トヤさん日記 V
トヤさんは女性である。
トヤさんは背が小さい。
トヤさんは関西弁である。
トヤさんは変わった人である。
トヤさんはチョコレートとプリンをこよなく愛する人である。
すっぱいものを食べると変な顔になって、面白い。
ある日のトヤさんのことである。
トヤさんは両手に買い物袋を持っていた。
「トヤさん、晩御飯の買い物?」
「ちゃうねん、何でもないねん。ほっといたって」
明らかに様子のおかしいトヤさん。
早くその場から立ち去りたそうにしているトヤさんだったが、手に持っている買い物袋の中身は多く、思うように動けないでいた。
しばらくその様子を見ていたが、あまりに不憫だったので、
「トヤさん、一つ持ってあげるよ」
そう言って、左手に持っていた買い物袋を持ってあげた。
「あ、あかん!」
トヤさんが必死で買い物袋を取り返そうとするので、中身を見てみると、そこには大量のプリンがあった。
しかも一つ一つ種類が違う。
プリンの大人買いである。
これだけの種類をそろえようと思ったら、どれだけのスーパーとコンビニをはしごしなければいけないのだろうか?
いや、もしかしたらケーキ屋さんやパン屋さんとかも回っているかもしれない。
「トヤさん、これだけのプリンどうするの?お店でも開くの?」
「ちゃうねん。これには深い訳があんねん」
「深い訳?」
「あのな、病は気からって言うやろ」
「うん。言うね」
「病気にならんためには気持ちが大切やねん。でも、気持ちが病気になったらどうするか分かるか?」
「精神安定剤か抗うつ剤とかかな?」
トヤさんは空いた左手でチッチッチッと指を振る。
「そんな薬に頼らんでもええ手がある。それはなおいしいもん食べることや。今、インフルエンザとか流行っとおやろ。だから予防でおいしいもん食べなあかんねん。おいしいもん食べて気分よくならなあかんねん」
要するにトヤさんはプリンを食べたいだけである。
というかこれだけの量のプリンを食べたら、逆に胸やけして気分が悪くなると思う。
「あのさ、トヤさん。一つ提案があるんだけど、いいかな?」
「ん?何や?」
「この荷物家まで運んであげるから、一つちょうだい」
「あかん!それはあかん!絶対あかん!死んでもあかん!」
・・・
トヤさん。ケチすぎるよ。