好感度測定アプリ
「好感度測定アプリ」をインストールすると、簡単な操作説明と共にスマホのカメラが起動した。
私はクラスの喧噪の中、カメラをゆっくりと彼らに差し向ける。クラスメイトたちの頭上に、数字がぽつぽつと現れた。
凄い。みんなが私に抱いている好感度が数値化して見えている。説明書によると、「無関心」が0~10、「普通」が20程度、「好き」が100前後ぐらいの数値らしい。確かにざっと見た感じ、ほとんどの数字が20以下という結果だった。私はクラスメイトからはそんなに関心を持たれていないようだ。
このアプリは全世界でセンセーションを巻き起こした凄いアプリで、周囲の人間にカメラを向けると撮影者への好感度が表示されるという機能を備えている。最初は個人間の友人選びや恋人選びなんかに使われていたけれど、いつしか企業が接客業のお客様対応満足度を測るために使ったり、政治の外交対策に使われ始めたりなど、その使用範囲は急激に広がっているようだ。面白い機能だけど、心の中に秘めているものが暴かれるようでちょっと怖い。
「芹那、ようやくそのアプリ入れたんだ」
隣で私のスマホを覗き込みながら、親友の萌花が言う。私はいたずらでもするように、さっと萌花にカメラを向けた。
親友の萌花が私に抱く好感度は、98。
ほとんどの同級生は数値が10以下だから、これはかなり高い数値と言えるだろう。
「え~98!?私が芹那好きなのバレちゃうじゃん!」
萌花が悶え叫び、私は笑った。
「好意が数値化されるなんて、凄いね」
「ねー!このアプリが発売されてから、ちょっと学校の人間関係が変わったと思わない?みんな、好感度の高い関係同士でつるむようになったみたいだよ」
「へー、そうなの?……でも、言われてみれば」
私は教室中を見渡した。
そうだ。この前、同じクラスの桜井君とめぐちゃんが、このアプリのせいで別れたって話を聞いたことがある。何でも、サッカー部の先輩がめぐちゃんにかなり高い好感度を示していたらしく、めぐちゃんがそっちに乗り変えちゃったって話らしい。
「このアプリがあれば、効率よく気の合う仲間が探せるんだよねー」
萌花はそう言って、彼女のスマホの「好感度アプリ」を起動した。それをクラスに差し向けた時、私はつい「あ」と声が出た。
桜井君の頭上の数字が90。結構高い。
萌花も「ん?」と、その異変を察知したようだ。
私は妙にドギマギして、何て言ったらいいのか分からなかった。じっと考え込んでいる萌花の顔を眺めながら、私は彼女の次の言葉を待つ。
「ま……好かれてるんだから、いっか。嫌われているよりはね」
私はその言葉に何度も頷きながら、萌花の目の色が変わりつつあることに引っかかりを覚えた。あまり考えたくはないけど、数値で相手からの好意が分かると、逆に撮影者側が意識し始めたりすることだってあるんじゃなかろうか。
私は緊張しながら、このアプリを入れた「最大の理由」であるクラスメイトの亀山君にそっとカメラを差し向けた。
あらら。亀山君の私への好感度、たったの13。
私はそっとカメラを下ろした。
うん。現実なんて、こんなもんだよね。
私は馬鹿だから、つい亀山君に毎日カメラを向けてしまう。
いつか私への好感度が急に上がったりしないかな、なんて過度な期待をしてしまうのだ。
亀山君はとても大人しい男の子だ。運動も余り出来ないし、眼鏡君だし、背もあまり高くなく、クラスに友達もほぼいない目立たない男の子。でも私は知っている。亀山君は書道がとても得意で、学生向けの書道展のみならず企業の賞なんかもドンドコ獲っている「一芸」の持ち主なのだ。
去年の文化祭の前日、文化祭実行委員だった私は亀山君に依頼し、文化祭ステージの横断幕に「○○高校文化祭」と大筆で書いてもらった。文化祭実行委員たちは中庭に面した校舎の二階から、そのパフォーマンスを見守った。大筆でダイナミックに書く文字が素晴らしくお上手なのは勿論のこと、はね返る墨を浴びた亀山君のジャージ姿が何だか生き生きとして格好よくて、私はつい彼のことを好きになってしまった。
でも、自分から話しかけたりはまだ出来ない。本当にしょうもない理由なんだけど、みんなの目があって恥ずかしいんだ。恥なんてかなぐり捨てられればいいんだろうけど、しつこくして嫌われたくないとか、振られたら噂になるんじゃないかとか、告白して失敗する未来ばかりがちらついて、次の一歩が踏み出せないでいた。
そんな自分の迷いを振りほどきたくて手を出したアプリだったけど、こんな数値を見たら余計に話しかけるのをためらってしまう。
気が沈んで来た、そんな時だった。
「ねえ、好感度50ってどう思う?」
窓際に陣取っている女子たちが、あのアプリの話をし始めたのだ。私はそっと聞き耳を立てる。
「嫌われてはなさそうだよ。20で普通だから、50ならむしろ好きってことじゃない?」
「でも、こっちから告白するんだったら相手の好感度80ぐらいは欲しいよね……」
私はため息を吐いた。亀山君から50も数値もぎ取れてたら、私なんか嬉々として告白しに行っちゃうけどな。
「そういえば、そこの窓の下にいる桜井を撮ったらさぁ」
私は再び耳をそばだてた。
「見てほら、私への好感度90」
私は思わず声の方を振り返った。女子はそれに気づかず、顔を寄せ合ってはしゃぎ出す。
「マジ!?高っ!」
「ね、ゆっぺのスマホでもやってみなよ」
「えー?いいけどぉ……あ、88」
「マジ?このアプリ、エラー出てるんじゃないのぉ?」
「誰にでも好感度高いなんておかしいよ。バグかも」
私は彼女たちから顔を背けた。バグかあ。確かに、これは単なるアプリだもの。そういうこともあるかもしれないな。
……とすると、このことを萌花にも教えてあげなきゃいけない。バグった数値に乗せられて桜井君を好きになっちゃったら、あの子あとで痛い目見ちゃうかもしれないもんね。
「萌花?」
私は立ち上がると、目で萌花を探した。あれ?さっきまで黒板のそばで別の友だちと立ち話していたはずだったのに、いなくなってる。
「萌花……」
困ったな、と私が頭を掻いていると、急に背後から声が飛んだ。
「沖田萌花なら、この窓の下にいるよ」
私は振り返って見て、驚いた。
声の主は亀山君だったのだ。なんと、こっちに向かって手招きまでしている。
私は目で会釈すると、彼のいる窓際まで歩いて行って、どぎまぎしながら亀山君の指さす方向に視線を落とした。
萌花は、桜井君のいる方へ速足で歩いていた。二人は落ち合うと、話し込み始める。
私が教室のある二階から聞こえるはずのない会話に必死に聞き耳を立てていると、同じようにそれを覗き込みながら亀山君が言った。
「そういえば米沢さん、何で俺に毎日カメラ向けてるの?」
時が止まった。
「……えっ!?」
「米沢さん、さっきもこっちに向けてたよね、カメラ」
亀山君は真剣な表情だ。ちょっと怒っているようにも見える。私は青くなったが、嫌われたくない一心で正直に答えることにした。
「好感度測定アプリを入れたから、使いたくなって……」
すると亀山君はちょっと呆れてから
「……いくつだった?」
と私に尋ねた。
「な、何が……?」
「俺の米沢さんへの好感度っていくつ?」
ひえええと叫びたい気持ちをぐっとこらえ、私はここも正直に答えた。
「……13」
「ふーん、そんなもんなんだ。それって数字的にどんな感じなの?」
「無関心から普通、ぐらいかな」
「あー……」
亀山君は、いかにも納得したかのような間の抜けた声を出す。それから、少し笑った。
「みんな、そんなに他人からの好感度が気になるのか。変なの」
私は青い顔から一転、赤くなった。そして急に亀山君が大人びて見えた。この人は、他人からの好感度が余り気にならないらしい。私は落ち着き払った彼の横顔を眺め、ますます亀山君のことを好きになってしまった。
一方、桜井君と萌花は、黙りこくるこちらとは対照的に話が盛り上がっている。
萌花、桜井君からの好感度高かったもんね。いいなぁ。
そんなことをぼうっと考えている内に、亀山君はふいとどこかへ行ってしまった。ああ、好感度が低いとこうなるのね……辛いなぁ。こっそり好感度測定していることもバレてたし、きっと嫌われたに違いない。
私は肩を落として桜井君と萌花が帰って来るのを待った。
昼休みを挟んで次の授業ギリギリに、萌花は桜井君とキャッキャしながら戻って来た。しかも二人の間で、何か特別な関係性が生まれたような視線のやりとりさえあった。きっと、お付き合いの話がまとまったんだろう。
私の心はどんよりと曇り始める。男の子に親友を取られてしまったのだ。
あーあ。
好感度測定アプリなんて、この世になければよかったのになぁ。
下校時間になって、萌花が私に話しかけて来た。
「ごめん、芹那。私今日からちょっと別の人と帰りたい──」
「気づいてるよ、萌花。桜井君と帰るんでしょ?」
萌花は頬を赤らめて頷いた。ふーん、やっぱりね。
「いいよいいよ、親友の恋路を邪魔する気なんかないから」
「ごめんね」
「謝らないでよ。私と帰りたくなったら、いつでも誘ってね」
「……ありがとう、芹那」
「うん!」
私は物分かりのいいフリをして、口から湧き出そうになるどす黒い感情を胸にしまい込んだ。
二年も同じクラスでとても仲良くなれた親友だっただけに、喪失感は大きかった。
靴箱の前に立ちため息を吐いていると、
「米沢さん」
聞き覚えのある声が隣から降って来て、私の心臓は衝撃に潰れそうになる。
すぐそこに、亀山君が立っていた。
「か、亀山君……?」
「俺もスマホに好感度測定アプリ入れてみたんだけど」
「!」
「えーっと……米沢さんのこと撮ってもいい?」
「!!」
私は何も言えず、ぱくぱくと口を動かした。亀山君は二コリともせず淡々と続ける。
「そっちばかり俺のこと撮ってずるいよ。仕返しさせて」
あ、と私はようやく声が出た。本当にそうだ。好きでも何でもないクラスメイトにコソコソ好感度なんか撮られて、気分良くいられる人なんかいないよね。
私は今更になって恐くなったけど、それで大好きな亀山君の気が済むならいいやと考えた。
「……どーぞ」
私はささっと髪を整えると、あえて靴箱の前でピースして見せた。道行く生徒が笑ってる。亀山君は臆面もなく、醜態をさらしている私の姿を撮影した。
カシャッ。
亀山君は、撮った私の好感度をスマホの画面上でまじまじと確認した。それから、くすっと笑う。
「ありがとう、米沢さん」
私はへへ……と諦観の極みで笑って見せた。
「好感度120って凄いね」
「ちょっと……数字読み上げないでくれる?」
亀山君は私のダウナーな反応にひとしきり声を殺して笑ってから、覚悟を決めたようにぽつりと言った。
「嫌じゃなければ、駅まで一緒に行こうか」
私は突然の僥倖に固まった。
亀山君から下校のお誘い!?好感度13程度の私に!?
私は警戒した。私は彼のことを勝手に人見知り系男子に分類していたけれど、意外にも女子と話すことに慣れている。会話から察するにコミュ力も高そうだ。彼はもしかしたらこれを機会に私の好意を利用して、何か……コンプレックスとか、性欲なんかを解消しようとしているのかもしれない。
少し怯えた様子を感じたのだろうか。亀山君はちょっと視線を外すと
「ごめん、怖がらせようとしているわけじゃないんだけど……」
と言い訳を始める。更に、
「えーっと、何て言うか。米沢さんの数字を見て、俺、ガラにもなく舞い上がってる」
などと、正直なところを告白して来た。私はそんな彼を興味深く見つめ、彼の意外な側面に怯えもしたが、喜びもした。あの亀山君が、舞い上がることもあるんだ。相変わらずのポーカーフェイスだけど。
私は悩んだふりをしてから、こう答えた。
「いいよ。行こう」
亀山君と私は共に歩き始める。こっちが好いたら、あっちも好いてくれるのかな。萌花と桜井君じゃあるまいし、そんな都合よく行くわけないと思うけど。
「このアプリの数値って、信用していいのかな」
亀山君が静かに言う。私は彼に好意があるから例の数字を信用出来る。だけど、亀山君は人間の感情を機械が判断することを初めから疑ってる。私も始めはそうだったから、その気持ちは分からなくもない。
「……信用していいと思う」
私がそう言うと、亀山君は急に驚き慌てた。
「米沢さん……まさか本当に俺を」
「何言ってるの?仕返しに私の数字撮っておいて、今更じゃない?」
「……米沢さんは何でそんなに俺に好感があるの」
「!な、何でって……」
私は急に恥ずかしくなり──その結果、彼にとても苛々して来た。
「……亀山君、私に対する好感度が13しかないくせに、随分話を詰めてこようとするんだね?」
「そうは言うけど、たかだかアプリの数字で俺の感情全部を決めつけられても困るよ。俺は米沢さんのこと、ずっと前から好きだったし」
……へー、そうなんだ。
「ん?」
おや?
この人……今何て!?
「か、亀山君?急に何を……」
「米沢さんが去年文化祭実行委員だった時に、ぼっちな俺を見つけて書を頼んでくれたのが嬉しくて、内心ずっと仲良くなりたいとは思ってた。でも嫌われるのが怖くて話しかけられなくて……だからカメラ向けられ始めた時は、絶対こっちの好意がバレたからだと思って」
「……えええ」
「13とかって数字を聞いて信用出来ないアプリだなとは思ってたんだけど、米沢さんの話聞いたら信用出来るらしい?何だかわけが分からないんだけど、米沢さんのアプリこそおかしくなってない?更新済んでる?」
「そんなはずないよ。だって先週親友の萌花を写したら、好感度98だったもん」
「……」
亀山君は不服そうに考え込んでから、急に居直ってこう言った。
「あのさ。好感度13でも、好きは好きなんだよ」
私は耳まで真っ赤になった。通学路で何度告白する気なんだこの男は。
「数字なんてまやかしだよ。詐欺師ほど数字を使うって言うし……年齢は背番号って言うし」
何を言ってるんだこの男は。
「だから……米沢さんは、何で俺を」
あ、そうか。この人、ちょっと自分に自信がないんだ。
私は胸をはって答えた。
「私、亀山君が文化祭ステージの横断幕に書道してるのを見て、いいな~って好きになっちゃった」
はあ?と亀山君は納得行かない声を出した。
「そんなことある?」
「あるよ。ギャップ萌えってやつじゃない?」
「……米沢さんのさっきの数字って本当?もしかして好感度操作出来るアプリとか使って俺のことからかってるんじゃ……」
「そんなことしてないよ!」
ああもう、好感度アプリのせいで余計に事態がこんがらがる!こんなアプリがなければ、お互いを疑うこともなかったのに……
「亀山君」
私は彼に向き直った。
「アプリの数字に振り回されるのはよくないよ。一瞬でも気持ちが通じ合ったり、その時楽しかったらいいんじゃないの?難しく考えても、悪い方にしか転がらないよ」
私がそう言い放つと、ようやく亀山君は顔を赤くした。
「……そっか」
「細かいことは考えないでおこう。数字の大小はともかく、お互いのことが好き、って分かってればいいんじゃないかな」
一番数字に振り回されたはずの私はそう言い切って、今の二人を楽しもうと心に決めた。
そこからは、心地いい沈黙がおとずれた。
お互い色んなことが腑に落ちると胸がいっぱいになって、喋れなくなってしまったらしい。
駅に着くと、私は亀山君とラインを交換した。これって、付き合ったってことでいいのかな?
私は帰り際、こっそりと亀山君の背中にカメラを向けた。
好感度15。
えー……マジか。
それから二週間後。
萌花が憤慨しながら私のところへやって来て、かと思えば急に私の机にしがみついて泣き始めた。
「わーん、芹那ぁ!」
「どうしたの萌花?」
私は何が起きたのか分からず、とにかくなだめようと萌花の背中をさすった。萌花はしゃがみ込みながら必死に息を整えると、押し殺すようにこう言ったのだった。
「桜井君が……」
「桜井君がどうした?」
「うう……三股してた」
私は呆気に取られた。はあ?私らまだ高校生だよ?三股?ありえない!
「……どういうこと?」
「桜井君、女の子三人に同時に告白されて、全員にオッケー出してたんだって。女子三名で問い詰めたら〝お試しで付き合って一番いい子と付き合おうと思って〟とか言い出すんだよ?馬鹿じゃないの!?」
その時、ふと私は二週間前、窓際で話し込んでいた女子たちのことを思い出した。
桜井君は、どの女子にも高い好感度を示していたのだ。
(もしやあれは……桜井君は本当に、どの女子も好きだったってこと……?)
「だから、〝馬鹿にしないでよ!〟っつって別れたわ!もう!好感度測定アプリの馬鹿!」
浮気者の頭の中は、どの女子にも好感度アゲアゲだったのだ。そんなの、なかなか気づけないよ。萌花、災難だったね。
クラスメイトがまた窓際に集まって、性懲りもなく好感度測定アプリを試している。
「亀山撮ってみようよ」
「亀山って誰?」
「あの眼鏡」
「ん。撮ってみようか」
私はその声にどきりとして、亀山君の姿を探した。
亀山君は自分の席で小論文の参考書を読んでいる。女子たちは興味本位で彼の背中にレンズを向けた。
カシャカシャカシャ。
彼女たちは画面を確認するや、ゲラゲラと笑い出す。
「1!」
「0!」
「1!」
「1!」
「ヤベーよ亀山、二進法かよ!」
亀山君はその声に気づいて窓際を振り返ったけど、彼女たちを冷やかに睨んでからまた参考書に目を落としただけだった。私はその数値を聞いて「なるほど」と思う。
基本的に、亀山君は他人に興味がないんだ。
でも、私には15も興味があった。相対的には、私のことをどの女子よりも好きというわけらしい。
亀山君はスマホをいじり始める。
すると、すぐに私のスマホにラインが入った。
〝今週の土曜、一緒に五島美術館に行かない?見たい作品があるんだ〟
私はそれを見てふふっと笑った。亀山君は人間よりも書の方が好きみたいだ、変なの。
「あー!芹那!」
異変を即察知した萌花が私のスマホに顔を寄せる。
「ままままさかここここコレって、デ、デートのお誘いなわけ!?」
「そうだけど……萌花、声が大きいよ」
「ええっ、亀山君!?待って、芹那。あいつのどこがいいの?」
「ちょっ……失礼な。全部だよ、全部!」
遠くで亀山君がぶっと吹き出し、顔を隠すように机に伏せる。そうそう、あのシャイなところがいいんだよね。だけど話すと楽しいし、フットワークも意外と軽いんだよ。一芸に秀でてる人って、みんなが思うより行動力があるみたい。あれ、脳内説明が止まらない。前より好きになっちゃってる。
「あーあ、やっぱりアプリの数値なんかに踊らされちゃだめだよねぇ。自分で魅力見つけて、自分から好きになって、自分で捕まえに行かないと……」
萌花はそう忌々しげに言いながら、好感度測定アプリを〝消去〟した。
私は亀山君と付き合えた記念に、アプリは手元に残しておくことにしている。