トヤさん日記 D
トヤさんは女性である。
トヤさんは背が小さい。
トヤさんは関西弁である。
トヤさんは変わった人である。
トヤさんはチョコレートとプリンをこよなく愛する人である。
ある日のトヤさんのことである。
トヤさんはベンチに足をかけ、遠くを見ていた。
夜の港でたそがれる男のような雰囲気を放っている。
「どうしたの、トヤさん?」
「ん?ああ、物思いにふけってたんや」
また変なことを考えているのだろうか。
それとも何か変なものでも食べたのだろうか。
「なあ、なんで人は争うんやろ。世の中悲しみと憎しみでいっぱいや」
「そうだね」
それは人の性である。
何年経とうが変わらないものだろう。
表面化する現象が変わっていくだけである。
「けど、やっぱりそんな世の中あかんと思うねん。人生つらいよりも楽しい方がええやろ。だから、うちが何とかせなあかんと思ってん」
キラキラした瞳で見つめてくるトヤさん。
そして、その手にはハリセンが握られていた。
「えっと、そのハリセンどうするの?」
もしかしてハリセンで悲しんでいる人や怒っている人を叩きに行くとか言うのだろうか。
トヤさんなら有り得る。
「ん?これか?突っ込みの時にいるやろ」
「突っ込み?」
「そうや。これから二人で漫才コンビ組んで世界中を笑いの渦に巻き込むんや。そして、世の中の悲しみと憎しみを打ち砕くんや!」
そう言ってトヤさんはハリセンを掲げた。
「ほら見てみい。あれがうちらの笑いの星や」
「いや、あれ月だから。普通はもっと小さい輝く星を選ぶんじゃ・・・」
「ごちゃごちゃうるさい!ほら、行くで!もたもたしてると置いてくで!」
トヤさんは早速ハリセンを唸らせ、駆けて行った。
「ほら、うちらを世界が待っとる。うちの大活躍をな!」
・・・
トヤさん、ハリセンよく似合ってるよ。
でも、多分トヤさんはボケだと思う。