第10話 名演と再開廷
「宣誓良心に従って真実を述べ何事も隠さず偽りを述べない事を誓います。」
その厳かにも思える言葉を静かに告げて手に持った書物をビリビリと破り捨てる
端から赤い炎に包まれるそれは「契約」の証だ
契約書
魔女の血を以て課される制約の一種であり誓約の一つの形である
その内容は言葉通り『良心に従って真実を述べ何事も隠さず偽りを述べない事』である。
それは彼女の宣言と共に燃えカスと成った。
その消失は「契約」の成立を示しているこれはつまり・・・
破った者の死を意味するのだ
・・・・少女の言葉と「契約」の成立を意味する宣誓の言葉と共に魔女達は腰を下ろした
一斉に、まるで劇に出るモブのように
キッチリと法廷のみに目を向け微動だにしない彼女達を蒼が見つめる。
その瞳は整った目鼻立ち故か沈みかけの上弦の月のように美しい筈だった、けれど魔女達はヒュっと声を上げる。
彼女の蒼が怒りに染まっていたからだ
まるでこの場に連れてこさせた者全てを許さないというその眼光に鈴でさえ眉を顰める、鈴の音を気にせず。
けれど乃瑠夏は動じない、ただいつものように愚か者を冷たく見据える
それに満足したのかうんざりしたのか少女は鼻をフンっと鳴らすと前を向いた
ざわざわと騒がしくなる場内、こそこそ話を始める魔女達
それは次第に大きくなり多くの者が恨みがましい視線を殺人者に向ける
けれど少女は背中越しの批判の視線と声を振り返ることなく無視する
次第に膨れ上がる罵詈雑言に裁判長がガベルに手を掛けかけ止まる。
その裁判長の様子に少なくないものが心の中で首を傾げていればふと違和感を抱いた。
少女に対する違和感を
少女は始め正面に居る裁判長を見つめていた
それ自体は問題ない。彼女達自体被告人に顔を見ている光景には慣れている、裁判長に見惚れていたのだろう。けれど少女は、シアは違った。
彼女は最高裁判所裁判長、賢人会会長と見上げていき今、ある椅子に目を向けていた
白い縁の赤い榻背の椅子に
ソレをしばし見つめていれば少女は振り返りを親指で指して口にした。
「あそこの席は「魔女」の席って聞いてる。一番偉いヒトの席。なら私が座れば、この茶番は終わらせられるってことだよね魔女。」
朗らかな笑顔で魔女達にシアは笑いかけた
第三者である彼女らに
■
「人殺しのなり損ないが思い上がるなァーー!!!」
そんな叫び声と共に多くの魔女が立ち上がる
「そうだ!そうだ!!ふざけるなァーーーーーー!!!!」
「「ふざけるなァーーー!!」」
怒号をあげるように魔女達が大声で叫ぶ中微笑みながらシアは視線を裁判長の元に戻す
けれど視線の先にあったのはおどろどろしい気配、冷たい目。
まるで神を愚弄した異教徒にシスターが向けるような冷酷な目だった。
その先を理解したシアが微笑めば
ふうっと息を吐き出す。そこには先程までの冷めた目は無い、どごろかそこにはいつもの仕事をこなす社畜のような死んだ目があった
「静粛に、静粛に。」
とカンカンとガベルで打撃板を叩く裁判長をシアは見た。
しかし魔女達のは声は静まらない、怒りは沈められない
「なんで肩を持つんですか!!」「もしかして裁判長ってあのなり損ないの味方?!」「賄賂ってやつ!!?」
「「辞めっろ!辞めっろ!辞めっろ!」」
しかし身を動かす事もせず裁判長、三島は動じもしない。
眉一つ動かさず目蓋を閉じ魔女達の沈黙を待つのみだった。
その様子を馬鹿にしていると感じたのか一人の魔女が立ち上がる。
霊子を操作し杖に変えその先をシアに向けかけすぐに三島に向ける。
「人殺しを庇う、不信心裁判長がァ!!まずはお前から排除してやるッ!!」
「人類の平和の為に!!」
「「人類の平和の為に!!!」」
ドンという音に肩が跳ねたのを魔女は遅れて理解した。
法廷がし~んと静まり変える中見れば軽薄な者がその蒼い目を彼女に向けていた
軽薄な女は黄金色の前髪をかき上げると魔女達を威圧する
「お前ら、ここは乱交パーティーの会場じゃねぇんだーーー。これ以上騒ぐっていうなら殺すぞ」
「「・・・・・・」」
三種の沈黙を軽薄な者は魔女に齎した。
気まず気に視線をさまよわせる者、ぐぬぬと唇を震わせる者そして飼い主に叱られた犬のようにしゅんと頭を下げる者の三種に分かれていたのだ。
その中で一人、ある者が立ち上がった
「裁判官!何故人殺しを庇うのですか!!罪人を罰することこそが貴官の役割じゃあないんですか!!!」
「「そうだ!!そうだ!!」」
そうハッキリと大きな声が裁判所中を響き渡ったのを魔女達はそして三島は理解した。
その声に同調する魔女達、その中には先程まで杖を三島に向けていた紫髪の魔女の姿もある。
けれど裁判官は後頭部で手を組み見下ろしながら聞いていた
まるで見下すように、かき上げた前髪を治さずにどころか溜息を一つ吐き髪を後ろで一本結んだ。
ついでに金縁の星型イヤリングも指でなぞり笑みを浮かべる始末。
その視線と態度は魔女の火に油を注ぐ。
「貴方には人の心が無いんですか!!!!」
「あるよ、あるから今こうしてるんだろうが。」
「え?」
疑問の言葉の後はただ魔女は見上げる
その蒼の瞳は涼し気だ
魔女達は困惑する。
この人は人の心が無い、ないからこそ人殺しの不信心なり損ないを庇うのではないのかと自身達にひいては魔女の掟に反するのではないかと、そう考えていたからだ
けれどその目は確かに別の何かに満ちていた。
ひいていうなら・・・・それは
「嘘、嘘嘘嘘。嘘・・・・でしょ。もしかして。」
「慈愛」だった。親が子に向けるような愛情、それを抱いているのだこの軽薄な者は
紫髪の彼女も金髪の裁判官の心を無意識を読む
ごく限られた者にしか出来ない高位の読心魔法の結果は「同じ」だった
「あり得ない、どういう精神構造して。」
「私の言いたいことはわかったか」
・・・・見下ろすような体勢は変わっていない
涼し気な目も見下すような態度も、そして机に上げられ組まれた足も
けれど確かに金髪の裁判官は慈愛を込めてそう言った
しばしの沈黙が支配する
気まずくなる程の沈黙をガベルが打ち破った
金髪の裁判官は机から脚を下ろすと浅く椅子に腰掛けた
二度の小気味よい音と共に三島はこう言った
「これより裁判を始めます。」
■
「三島さん、すいません出しゃばっちまって。」
「・・・・」
そして今に至る。
目の前の前髪を下ろした金髪の女のお辞儀を見て思う。
”どうしてこうなった”
三島は嘆く、嘆いてしまう
今は休憩時間、しかも急遽設けられたものの最中だった。
先の一般民衆の暴走を皮切りに起こりかけた暴動を抑える為当人たち民衆の頭を冷やさせる為の一時的なものである。
他の裁判官は各々の部屋で休んでいるが”ある人物”と少し話たいことがあったのだ。
故の処置だった、休み時間返上のワークイズライフシステムである
「・・・いい、気にするな」
「そもそも立場が違う。」と誰に対してでも無く独り言ちる三島である。
こちらは一般市民の唯の秀才。
だというのにこの金髪、愛伽は名家たる鏡月家の生まれであるという
鏡月家に関する情報は多くない。
なんでも赤い目をしているとか青い目をしているとか、生まれながらに莫大な魔力を持つとか持たないとか・・・・矛盾するような情報ばかりであった。
そして目の前の少女、愛伽はその中でも「失敗作」として扱われていたらしい
なんでもそれが原因で元は黒髪なのに痛めつけるように髪を金に染めそして瞳の色と同じ青のハーフカラーで髪の裏を塗り替えそして耳に穴まで空け青の円に金星を内包する蒼縁円型イヤリングまでする始末である。
理解ある職場だからいいものの普通であれば採用すらしないレベルであるし似合っているというのも以前タチが悪い。故に同僚の初対面は彼女自身の態度もあってか軒並み良くないものであった
まるであの信仰心のかけらも無い人殺しなり損ないのような人を不快にさせる態度は不明瞭な来歴とともにこれからの「火種」にもなるだろう。
加えて存在しない名家、ありうべからざる血筋、その「姓」を名乗るのだからいくら失敗作扱いされていたとはいえ不穏な噂は数知れない、そのどれもが三島の胃を苦しませる。
この休憩時間であってもだ。
「それにしても三島さん、弱いのに私達と同じようにあんな悪魔みたいな気配発せられるんすね。もしかして「練習」っすか?」
「いいや・・・・それは。」
「我々だ。」
シャンデリアの光が消え、機械的な声が三島には聞こえた。
金髪の裁判官も同様なのはなんとなしに理解できる三島である。
見上げればわそこには八つの星がブウンっと浮かび上がっていた。
おどろおどろしい邪悪な気配を放ち、
禍々しい悪魔のような気配を放つ紫がかった黒で構成された逆さ五芒星には覚えがある。
その異質な空気には覚えがあったのだ
だからこそ火の無い蝋燭台が揺れる中、邪悪な悪魔のような気配が身を包む中で三島は答えた
「いかなる要件で賢人会の皆様。」
「・・・なに気にする必要はない今日は君達をねぎらいに来たのだよ。」
「・・・・・ねぎらう・・・・どう思いますか被告人。」
「・・・・え、私?」
そう少女に投げかければじゃらりという鎖の音の後予想以上に間抜けな声が返ってくる事を三島は理解して聞き流していた。
愛伽など大うけしている。
腹を抱えて笑っているのだ、シアの間抜けな声に
ツボに入ったのであろう、とても元気である。19歳だからこそかも知れないが
「・・・お前ではない、なり損ない。」
「いや、裁判長さんが私に質問してきたんだけど。」
「ごめん耐えられない!あははははははははっははっはっはっはは!!!」
「少々うるさいですよ、愛伽。最高裁判所長官の一人として自覚を持ってください。あとシア私の名前は三島です。」
「え、同じ立場の三島さんに言われるとは思わなかった。」という言葉を見事にスルーし星々に目を向ける。
黒い菱型のそれらは火が灯っておらずとも煌びやかさを失っていない事を三島は理解していた。
シャンデリアの下にあってもなおいつもの通り煩わしい。事実上の上司でありこの世界の支配者たる彼らにはいざとなれば誰も逆らえない。だが言うべきことがあるのだ。
「最高裁判所長官」としてこの事件の裁判長として・・・そして一人の魔女として
「ねぎらいたいという心意気、感謝します。賢人会会長001殿。」
「・・・・・・・」
沈黙が辺りを支配した
その沈黙には多くの意味が含まれているのだろう、三島としては理解できる。
けれど社交辞令を本気で返されたと解釈されたとしても礼は言うべきなのだ。
社会人として
大人として
「・・・・素晴らしい!それでこそ最高裁判所長官の一人だ。我々の見込みは間違いではなかったらしい!!」
「・・・・え」
シアの声が響く
・・・返って来た答えは冷笑でも侮蔑でもなく賛美だったのだ。
そのことに目を見張る者を誰が責められようかそう三島は感じていた。
軽薄な者、愛枷とて思わず顔を上げていた、頭を上司たる三島が下げている最中にである。
けれど賢人会は違ったのだ・・・悪意が
「まさしく、我らの部下に相応しい。疾く励めよ、「犬」。」
「・・了解しました。」
その辱めるような言葉に迷いなく頭を下げている姿をしばらく眺めたあと星々は電子音と共に、去ったと三島は理解した。
吊り下げられた蝋燭達に火が灯り、暗闇が晴れる。
おどろおどろしい邪悪な悪魔のような気配は消え去った。
けれど場は先程以上の沈黙に支配されていた。しかし誰にも破れないであろう静寂は当然のように愛伽によってぶち壊される。
「・・・・はーー、しんど。厨二病のじじい相手するのはしんどいっすね、三島さん。」
「・・・・そう言うな、あれでも上司だ。」
最近の若者らしいかつ辛辣な愛伽の言葉に少し顔を上げ三島が嗜める
何故か伸びを始める愛伽にパンパンとズボンタイプの法服を払う三島・・・それを眺めるシアという奇妙な構図があった。
ふと呆然とするシアを見つめて思い出した、”ある人物”が誰なのか。
「・・・シア、あなたに話があります。」
そして”ある人物”に話しかけた。
■
今回三島が彼女をこの部屋に呼んだ理由は賢人会と合わせる為ではない。
法廷前手続きで既に顔を合わせているのは既に魔女の代理からの連絡で知っていた。
だからこその事でもあるのだ彼女が質問するのは。
「19号、国家近衛部隊副隊長と色欲の魔女代理殿がどこにいったのかどうして先程のような振る舞いをしたのか教えてくれますか?被告人。」
「・・・・・・・」
じゃらりという音と共に頬をポリポリと掻くシアを三島は見つめ愛伽は睨みつける
秒針が10左に回ったあと少女、シアは告げた
「私が決めたことだよ、もしかして逆効果だったかな?」
「・・・・は?」
「・・・・・」
「・・・・は?」と愛伽は声を出し三島は腕を組み黙してシアを見つめる。
続きを促すように
それを察したのかシアは二の句を告げる
「19号と禍根鳥に提案されたことを私が微調整して決めた事なんだけど・・・変だった?」
「「うん。」」
三島と愛伽二人の息が珍しくあった瞬間だった
■
三島には引っ掛かる点があった。
それはシアの「予言」との類似点である
黒い髪に蒼い目、ここまではいい。
数は知れている者のそういう目と髪色の者も少なくはない。
そして服装もいいだろう。予言と同じではあるが基本的に魔女は黒い服装である・・・・なり損ないだが
しかし一番まずいのは暴走形態なのだ。
途切れ途切れだった衛星での監視魔法、それの鑑識結果に依ればその姿は
「黒い髪に朱く縦に割れた瞳孔白い瞳そして赤く染まった結膜。止めの手の平を横断して刻まれた奇妙な亀裂。
これは・・・」
「「「予言の魔女」と一致する。」」
「おかしいよね、あんたはなり損ないなのに、ついでに色も正反対の黒だし。」・・という愛伽の言葉をスルーし少女の反応を三島は窺う。
今「白」はいない
彼女らは影の中に潜り込みいわゆる錨の役割をしている。
少なくとも彼女達裁判官に手出しは出来ない状態だ。
ある程度の身動きは許されているモノの魔女に危害を加えられない状態となっているのだ
四方に持ち上げられた鎖がその証拠である
・・・その抵抗力を削がれた姿を望んだのは彼女だ。
魔女の血を得て間もない彼女に対してのこの措置は異例である
おそらくは暴走形態を加味しての判断なのだろう
私達との・・・・
「会話が目的なんですよねなり損ない。この場を用意したのはあなた、この状態を選んだのもあなたです。ここまでして何を望むのですか」
「分かってるじゃない・・・貴方達との会話だよ。」
「・・・・ほう。」
平然と返された答えに三島は思わず眉を顰める
「なり損ない、お前は何を望むんだ。私達と何がしたい。」
「だから、会話だって。」
自身の投げかけた言葉の答えに思わず首を傾げている愛伽を横目で流して顎に人差し指を添え、三島は考える。
どうして私達の会話を望むのか、どうしてこの場、そして時間を選んだのか。
考える、考える
・・一つ頷いだあと
指を顎から滑らせ少女に向ける
「君が私達の会話を望みどうしてこの場、そして時間を選んだのかわかったよ。」
「・・会話だ。」
「・・・・え?」
困惑する愛伽を嗜めて三つの説明を三島は始める
まず一つ目
この場を選んだ理由
これは平凡な理由だ。
近くにあったから、近くにあったと言えば物理的な距離を想像するかもしれないだがそれだけではない、それは精神的な意味でもある。端的に言えば連想しやすいのだ
裁判前までこの部屋にいたから、
空間の魔力、その馴染み具合がその証拠である。
そして二つ目
この時間を選んだ理由。
これも単純である
裁判に備える為だ。
正確にはこのあとの裁判での立場の確保、のみならず認識の共有ということか
例えば「先の振る舞いの理由」に対する正しい見解をしっかりと示し知らしめる・・・とか
最後の三つ目は最も簡単である
会話をしたい理由、ただ・・・・
「ただ話したかったんでしょう、私達のような平凡な信念を持つ裁判官と。そしてあわよくば自身達の目的に賛同して欲しいというところでしょうか。「掟」に反しない範囲で」
「・・・・うん、どれも正解、どうやら私の「推測」は正しかったみたいだ。「平凡な信念」ってとこ以外間違えないなんて」
「と言いますと?」
「貴方のそれは平凡なものだけじゃないってことだよ、なんとなく。」
「・・・」
「驚いた」という言葉を咄嗟に飲み込む三島である。
ここまで察せられるとは思えなかったのだ、いいや違う
流石になり損ないだと三島は考え直す、あるいはこれも『予言の魔女』の能力なのかと
「断定できないな。」
「・・・え、何がですか?」
「・・・ん?いいえ、なんでもない。」
反射的に誤魔化した三島を怪訝な目で二つの「蒼」が、シアと愛枷が見つめる、けれどすぐに視線を外し間抜け面で頭に?を浮かべていたシアに愛伽は話を振った。
「なり損ない、あんた心を読めるんでしょ、そうじゃなきゃあそこまで考えて行動出来ない。それともこれも「推測」っていうの?」
「・・・・」
長ったらしくも愛情に満ちた愛伽の言葉を耳から耳に通し三島は考える。
少女、シアの思考を
三島に人の心を読む魔法は使えない。
魔女であれば誰でも使える力ではあるが三島にはその力が無いのだ。
扱える魔法も数少ない。
下級魔法、その最低限の魔の力しか使えはしないのだ
しかし公務員としての試験は全て満点でパス出来ているというのも変えられない現実だ。
当然魔法を用いる護身試験も満点である。
そんな「天才」の彼女の頭脳はこの答えを導き出した
「愛伽、この被告人はただ「推測」していただけです。それに基づいて行動していただけ、どうやら彼女は・・」
一歩一歩と足を運べば肌色の前で止まる
少女の白くきめ細やかな肌色の前で
靴を揃えた最高裁判所長官をシアが見上げる
沈みかけの上弦の月のような蒼い瞳、その頬に触れる
「ただかしこいだけのようです。」
なり損ないは笑む
少女のように
□
「なり損ない、貴方に質問があります。」
「・・・何、魔女。」
艶然と手の中のシアは言葉を三島に返す
年端にそぐわないその色気は確かに彼女が化け物に落ちていることを三島に理解させた
「貴方には目的がある、そうですね。では協力者の存在を教えて頂いても?」
見抜いたような三島の言葉になり損ないの蒼い目が見開かれるのを三島は見た。
けれどその瞳は瞬時に細まった
「・・・・ふふ、あは、」
「・・・・・?」
「あははははははははははは!あッハハハハハハハハハハ!!」
怪物は笑む
三島の指から離れて体を仰け反らせて、鎖をじゃらじゃらと揺らし、容赦なく、際限なく。
影が、伸びていく
「・・・・何を笑っているのですか。」
「・・・・・」
静止する三島の言葉にとピタリと化け物は笑みを止め、だらりと前のめりの体勢になった。
髪が彼女の貌を隠す、禍々しい気配が表出し影と共に部屋を埋め尽くした。
「三島さん、こっちに・・・」
自身をハッキリと呼ぶ愛枷の声に三島が身を寄せれば・・
暗闇に支配された直後、蒼が現れた。
火である。
しばらくしたあと愛伽のモノと直感した三島はそれに近づこうとして音に目を向ける。なり損ないのいた方向に。
ぎしりと鳴った鎖がなったのだ。おそらく反動で鳴ったそれが今は頼もしく思える、少女が鎖に繋がれていることに安心感を覚えたのだ。それほどの脅威を三島は、おそらく愛伽でさえ今の彼女から感じていた、闇の中であっても
「三島さん、私がシャンデリアに火を灯します。いいですね。」
「ああ。」
蒼が光を放ちながら空へと昇っていくのを三島は見た。
炎色を燭台の火の色に近づけながら、その色が限りなくよく知る赤に近づいたころ、蝋燭の紐に炎が、触れた。
とたん、目を開けばそこには火の灯ったシャンデリアがあったのだ。
周りを見渡せばみるみる内に炎が蝋燭に近づき、灯っていく。
燭台の数だけ炎が分裂しているのだと直感した。
あきらかに愛伽の仕業である、おそらくは高位の魔法の応用によってなされた業であるのは下級魔法しか扱えない三島にも理解できた
やがて光は取り戻された。
「・・・・」
目を閉じるとすぐになり損ないのいた方向に目を向け、三島は目を皿にする
長く艶やかな黒髪に唯一隠れていなかった目蓋がギっと開かれた。
そこには瞳があった、「予言の魔女」と同じ、赫の瞳。
更に気配、そして影が濃くなる、光の下だというのに
何かから視線を向けられている気配もある。
おそらくは床から、床からだけじゃない周囲から、何かから見られている、それも複数以上の何かに
事実として愛伽は少女の奥を見て動けていない
周囲に同じような気配があるというのにただ一点を見つめるだけでだ。
その瞳は怯えているように見えた、どころか体も震えている、あの愛伽がだ
意を決してカイブツから目を逸らしその周りを見れば、そこには
「・・ッ、うわああああああああ!!!」
赫い目が周囲を覆いつくしていたのを愛枷と三島は見た。
真っ黒な影を埋め尽くさんがばかりに
蝋燭が影に落ち煙とともに消える
光が又しても掻き消された
□
「・・ッ、うわああああああああ!!!むぐっ!ん~~んん~~~~!!?」
思わず口から出た悲鳴を何かにせき止められた
唇から感じるしなやかな、けれど力強い感触。
目を向けるまでもなく三島は直感した
「なんで私の口を塞ぐのです!?愛伽!!!」
そう他ならない愛伽の手なのだともごもごと抗議の言葉を発しつつも三島は回想する
・・・この経験は三島からしても初めてではない
黒光りする害虫が三島の足の間を通り抜け、白い壁を当然のように登る時に彼女は同様の悲鳴を発していた。そのあまりのやかましさ故に三島は愛伽に口を塞がれるのだ。
けれど、普段と違い三島は意識を失うことなかった
どうしてか愛伽に目を向けることが出来なかった
それに疑問を抱く三島である
「普段なら私の意識を奪って、先にゴキブリを片づけている筈。けれど今はそうはしない、それは当然」
普段とは比べようもない脅威を相手にしているが故、である、そう唇をもごもごさせながら考えさえた三島である。
「・・・・・」
キッと三島はなり損ないを睨みつける、睨みつけられた。そのことに自身でも驚く三島である、が今はどうでもいい。
暴走形態かそれとも力を極短期間で制御出来るようになったのか三島にはわからない
ただなり損ないを見つめる。
髪によって隠された顔にその間から覗く赤い瞳
そして部屋を埋め尽くす影
それを覆いつくさんばかりの赫の瞳
濃い気配
「貴方は何者ですか?」
声に出せたことに驚く暇はなかった
横を見つめる、隙は無かったどちらも無いのだ三島には
他ならないなり損ない相手には
他ならない『予言の魔女』が相手には
「貴方達は何者ですか?」
繰り返される問いになり損ないは答えない
『予言の魔女』は答えられないただその赤い瞳で三島を見つめるのみである。
「・・・ッ」
締め付けられるような感覚に目を下に向ければ影でできた少丘が足を飲み込んでいた事を三島を認識した。
そしてそれは既に腕を縛り付け、肘に触手を伸ばしていた
「これが返答ですか、「随分」なものですね。」
「・・・・」
その皮肉になり損ないは答えないけれど三島にはわからない。
一体どうしてこうなったのか、それは分からない
いつなり損ないに落ちたのか、それも解らない
ただ、手遅れなこと以外は何もわからない。
荒くなる息、思いがけず横を見れば愛伽が倒れていた
ぐでんと四肢は投げ出され体はビクン、ビクンと痙攣し、口からは泡を吹いている
『失態だ』と三島は直感した、どうして自身が声を出せたのか、どうして口の前に手を置かれていなかったのか考えなかった、考えられなかった自身の失態であると、しかしそれ以上は考えられなかった
頭が回らなかったのだ
気配の更なる濃さに
「・・・嘘・・・でしょ。・・体の震えが・・・止まらない、恐れが膿みたいに・・」
湧く、湧き出てくるカタカタと歯もなり出した、ふと三島の視線が下がる
腰が抜けてしまったのだ
動けない、動こうとも考えられない
殺気が三島を愛伽を包み、飲み込む
気配が気配に呑まれ、部屋を塗りつぶす
その時、三島は「死」を感じた
鳴っていた歯の音も今は聞こえない、腰が抜けていることも気にならなかった
ただ「死」の気配を感じていた、感じていれば
なり損ないが目を閉じた
影が影に戻り少女の足元に還っていく
それを呆然と見つめていれば
少女が片腕を引く
きりきりとした音の後、鎖がパキンと粉になった
・・・目は未だに見開かれたまま動かない
手首を引けばピキリいう音の後、手枷が甲高い悲鳴を上げて粉になった
立ち上がり右足首、左足首と力を込め拘束を文字通り鉄粉にしていく
・・・首も右手首も右足首左手首も左足首も、動かせない
最後に残った首輪に手をかければ、パキンと意味を失くした
既に戻った影を身を屈めて確かめ手首を振り、足首を振り背伸びをして、ふうっと息を吐き出す少女を三島はただ動かない体で目で見つめるしかなかった
それに気付けば少女はあっけらかんとした顔でこう言った
「・・・ドッキリ・・でーす。びっくりしたぁ?」
ただ大人の溜息が目いっぱい部屋を満たした
□
「ごめんなさい、あんなにあっけなく情けない姿を見せちまいました。」
愛伽の言葉にシアは頷き三島は言葉を返す
「気にしないで、あれは仕方の無いものだった。私の方が意識を保てていたのが驚きなくらいだ・・・・けどそこで頷いているあなた。」
「・・・え」
長ったらしい三島の言葉にシアは素っ頓狂な声を上げる、けれど三島は気にしない
どころかただ畳みかけた
「謝れ。」
「・・・・」
ただ冷酷な瞳で「謝れ。」と命令をしてくる三島にはシアは目を丸くする。
突然の言葉に頭がフリーズしたのだ
けれど無理は無い、その言葉は少女にとって全く予想外の言葉だったからだ。
だが
「ごめんなさい。」
だが、少女は違った、少女には確かな共感力と頭の回転の速さから自身がどれだけのことをしたのか理解したのだ
故の謝罪、故の低頭である
少女は彼女達の心を理解して頭を下げたのだ。
「・・・・・」
それに命令しておきながら驚きを隠せない三島である。
最近の子どもって空気も察せるんだ、いいやむしろ当然かと納得する三島だ。
無論である
賢くない子どもの方が少ないのだ、集団との会話である程度の対人感覚を築けるほどの平均的なコミュニケーション能力を有していればどんなバカでも空気は読めるようになる。
その力が付いていけば自然と友人達と勉学に励むようになり自己研鑽へと繋がるという訳だ
三島も当然その一人であった
がり勉君という訳ではなかったのだ
「それで、一体どういうつもりだったのなり損ない。」
動機を問う三島の問いに押し黙りつつ頭を上げなんでもないようにけれど静かにシアは語り出す。
この行為には目的が三つあったのだと
一つ目
自身の力を示すこと
少しでも裁判官への印象を自身への有利なものとするためのあるいは協力関係をスムーズに構築するため
の力の誇示
二つ目
魔法の試運転
自身が目覚めた力を試しておきたかったのだろう、もしくは自分の力を正確に測る為の実力行使
三つ目
彼我の力の差をはかること。
あるいは魔女との自身の差を識ることだろう
「全体の目的としてはなり損ない自身を売り込むことだったというわけだな。」
その愛情に満ちながらも静かな愛伽の独り言に少し考える三島である。
彼女の目的はどちらかというと・・・・
「認知してもらうことだよ、私がどういう存在か、私自身知らない私も含めて。その上で公正に裁判をして欲しいんだ。」
「・・・・」
というのが自然であると三島は理解していた。ら
自身が完全に絞首台に登るからこそ人格面から来る動機の矛盾点にも目を向けて欲しいということだ。
端的に言って彼女は死にたがっていない。
けれどそれでは矛盾するのだ。
これまでの行動と
「三度の暴走の内、貴方が魔女の代理に牙をむいたのは一度きりです。それ以外は「色欲」殿の紛らわしい態度と対面の仕方、そして態度の悪い聴衆や我々に対する侮辱ともとれる言葉を投げかけるなど貴方の立場になれば酌量の余地があります。」
「・・・なら!」
「しかし許されないのは次の点です。貴方私達に嘘をつきましたね。」
三島の言葉にしかしシアは答えない。
当然である。シアの目に映るのはただ一点の、興味のみ
三島の言葉の答えのみなのだ。
しかし気にすることなく三島は続ける
「貴方は力に目覚めていない。そうでしょう。」
・・その淡々とした三島の言葉にしかし少女は笑んだ。
■
「え、どういうこと・・それってつまり・・」
「私の立てた仮説が間違っていたということです。」
三島の言葉に愛伽は問い返す
「まって、三島さんそうだとしたらさっきまでの三つの仮説が全部っひっくり返っちゃうってこと?ついでに三度も暴走して無かったってっこと?」
「はい。正確には二度の暴走です、ね。先程のは敢えてでしょうから。」
言葉の応酬に目をぱちくりする愛伽を目の端に追いやりシアに三島は目を向ける
手首に着いた鉄の手枷を腕輪のようにグルグルと回しているのが目に見えた。
黒髪蒼目の美少女の謎行動に特に動揺は無い、裁判長だから
勢いのまま回る鎖を傍目に少女に目を向ければ、
そこにはまるで動揺が無かった
全て想定通りと言わんばかりの超然とした蒼に思わず目を細める
「そんな不快気に見ないで欲しいな、裁判長さん。私気分次第で貴方にギロチンに掛けられるんだけど。」
「気分次第ではありません。掟次第です。」
「意外とプロ意識あるんだね。驚き。」
「プロですので、そして貴方と違い大人でもあります。」
シアと三島の目があった。
彼女はしていたのだ怪訝な目を・・・
ある種不安がっているようにも思えるそれにしかし三島は理解した。
この子はまだ守るべき掛け替えの無い子供なのだと。
「プロだから「掟」は守る?」
「ええ」
「大人だから子供を慮る?」
「それが大人の責務ですので。」
だからこそなのか淡々とシアの質問に対して三島は答えてゆく。まるで子供の不安を拭い去ろうとするように。
その言葉に少女は目蓋を閉じ考える
考える、考える
そして瞼を開き閉じた
「・・・貴方のことは分かったよ三島最高裁判所長官、私の裁判長。」
「貴方の裁判長ではありません。しかし約束しましょう。」
ただじっと三島の目をシアが見つめる
ぐるぐると回されていた鎖はぶらりと垂れ下がりつつも微かに揺れていた
愛伽の視線を感じる
驚きから帰って来たのだろう。
あるいは思ったよりも驚愕に支配されずずっと話を聞いていたのか三島には考える暇が無かった。
しかしどうでもいいことである。
今、送るこの言葉に比べれば
・・・なにせその言葉は
「魔女の掟の元、例え魔女であろうと公平に裁きましょう。」
三島の「信念」そのものだからだ
■
「ただ最後に言っておきます。」
静かなその言葉にしかし無表情の三島を見つめながらシアは首を傾げる
三島の押し殺したような表情と
愛伽の気まずそうに逸らされた目がただ単純に理解が出来なかったのだその意味が
けれどその意味はすぐにわかった・・・なぜなら・・
「あなたは死刑です。例え証拠がなくとも」
そんな理不尽な現実そのものだったからだ・・そう三島が齎した言葉は
「それが魔女の「予言」ですので」
そんな支離滅裂で意味不明な言葉で彩られた三島が離したあと・・・
「白」が姿を現した
影をその身に纏いながら
影が真っ白な衣から全て剥がれ落ちた頃
・・・・「白」が首に杖先を向ける中少女はただ見上げていた
空を
決して見えない蒼を
黒い影に呑まれながらも
瞼すら閉じずに
ずっと、ずっと、ずうと
・・・視界が「黒」に満たされそして少女は・・・・・
目を閉じた
□
じゃらりじゃらりと音が響く
それは鎖が擦れ合う音、彼女が罪を背負う証
「・・・・・・」
じゃらりじゃらりと音が響く
それは心が擦れ合う音、彼女が慈愛を持つ証
「・・・・・・・」
少女の足が止まり、揃えられる
見上げれば眼前に黒があった。
門に見紛うそれは果たして門ではない
それは扉であり、境界だ。
「この先にあるのは先程通りの法廷だ。しかし「コレ」自体は常に張られている訳ではない。この「境界」はお前が先程まで見ることの出来なかった共通幻想、これ自体が門であり扉であり結界なのだ。」
「・・・・・・・」
暗黒が支配するそこはどうにも少女には先の無いように見えた。
距離が離れている訳ではない
魔力が放たれている訳ではない
まるで永遠に辿り着かないような「遠さ」を感じるのだ。
銀の首輪が輝く
「・・・・・・これは、一体。法廷と一体何が関係あるのです。」
「同じ説明をさせるななり損ない。聞いたところで貴様の「死」は変わらん。・・・しかし答えよう。この「扉」はここと法廷を繋ぐもの、これこそが法廷でありこの場所の境界なのだ。この姿は仮初のモノに過ぎん。」
「「死」が変わらないなら貴方がここまで私を警護させる訳がない。貴方もしかして」
「べらべらと喋るな、なり損ない。お前の死刑は魔女が決められたことだ。」
「・・・・・・・・」
傍らに控える「白」が嘯けばその言葉に少女は目を開いた。
意味が分からないという言葉は、頭に浮かばなかった
理解出来ないという言葉でさえ、脳裏には存在しなかった
ただ一言、ただ一言が少女に引っ掛かったのだ
「・・魔女ってあれの事?」
「・・・・・・・・・・・・・」
沈黙の中目を見開けばけれど見開く前と変わらずそこには像があった、それを目に収める少女である。
首のない女の像
ノースリーブながらローブのようなモノを纏ったその肢体はすらりとしていながら胸部は豊満だ
両の手によって胸の前に構えられた杖は鈍色の輝きを放ちながら単純でありかつ特異な装飾を一段と映えさせていた
白い白い肌と相まってどうにも少女には人間離れしているように見えたのだ。
まるで女神のように、まるである種の魔物のように
首が無いというのに
「・・・・・・・ああ、そうだアレが魔女だ。」
肯定する「白」の声はけれどどこか無機質だと少女は認識していた。
どこか無感情でもあるそんな声色にしかし、気を向けていなければ背後から声が掛けられた
「なり損ない、時間だ。」
「・・・・・」
沈黙の中三島から忠告代わりに言われた言葉を少女は回顧する。
「白」の声は通常性別が分からないようになっている。
多くの犯罪者を護送する役割を負う彼らには身を護る為の数多の手段が備えられているのだが、これはその一つ、「衣裳」である
この「衣裳」は着用した者の存在を誤認させる
声を発すれば音波を
息を発すれば息跡を
足を動かせば足跡を
各々の出した痕跡を認識した者の脳髄を騙し誤謬を生じさせるのだ
単純に言えば認識阻害魔法の付与された特殊衣服である
新たに嵌められた銀の鎖達同様に、彼女という驚異から多くの者の身を「白」の身を守る為の手段の一つであった。
それほどの脅威なのだ、なり損ないとは
「・・・・わかりました。」
だがそれらの事を聞く気が無かったただ返事を少しの沈黙とともに少女は返しただけである
興味が無かった
聞く理由が無かった
自覚する気が、無かった・・
故に振り返らなかった
何故ならそれはこの企みとは関係が無いから
・・・・そう
「さらばだ、なり損ない、もう二度と会うことないだろうな。」
「・・・・・ええ、そうですね。」
微かな沈黙とともに少女が振り返る
白の一人、その肩が跳ねた
ただ少女の顔が恐ろしかったのでもない、美しかったのでもない
ただ・・・・
「二度と。」
ただ無邪気な笑みだった
■
「被告人、何か傍聴席に視線を送っていましたが何か。」
「いいえ、問題ありません。・・・・ただ」
「・・・ただ?」
「・・ただ、あの私を恐れていた「白」が結局ついて来てくれていたのだと考えると・・・つい。」
被告人、シアの不明瞭な言葉と頬を掻く仕草に裁判長、三島は閉口しながらも疑問を抱く
三島にはわからない、
何故「白」を知っているかではない
何故突っ立ったまま微動だにせず魔女の代理以外の魔女をぼんやりと見つめていたかでもない
それはそれぞれ居なくなった19号国家近衛部隊隊長と「色欲」の魔女の代理のどちらかが「白」について教え、もう一つは何か魔女達に思うところが在ったのだろうと推測する三島である。
分からないのはただの一つだけ
どうしてこのなり損ないが何故この場にいるのか
影に来る前、彼女の貌は確かに呑まれていたのだ
絶望と諦観、そして何かに
けれど今はそれが無い
ただ涼しい顔をしたカイブツがいるだけである
本性を表したか、それとも諦めて絶望しておかしくなったか?
あるいは力に目覚めていない事に気づかれていることに内心冷や汗を流しているのを隠しているのか?
どれかわからない三島であったがすぐにその思考を切り捨てる
どちらでもいい、今はこの者を断頭台に送る
そうして銀の鎖を断ち切る
それが三島の使命だった
故に宣言する
「・・・・・・これより、午後の部を開催します。」
微かな間を置きながらも厳かな言葉に「裁判所』が動き出した事を三島は肌で理解していた。
紫がかった黒が魔導人形を紡ぎ上げ裁判官たちの頭上に八つの菱星達が現れた
魔女と人形達そして世界最高権力者達による裁判が再び始まった。




