赤目の少女に久しぶりに翻弄された記憶赤目の少女の話を聞く記憶・・・・・・・・・

赤目の少女が死んだ記憶



「っ・・・・・なんのつもり。」



「何もこれも、これは君の記憶だよなり損ない(フェイラー)。」

「君には実感が無いだろうがね」という言葉はしかし私には気にならなかった。

なにせこれら全てが・・・・




「私の記憶である筈が無い、確かに私は井伊波恣意(かのじょ)を助けられなかった、殺したも同然だ。そう理解出来る、けれど」


「今、思い出した記憶について知らないか。」

そう慈悲深い声が私の耳に届いた。

周りを見回す。

山羊の頭に黒い外套、黒い衣裳、それを被り纏った女がベッドの横窓の手前カーテンの奥辺りを、どころか部屋中、部屋を区切るパーテーションというパーテーションを埋めていた。

隙間など、そこには無かったのだ。そう声と気配で理解出来た。


赤子の声が聞こえる、赤子の笑い声が

それと同様にどろりとしていたのだ、彼女達の気配が。

それはこの医務室どころか、遺灰城でさえ埋め尽くしていると思わずにはいられない程濃い気配だった。

・・・ベッドの手すりを握り閉めながらバフォメットは言葉にする




「何故実感が持てないかわかるか。」



「・・・・・・・・」



「分からないか、それはお前が「そこまでだ。」

筈だった、けれどそれは遮られた、禍根鳥の言葉によって・・そう私は理解する。

山羊の頭、その鼻を掴みどころか捻る少女。

どろりとした気配の中、赤紐の赤子に細心の注意を払いながら、

寸刻、濃密な気配がどろりどろりとした気配を包み込み、塗りつぶした。


赤子の声が、聞こえる、赤子の笑い声が

気配も同じいいや超えていたのだ、

ただ遺灰城全てにまで塗りつぶしたのではと思ってしまう程の濃密な気配、そのものだったのだ。

その中で目隠しの少女が口を開いた。


「貴様はやり過ぎるのだ、現実を見せたいのならば先程の「試練」を有効に使えばいい。」




「「有効」に使ってやった結果だぜ、ついでに言うならお前の言葉には「試練」”のみ”って言葉が足りてないと思うが。」

あまり善いとは言えない言葉を禍根鳥に平坦に吐いて私はそう理解した。

それにその場にいる全てのバフォメットが顔を顰めたり、顔を見合わせたり、顔を覆ったりした。

こそこそ話し合ったりしている者もいるがそれはどうでもいい。

この気配に動じないのかという点もどうでもいい、

禍根鳥(彼女)はやはりバフォメットとは違うらしいことは理解出来た。


そして私に何かしようとしていたことも



「・・・けれど私には必要が無いんだ、聞く必要が。だから」



「「何だ」」

声が響いたしかも部屋中に、それに、少し面喰う私である。

けれど私は聞いた、面喰ったことを取り繕って、部屋を埋め尽くす不吉で濃密な気配に蓋をして

何かよくわからない()()の為に




「何で実感が持てないか聞かせて欲しい。」

その場を静けさが流れる中、凛としたように私の耳が響いた。

赤子の笑い声が消え、気配が消える

しばらく沈黙が支配したその場の中

大きな沈黙の中、響いた


赤子達の笑い声が、無邪気な笑い声が、無垢なるものの笑い声が



響いた。







赤子の笑い声がする



思い出すのはあの声、気色悪い、あの赤子の笑い声をどろりとした気配と共に思い出す。

トラウマと成ったわけではない、心の傷を深く抉ったわけでもない、体に何か障害が残ったわけでも、ない。ただ響くのだ頭の中で、あの時禍根鳥と初めて出会った時に聞こえた。禍根鳥に憑りつくかのように彼女と遊んでいるかのように謳う、あの笑い声が


覚えていない筈の声が



「何故、貴様が実感が持てないかわかるか。」

はっとしてしまったと私は理解した。

声は聞こえない、耳の奥にも、脳随の奥底にも



「何故、貴様が実感が持てないかわかるか。」

けれどこの言葉を聞いた時、私は既に質問をしたことを後悔しだしていた。

だけど今は


「わかりません。」



「・・そうか。」

素直に聞くしかないのだ、

率直に疑問を投げかけるしかないのだ禍根鳥に私がしっかりと

何故なら


「分からないから聞いているんです。」





「・・・・・・・・・・」

そうだ、分からないから聞いているのだ、なにせ解からないのだ私には

解らないのだから解るようにするしかないのだ。

問い質して(解らないことを知り)問い詰める(解る)しかないのだ。

生と記憶、その両方を取りもどして真相を知る為に





「「分からないから、聞いているんです。」とはなんとも自分勝手で愚かしい、けれども」



「素直な言葉だな。」

その言葉に私は目を開いた

この時の私は抱いていなかったのだ。

自身が受け入れられるという期待を、賛同を得られるという切望を

けれど仕方ない。


彼女(わたし)には



「全く記憶が無い。というのは理解している正確には()()()()()()()()()()()。のだろう。」



「・・なんで知って・・・」


「少々調()()を行ったのでな。記憶に多少の()()はあろう。って言ってるぞこいつ心の中でな、変な奴だろう。」

私にはわかっていた。

変な奴がということじゃない、

何故()()()姿()()()()()()に喋らせているのかということではない。

記憶を失ったことも新たに()()()()()()()()()()()でも

喋らずに赤紐の赤子をいつの間にか、いつの間にか受け取ってあやしている少女の言葉は、けれども心の奥でさえ理解していた、出来た。

けれど私は、この時の少女は違う、違うのだ。


何故なら彼女(わたし)





「確かに分かった。プネウマも禍根鳥も、私を少なからず心配していることも。」



「だから、ありがと」

そこにいる子はまだ小さくて幼いから別として、

という言葉を赤紐の赤子に対してのその言葉をはっきりと私が飲み込んで

そう言った。目隠しの少女が笑む、子を抱きながら慈悲深く。バフォメットを侍らせながら情け深く

何故か私はそれに違和感を覚えた、強い違和感を、強烈な拒絶感とともに

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