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人型魔導具の新生活

 僕の名前はアダム。

 魔女の作りし魔道具の一種、通称「ほうき」と呼ばれる存在である。


 今は色々あって、亡きご主人様の妹君であるシャロン様のお手伝いをさせていただいている。シャロン様は僕達のようなほうきを作る仕事をしているらしく、本人曰く腕前は世界一とのことだ。いまいち理解が追いつかないけど、とにかく凄いことなんだろう。得意げにおっしゃっていたし。


 元々シャロン様は代々ほうきを作る職人の一族らしい。本来は僕のご主人様であるソルシェ様が家業を継ぐ予定だったのだけど、ソルシェ様はそれが嫌で家を出ていってしまったらしい。結局、残ったシャロン様が後を継ぐことになってしまったのだという。


「元々、ほうきは好きだったし、ほうきを作るのも興味はあったから、だから姉さんを恨む〜とか、そんなことはないんだよ。強いて言うなら、あたしにも何も言わないで出ていったのが嫌だったかな」


 シャロン様はご主人様の妹君ということもあり、お顔立ちはよく似ていらっしゃる。

 桃色の髪に翡翠色の瞳、そして魔女特有の白く若々しい肌。髪型がご主人様より短いだけで後は瓜二つだ。これが、姉妹というものなのか。


 異なるところがあるとすれば、シャロン様の方が何をお考えなのか分かりやすいことだろうか。シャロン様は「ハッキリ・サバサバ」とした性格で、喜怒哀楽がすぐお顔に出る。おかげで余計なことを考える必要がない。ご主人様の場合、あまり表情が変わらない方だったから、最初少し苦労したものだ。慣れてきたらどうということはないんだけど……。


 シャロン様にそのことをお話すると、笑いながら「そうそう!」と共感してくれた。


「姉さんってそんなだからさ、よく誤解されがちでね。あたしもちっちゃい頃は姉さんのこと怖かったよ。でも話してみると案外、そうでもないってなるのよね。まあ、誰にでも言える話だけどさ」


 ご主人様のことを話す時のシャロン様はこの上なく明るいお顔をされる。本当にご主人様のことが好きなんだろう。その気持ちは、わかる気がする。


「姉さんは森の中で草木を愛でてるのが好きでね〜、家業なんかすぐ放り出して近所の森に行きまくってて、よくおばば様や母さんに叱られってたっけ。全く懲りなかったけど」


「シャロン様もご一緒に森に行かれたりしたのですか?」


「あたしはあんまし行かなかったかな。外に出るの好きじゃなかったし」


「へぇ、意外ですね。アウトドアな方だと勝手に想像しておりました」


「自分で言うのもなんだけど、明るいイコールアウトドア、って結びつけるのは良くないわよ、アダムくん。性格と趣味嗜好が必ずしも結びつくとは限らないんだから」


 確かにそのとおりだ。


「失礼を致しました。どうかお裁きを」


「いやそこまで詰めてるわけじゃないから安心しなさい。あたしをそういう風に見る人は少なくなくないからさ。てかすぐに罰を受けようとするその姿勢の方をすぐ改めなさい」


 こんな風に、シャロン様は定期的にこの世界を生きていく上での処世術を教えてくれる。普通のほうきならば不要らしいのだが、僕は「特別」らしいので、色々教える必要があるのだという。僕が失敗作だからかなのかと思ったけど、そういうことでもないらしい。うーん、よくわからない。


 シャロン様は僕に本当によくしてくださる。住む場所、仕事、講義、趣味の読書……僕のためにあらゆる手を尽くしてくれる。この世界は何なのか、生命とは何なのか、ほうきとは何なのか、魔道具とは何なのか……生きるとは何なのか。


 シャロン様は毎日僕に色んなことを教えてくれる。すべてを理解できたわけじゃないけれど、何よりシャロン様とこういう話をするのが今、とても楽しい。自分でも驚くべき感情の発現だ。シャロン様にこのことを話すと、すごく嬉しそうな笑みを返した。


「その気持ち、決して忘れないようにね。あなたにその気持ちが芽生えたことは尊いことだし、今後はその気持ちが生まれることを目指して生きていきなさい。あなたのほうきとしての生は、魔女のあたし達より短いんだから」


 僕を教えている時のシャロン様は、まるで亡き御主人様を見ている時のように頼もしく、優しいお姿だった。


 ☆☆☆


 シャロン様のお宅に滞在し始めて早二ヶ月と十六日。最近はシャロン様に代わり、必要物資の購入も行うようになった。最初はシャロン様が付いてきて色々教えてくれたが、今は一人で問題なくこなせている。


 街では多種多様な人間が、各々の役割をしっかり果たしていた。中には僕のようなほうきもいて、主人の命令を忠実にこなしていた。


 物資を全て購入して家に戻ると、今度はシャロン様の仕事を手伝う。シャロン様は仕事のことになると、普段と打って変わって寡黙になる。険しい顔で一つ一つの工程を丁寧に捌き、組み上げる。研究に没頭していた亡きご主人様を見ているようで、実に凛々しいお姿である。


 シャロン様の作るほうきは、僕のような人型もあれば、名前通りの「ほうき」のような非人型と様々であった。というより、ほうきにこれほどの種類があったことに驚きである。それを言うとシャロン様はクスッと可笑しそうにお笑いになった。


「どんなほうきより、君が一番驚くべきほうきなんだけどね」



 ☆☆☆


 シャロン様は夕餉の前、必ず風呂に入る。ご主人様もそうだが、この姉妹はどうもきれい好きな性格らしい。お二人共、僕に丹念にお体を洗うよう命令する。特に背中は自分では届かない所があるからと、殊更綺麗にするよう命じてくる。


 最初、一緒に入って背中を流そうとすると、シャロン様は言葉にならない声を上げて驚いていた。どうも、男性と女性が一緒に風呂を入るのは道徳的にまずいものらしい。


 しかし、僕が亡きご主人様の背中を毎日洗っていたことを話すと、しばらく何かブツブツ呟き、そして何故か一緒に入るよう命令してきた。顔を赤くしながら。


「道徳的にまずいのならば、僕は遠慮させていただきますが」


「い、いいから。早く入りなさいな。姉さんがそうしていたのなら話は別。あたしはか、構わないから!」


 と、謎の圧を受けて今に至る。


 風呂に入るといつも以上にシャロン様は開放的になる。僕と亡きご主人様の関係とか、グイグイ聞いてきた。


「えっ! 同じベッドに寝てたの!? まじ?」


「はい。ご主人様が寂しいから、ということでいつも一緒に」


「そ、それってさ、寝るのに、さ……しばらく時間かかったりとかしてない?」


「? いえ、いつもお互いすぐに寝ていましたが?」


「そ、そうなんだ……ちょっと残念」


「? 何が残念なんです?」


「いやっ!? な、なんでもないんですよ、うん! ちょっと、ああいう気持ちも出るもんなのかなと思ったりしたんだけどね、うん。そ、そうか……それはなかったかぁ……まあねぇ、さすがに姉さんもそこまで見境がないわけじゃなかったかぁ……うん」


「???」


 シャロン様が何を求めていたのか、未だにわかっていない。


 ☆☆☆


 ご主人様、光となったご主人様。

 あなたの妹君、シャロン様はあなたに似てとても良い方です。あなたはこうなることがわかっていたのでしょうか? シャロン様ならば、僕の進む方向を教えてくれると? そうであれば、改めてあなたを尊敬いたします。


 ご主人様、シャロン様からあなたのお話を聞くたび、あなたが実は凄い方だったのだと知らされます。正直一緒にいた時はそこまで思いませんでしたが、いなくなって偉大さがわかるのも、少し寂しいものですね。


 ご主人様、僕はもう少しシャロン様のもとで教えを受けようと思います。あの方は世界一のほうき職人、きっと僕以上に僕のことを理解し、僕に正しい道を示してくださるでしょう。しかし、ただ頂くだけでは不忠です。ご主人様やシャロン様がおっしゃったとおり、受けた恩は必ず返します。


 そしてご安心ください。あなたの妹君は必ずお守りします。それが、僕を育ててくれたあなたへの恩返しになるはずですから。


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