第10話 邂逅
少女の姿が掻き消える。
灰色の部屋その一室、その一点に黒が現れた。
塔の内部にあるその部屋にある赤、その海の前に幼女を寝かせる
胃液と血液によって桃色に染め上げられ四肢を在り得ない方向に曲げられたその姿に何を思ったのか目を閉じ手を翳す。
瞳が開いた
ぎょろりと覗く目は白くしかし結膜はその力の色を示すような赤であった。
手の平で蛇のような赤い瞳孔が細まればぽつん、ポツンと滴が空に満ちていく。否、落ちていく。
無数の桃色と血の赤に辺りが支配されたころ、
瞬刻、滴が静止した。
血の赤を桃色に薄めた透明、それが剥がれるように滴を離れていく。
剥がれた胃液は粒子となり光を放ちながら空へと還っていった。
しかしその様子を少女は目に映さず更に手指を広げる。
露になった血液が右の手の平にそこにある「目」に吸い込まれる
血は彼女の爪を伸ばしその赤を更に朱く染め上げた。
全ての血液が吸収されたころ少女は目を開く。
その蛇のような赤い瞳孔にはただ灰色に染め上げられた一室と四肢を折り曲げられながらも横たえられた幼女が収められていた。
手の平を見つめればそこには先程通り亀裂が横断していた
目は既に役割を果たしていたのだ
手の平を握り開きを繰り返した後一足後ろに下がったと思えば、少女の姿が掻き消える。
瞬間白い竜の腹に少女の黒い靴が刺さった。
竜が垂直に空に跳ね上がる。
またも黒が世界から掻き消えた
空を割らんばかりの轟音の後
竜は地に落ちた。
土煙が立ち上る中、
それを見下ろす少女の顔は何も見ていないような無表情だった。
■
地に降りようと重力に身を任せかけたタイミングに、
ふと瞬きをした。少女の視界には二本の棒が映っている。
交差されたそれの先には特異な装飾が施されていた。
杖にも思えるそれには莫大な魔力が込められている
しかし、何故という思考は今の少女には無く、それに目を奪われる程の判断の誤りも今の彼女にはない。
目を閉じ、掌を二人の眼前に翳す。
すると何かを察したのか彼らは手指を引いた。
途端離れていく装飾の先、右にいる誰かの手首を掴む。
「っぐ・・・!!」
まるで少女のような細く儚いそれにそして聞き覚えのある声に思わず目を開いた。
「っ・・・・!!!」
そこにはあの井伊波恣意がいた。