おまけ
深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。
魔女の名は、ジルルキンハイドラ。
その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。
そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。
俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。
ペットの名はトットルッチェ。
人語を解する稀有な黒いライオンである。
ある日のことである。
トヤさんとおまけが訪れた。
「おまけはひどいと思う」
「そんな細かいこと気にしたらあかん。それよりもやな・・・」
トヤさんはドアを開けながら、ごくりと息をのんだ。
「邪魔するでー、誰かおるかー!」
そして、大声でそこの家主を呼びだした。
「ふぁ~~~い」
階段の上から声が帰って来て、
「はわわわわわわ」
女の子が階段を転がり落ちてきた。
「見事な階段落ちや。くっそぉ、沖田は病気で戦線離脱か」
「いや、トヤさん。そのネタ分かる人しか分からないから」
「そうやな。そう言えば、昔テレビで跡地がパチンコ屋になっとおって聞いたけど。今はどないなっとるんやろ」
「さあ?」
「使えへんな。だから、おまけ言われるんや」
「おまけ。ひどい」
「それはそうと、ここに何でも願いを叶える魔女が住んどうって聞いたんやけど、何処におるんや?」
トヤさんは腰をさすりながら、起き上がる女の子に質問する。
「はい、えっと。何でも叶えられるかは別として。魔女は私ですが」
女の子をじっと見てみる。
何だか想像していた魔女のイメージとは違っていてびっくりした。
「そうなんや。なら話は早いわ。あのな、うちらな。この暗い世の中を明るくするために世界中を笑いを振りまこうとしてんねん。けど、何でか分からんのやけど、全然うけへんねん。だから、もうこれは神頼みっちゅうか。魔女頼みでもしよかってな感じやねん」
そもそも関西弁は世界共通語であると言うトヤさんの信念の下、日本でもうけないけない漫才を世界でやるって言うことが無茶があると思う。
「要するに笑い薬が欲しいのですね」
え?
笑い薬?
何だか、すごく危なそうな雰囲気なのだけれど。
「ほな、それでええわ」
え?
いいの?
トヤさん、それでいいの?
こちらの不安はよそに女の子は奥の方から瓶を一つ持ってきた。
そして、トヤさんに手渡される。
「ほな、ありがとうな。もらってくわ」
「はい。では、お代の方は」
「お代?」
トヤさんは女の子を目を丸くして見ている。
もちろんお金など用意していない。
トヤさんは腕を組み、かけてもいない眼鏡をくいっと上げる。
トヤさんは少し考えているように見せかけて、多分何も考えていない。
そして、
「仕様がないからうちらの漫才、今日は特別にタダで見せたるわ。それがお代の代わりって言う事にしとったるわ」
そう言い放って、トヤさんは瓶のふたを開け、中身をブチまいた。
「ハッハッハッハッハッハッ。な、んて事!」
「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ。ほな、漫才始めるで!」
「クックックックックックッ。トヤさん。それ、普通に、駄目だ、と思う」
その後行われた漫才では初めて大爆笑をとれた。
そして、満足そうにトヤさんは家路につくのだった。
「ただいまー。あれ?ジルなんでこんなところで寝っ転がってるの?」
「はひ、ひひひ、ふふふふふ、ひゃ~・・・」
「ああー、また変な薬でも作ったんだね。懲りないねー、ジルも。まあ、ジルの好きなようにすればいいとは思うんだけど、少しは運ぶこっちの身にもなってよねー」
その後トヤさんはと言うと、漫才にも飽きたのか。
今は何か違うことをしている様だ。
ただ一言トヤさんに言うことがあるとすれば、やはりおまけ扱いはひどいと思う、と言う事だけだろう。