信念を貫く
「へっ、なんだよ。ただの石剣か、驚かせやがって」
「お前ら、さっさとやっちまいな!」
「わかりやしたぜ兄貴!」
少しの間、レニーショの魔法の様子を伺っていた盗賊たちだったが取り出した石剣を見て問題ないと思ったのだろう。すぐさまレニーショの周囲を取り囲み後退の余地をなくさせた。更にじりじりとその包囲網を縮めていきレニーショの行動域を狭めようとしていた。これは数の有利を活かした戦略の上では常套手段だった。レニーショもそうだとは知りながらも不破の剣を持ったまま微動だにしなかった。
「おいおい、降参か?さっきまでの威勢はどうしたんだ。その石剣は飾りか?フハハハハ、こけおどしにもならなかったな。そんな鈍を呼び出すくらいならさっきの岩の防壁に引きこもっていた方がよかっただろうに…まぁいい、てめぇがどんな悲鳴を聞かせてくれるのか…それが今から楽しみでならないぜ…やれ!」
盗賊の親玉の掛け声のあと、周囲を取り囲んでいた盗賊たちが一斉にレニーショに襲い掛かってきた。それでもレニーショは一切微動だにすることはなかった。刻一刻と盗賊たちが持つこん棒がレニーショに迫っている。盗賊のある一人のこん棒がレニーショの頭部スレスレに差し掛かった時ガキンと何かにぶつかる音がしてこん棒がはじけ飛んだ。それに続く様に他の盗賊たちの攻撃も悉く跳ね返された。
「な、なんだこれは…」
レニーショは今だ微動だにしなかったが彼の持つ石剣…不破の剣はその石の刃にところどころヒビが入っていた。
「ふん、そういうことかその剣の力はお前の周囲に障壁か何かを生み出すものらしい。こちらには視認できないが今の貴様は鎧に纏われているも同義ってことか。どうりで余裕ぶっこいてるわけだぜ。だが、今のでご自慢の石剣に亀裂が入ったようだ。お前自身は動かないようだし、障壁が消え去るまで何度も攻撃したらどうなるだろうなぁ。野郎ども、奴が無防備になるまで打ちのめしてやれ!」
「その必要はないよ」
「ふっ、危険を察してまたお得意の討論タイムか?そんなのに付き合うとおもってるのかよ」
「君のこの剣に対する推察は概ね間違ってはいない。でも、この亀裂は君が思うようなものではないといっておこう」
「そんなこけおどしに引っかかると思ってんのかよ。お前らさっさと打ちのめせ」
盗賊の親玉の命令に従い各々武器を拾ってきたものから次々にレニーショに向かって突撃してくる。そのたびに弾かれ石剣のヒビが大きく広がっていくのを盗賊の親玉は不気味な笑みを浮かべてみていた。
あれからどれだけの猛攻をうけただろうか。石剣には全体にヒビが広がり今にも砕け散る寸前まで来ていた。盗賊らも度重なる突撃に皆疲弊し肩で息をしていた。
「もってあと一撃というところか?中々しぶとかったがもうそれもお終いだ。あんたのとっておきも数の有利には勝てなかったというわけだ。さぁ、これで本当に終いだ。その鈍と共にお前のすべてを砕いてやる…うりゃあ!」
盗賊の親玉の強烈な一撃がレニーショに向かって振り下ろされた。ガキンッと鈍い音が響く。周囲には土煙が立ち上り暫く周囲の様子が分からなくなっていた。
「さぁ、守りはなくなった。次はお前の肉体そのものにこの一撃を食らわせてくれよう」
盗賊の親玉がブンッと手に持った大剣を振り回し周囲に立ち上る土煙を払いのけ目の前にいるであろうレニーショの姿を探す。
「な…なんだと…」
そこには細身の刀身の刀を構えたレニーショが立っていた。
「貴様、その刀はどうしたのだ?」
「これが不破の剣…決して壊れない強き意志の結晶さ。君たちが壊したのは俺の心の迷いだとか弱気なんかの不純物。それらが取り払われた今こそこの剣の真価を発揮できる」
「ほざけ!何が心の迷いだ、弱気だぁ?ふざけるのもいい加減にしやがれ。てめぇはさっさと俺にやられておけばいいんだよ」
頭に血が昇り冷静さをなくした盗賊の親玉が大剣を再びレニーショに向かって振り下ろす。
「君の動きはもう見飽きた」
レニーショはポツリと呟くと手に持った不破の剣でその大剣を真っ二つに断ち切った。
「ば、馬鹿な…そんなことがあるわけ…」
「今、君の目に映るのが真実だよ。君は俺に負けたんだ」
「この俺様が負け…ただと…そ、そんなわけ…」
「この剣は意志の結晶だと言ったよね。信念を貫く…例えどんな障害が俺の前に立ちふさがろうともそれらを打ち破り前へと進む。それがこの不破の剣という魔法だよ。数の不利があろうとも己が無力であろうとも決して己の信念を曲げず、ただそれを信じる力がこの剣を強くする。君はただ俺に負けたのではない。俺の強き意志に負けたんだ」
「そんなもんにこの俺様がぁ…」
「君たちには今までの行いを悔い改めてもらわないとだね。別に俺個人が君への恨みなどがあるわけではないけれど君の発言をもとに考察すると…こうするのがいいと思うんだ」
「なにをごちゃごちゃと」
「地は全ての祖にして罪人をも抱きしめん…地心!」
「貴様ぁ、何をする」
「君たちにはこの大地が作りせし牢獄の中で深ーく反省してもらうよ。二度と馬鹿なことをしないようにね。君たちが己の罪を反省したと大地が許してくれればいずれそこから出られるだろうよ」
「おい!ここから出しやがれ」
レニーショが盗賊らに使ったのは大地を操る魔法の一つである地心だった。この世のすべてのものに命が芽生えるというような考えをもつとある村のものらに教わった魔法で詳しいことはレニーショ自身もわかっていないがその村の者らが罪人を裁く際に用いていたことを思い出し、それを今回盗賊ら相手に実践したまでのことだった。盗賊らに話したように彼らが罪を認め反省した際にその牢獄から出ることができるかどうかはさておき彼らのような危険な思想を持つ者が野放しにならないという状況を作るにはもってこいの魔法だとレニーショは習得したことを嬉しく思った。彼らのように迫害されたものの末路としてその迫害してきた者らへの復讐に似た行動を取ることがあるのだという経験を身をもって体験したがそうならないようにこれからも研究に励まなければとより一層思いを強く持ち、先を行くシュアの後を追った。




