トヤさん日記
トヤさんは女性である。
トヤさんは背が小さい。
トヤさんは関西弁である。
トヤさんは変わった人である。
トヤさんはチョコレートとプリンをこよなく愛する人である。
ある日のトヤさんのことである。
「トヤさん、何してるの?」
「うん?うち今な、絶望の淵におんねん」
「絶望の淵?」
「こっからなあ」
トヤさんは、地面に線を引く。
「こっちかわが絶望やねん」
そして、地面に『ぜつぼー』と書いた。
「何か大変そうだね」
「そやねん。今世の中大変やろ。だから、うちもちょっとは大変なん味わおうと思ってな。絶望に飛び込もう思うてんねん」
トヤさんは、地面に引いた線をじっと見つめている。
「そっか、がんばってね」
立ち去ろうとすると、トヤさんは服の袖を引っ張った。
「でもな、一人やったら心細くてあかんねん。一緒に飛び込んでくれへん?」
その線を越えたからといって、絶望してしまう訳ではないだろう。
しかし、縁起が悪い、悪すぎる。
「あかんかな?」
「・・・いいよ」
ためらいながらも了承して、二人は手をつないだ。
小さいトヤさんの手もまた小さかった。
「んじゃ、いくで。せーのっ」
二人は勢いをつけ、線を飛び越えた。
別段何の変化もない。
いや、変化があっても困るのだが。
「はあ、良かった。飛び越えれたわ」
「良かったね、トヤさん」
トヤさんは目をキラキラさせて、こちらを見る。
「なんかドキドキする。そうか、絶望ってのはドキドキするもんなんやな」
・・・
トヤさん、それ違うと思うよ