阻むもの
「いざ、竜の里へ!」
「お~」
いつも通り、旅立ちの時のハイテンションレニーショを横目に荷物の最終確認を行いながらシュアはレニーショの掛け声に合わせて声を出していた。ただしその掛け声はながら返事のように勢いもない棒読みに近いものだった…がレニーショはそんなことなど気にも留めず前へと進みだしていた。
「竜の里までの道は大丈夫なんですか?」
いつも街を移動する際にはレニーショと二人で道を確認し合っていたが今回はレニーショだけが竜の里への道を知っていた。意図的に今回はシュアと確認しなかったわけではない。ただ路銀のためにこの三日間シュアはバタバタしていてそのような確認をする暇がなかったのだ。
「もちろん大丈夫だとも!この本によれば~もうすこし進むと分かれ道があるらしい。それを右に行けと地図には書いてある」
「そうですか。でも、本当に竜の里ってところはあるんですかね?」
「それはどういうことかな?」
「だって竜の里なるものがあるとわかっていたならば竜亜人についての情報がもっとあってもいいと思うんですけど~」
「確かにそうだね。もしかしたら竜亜人族ってのは結構恥ずかしがり屋さんが多い種族なのかもしれないね。シュアちゃんも今となっては慣れたようだけど初めの頃はもじもじしていたとおもうよ」
「レ二さん、そんな昔の話はやめてください」
「ふふふ、可愛げがあって俺は嫌いじゃなかったな~」
「ほら、レ二さん分かれ道ですよ」
「おっと、そうだね。じゃあ、ここを右にっと」
シュアとレニーショは分かれ道を右へと進んだ。しばらくは本に書いてあった地図の通りに進んだ。
「おかしい…」
「え、どうしたんですか?」
「いや、道が舗装されすぎてると思ってね」
「あ~確かにそうですね。地図があるくらいですし誰かが整えたんじゃないですか?」
「シュアちゃん、さっき言ってたこと思い出せるかい?」
「えーっと…何のことですか?」
「どうして竜の里への地図があるのに竜亜人についての情報がないのかってやつだよ」
「あ~そうですね。レ二さんは竜亜人が恥ずかしがり屋だって見解でしたけどそれがどうかしましたか?」
「いや、私の考えが正しいとするならばこのような舗装された道があるっていうのはおかしなことじゃにないか?」
「あ、確かに…」
「これは何か裏があるかもしれないな…」
ガサガサッ
「誰だ!?」
周囲の草むらから物音がした。その音に気付いたレニーショはその草むらの方を直視し何があってもいいように構えをとっていた。
「おいおい、尾行がバレちまったじゃねぇかよ」
「すいやせん、兄貴」
「君たちは誰だい?」
「あ゛ぁ?俺らが何者かって?そんなことを知ってあんたらはどうするっていうんだ」
「レ二さん…」
男たちは不気味に笑いながらレニーショとシュアの周囲を取り囲み始めた。数にして六人、兄貴と呼ばれた一際大きな男は背中に大きな大剣を持っていた。そのほかの子分と思われる者らも何かしらの武器を所持しているよだった。
「シュアちゃん、これはまずいかもしれない」
「レ二さん、どういうことですか?」
「彼らは盗賊か何かかもしれない…街で商人との交渉を見られて監視されていたのかもね」
「でも、もうお金は…」
「彼らはあれで俺たちが持ち金を使い切ったってことを知らないよ。あれだけの大金をポッと出せるものならまだ持ってると思うのが普通だと思う」
「ど、どうしましょう…」
「そうだね~シュアちゃん、俺の書記をもって先に竜の里へ向かってくれないか?」
「いやです!レ二さんはどうするんですか」
「こう見えても俺は魔法をいくつか扱える。でも、どれも癖が強くてね~下手をすればシュアちゃんにも攻撃しかねないんだ。だからここは俺に任せて欲しい」
「でも…」
「ほら、はやく行って!後から必ず追いつくから」
「レ二さん!」
レニーショはシュアに自らが書き記してきた書記と竜の里への地図が書かれている本を渡し、彼女と盗賊との間に入るような立ち位置をとった。
「何をしようっていうんだ?まさか俺様たちに楯突こうってのか?ハハハ、やめておけ歯向かう野良犬にはお仕置きをしなくちゃならねぇからな~さっさと出すもんだせよ。そうすりゃ見逃してやる」
「君たちには悪いが既に文無しなんだ。出せと言われてもないものは出せないよ」
「ふん、そういうことなら仕方ない。出したくなるようその体に教えてやらないとな!」
「シュアちゃん、今だ!行って」
「レ二さん!」
「おいてめぇ、何してやがる」
「照らし出せ!探究灯火」
「うわっ」
レニーショは指先から五つの光り輝く球を盗賊らに射出し彼らの目の前でそれを炸裂させた。突如目の前で光り輝く爆発に見舞われた盗賊は暫しの間左右もわからずアタフタしていた。その隙にシュアを遠くへと逃がしたがその目くらましに聞いていないものがただ一人いた…それは盗賊らの親分だった。
「そんな小細工でどうにかなると思ったのか?小娘一人逃げ出そうともお前を〆て追いかければいいだけのことだぞ」
「それを俺が許すとでも?」
「ふっ、面白い。覚悟はあるってことだな?」
「君たちをシュアちゃんの元へは行かせないよ」
「なら…力で示して見よ」
盗賊の親分とレニーショの一騎打ちが始まった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
シュアはレニーショから渡された竜の里への地図のとおりに後ろを振り向くことなく全力で走っていた。レニーショのことが気がかりではあったが彼は一度決めたことは決して曲げない男だ。あそこでとやかく言っててもどうにもならないのは今まで一緒に居てわかっていた。だからこうしてレニーショのいう通り竜の里への道を一人で進んでいた。
「はぁ…はぁ…レ二さん…大丈夫かな?」
息を整えるために一度足を止めた。レニーショには前へ進めと言われたが心配してないわけではなかった。寧ろ心配しすぎて戻りたい一心だった。でも、レニーショの話では彼の使う魔法は周囲を巻き込む恐れがあるものらしく今ここで私が戻ったら迷惑になるのではということが脳裏をよぎり、今すぐ戻るかそれとも先へ進むか…という葛藤が頭の中で繰り広げられていた。
「戻ろう!」
やはりレニーショ一人で複数の敵を相手取るのは不利でしかない。いくらレニーショの使う魔法が広範囲系のものでもあたらない場所はあるはずだ。そこをいち早く見抜き退避すれば彼とともにいても問題はないだろうと思い込んでシュアは今来た道を戻るのであった。




