探求心は止められない
「よし、着いたよ。お疲れ様」
「今回の街は結構遠かったですね~」
「そうだね。でも、前の街で聞いた噂だと俺たちが求めているものがあるらしいんだ。俺はそれを聞いてからはやくここを訪れたいってワクワクが止まらなかったよ」
「レ二さんってたまーにそういう子供っぽいところありますよね」
「子供っぽいときたか…まぁ、間違いはないね。純粋な気持ちっていうのは大人が持っているというよりかは子供の持ちものって感じだろ?大人ももとは子供だったんだ、年月を経て色々と成長し得るものもあれば失うものも多くあった。その中で子供っぽいと評されるのはある意味いいことなのかもしれないね」
「なんかよくわからないです」
「あはは、そうか~別に気にすることではないよ。それよりはやく街で調査しよう!」
「あ、レ二さん!待ってくださいよ~」
レニーショはいつになくはしゃいでいた。引きこもり気質で運動不足の権化のような人だけれど好きなことや好奇心の対象を求めるときはそんなものお構いなしに動き回る。それに振り回される身にもなって欲しいがそれがレニーショという人物なのだ、仕方ないと多めに見てあげるよりほかなかった。
一通り街の中を歩き回った。これはいつも街を訪れるとやっていることだ。街の雰囲気やそこに住む人々の観察なんかも行いつつって感じだ。今回の街は今まで訪れた街に比べると些か治安が悪そうな印象だった。街の路地では人相の悪い男衆が幼い子供を鎖で繋ぎ手荒に扱っている姿を見たときには咄嗟にレニーショに抱き着いてしまった。我に返りすぐさま離れはしたがレニーショもその光景を見てそれからは私の手を握って歩いてくれた。
色々な街を見てきて奴隷なる文化があるのはなんとなく知っていたがやはりそれが良いものであるとは思えなかった。街によっては貧富の差が大きすぎて富豪のもとで食事を得るために奴隷に身を落とすものもいたがこの街のはそれとは違って見えた。とある書店の前で足を止めた。そこは至る所ほこりだらけでよくもこれで商売をしているなと疑わざるを得ない店だったがレ二さんには何か気になるものがあったらしくその店の店主にしつこく質問をしていた。
「あの~レ二さん、もう行きましょうよ。この店の店主の言う通りレ二さんの目的の本はないですって」
「いやしかしだね。俺の直観だとここだってビビッと来てるんだよね」
「ですからお客さん、そのようなものは置いてませんって何度言えばわかるんですか!あまりしつこいと衛兵を呼びますよ」
「レ二さん!早く行きましょうって」
レニーショがしつこくその店に尋ねていたのは古い歴史書だった。なんでもその歴史書には竜亜人と呼ばれる人種について書いてあるらしくその見た目が私の特徴に類似するものがあるらしい。私自身も自分の人種が分かるのであれば良いと思うのだが衛兵に連行されるのもごめんだった。
「それならこれでどうだろうか」
レニーショが懐から光り輝く何かを取り出した。それを見た店主は目の色を変えてレニーショを見ていた。レニーショが取り出したのは白金十字硬貨だった。金十字硬貨の何十枚分の価値でかなり高額なもの、庶民がそれを手に入れれば数年は遊んで暮らせるほどのお金だった。
「レ二さん!」
咄嗟にそれを隠したが目にした店主が先程とはガラリと態度を変えてこちらを見ていた。
「お客さん~それだけのものをお持ちとはつゆ知らず、先程の無礼な態度を失礼しますよ。そうですね~確かこの辺に~これだ!こちらの書物にお客さんの求める情報があると思いますよ。どうされます?」
埃に埋もれた本の中から一際古そうな一冊の本を取り出しレニーショに交渉を持ち掛けてきた。
「レ二さん、怪しいですって!早く行きましょうよ」
私は必死にレニーショをその店から引き離そうとしたがダメだった。彼の目には店主が取り出した本しか見えていないようだった。こうなってしまってはもう後の祭りだ。あと少しすればレニーショはその本を手にしているだろう。
「店主よ、それは本当か?噓偽りではないだろうな?」
「いやいや~お客さん、私も商人の端くれ売り買いする品物も大事ですがなにより信用を無くすようなことは致しませんよ」
「そうか、ならそれをいただくとしよう。代金はこれで足りるだろ?」
「そりゃあ、足りますとも」
店主に白金十字硬貨を一つ渡し本を受け取ったレニーショは早速本を開いて読もうとした。
「レ二さん、読むのは宿についてからにしてください」
「うむ、分かった」
「もう、その本にそれだけの価値があるとは思えないんですけどね~」
「読んでみないことにはわからないさ」
「それはそうですけど~あ~暫くは質素な生活になりますよ、覚悟してくださいね」
「あぁ」
満足げな顔のレニーショとともにこの街の拠点となる宿へと向かった。私としてはこの街での滞在費がボロボロの本一冊になってすこしだけ怒っていたがレニーショが満足気なら許すとしよう。
「凄いぞ!シュアちゃん」
「ど、どうしたんですか?」
唐突に大声を出したレニーショに驚いてしまった。宿につくなり部屋で買ってきた本と睨めっこしていたが一体その本に何が書いてあったというのだろうか。
「それはだな~君の人種が何かわかったかもしれないんだ」
「私の人種が…ですか?」
「あぁ、聞いて驚くなよ~君は…」
「私は?」
「竜人と常人の間に生まれた亜人、その名も竜亜人だ!」
レニーショがどうだとばかりにこちらを見てくるが…
「あの~竜人ってなんなんですか?」
「なっ…?!」
レニーショは私の発言に啞然としていた。だがそもそも竜人というものを知らないのでレニーショが何を凄いと思ったのか私にはわからなかった。
「なるほどな~まずはそこからか…」
レニーショは私が竜人を知らないとわかるとそれがどのような者かの説明をしてくれた。簡単に言うとこの世界を作ったとされる三頭の龍が地上に降り立った時に作った子供、それが竜人と呼ばれるものなんだそうだ。圧倒的生物の頂点に位置する存在の子供故にその他の種を虐げていた彼らは産みの親である三頭の龍によってその力を封じられたらしいがそのあたりの話は詳しく書かれていないらしい。
「それで~竜亜人ってのはなんですか?」
「さっきも話したが竜亜人というのはその竜人と常人の間に生まれた子のことだよ」
「でも、竜人は三頭の龍によってほとんど消滅したんじゃないんですか?」
「それが消滅前にいろんな種と交ざっていたらしくてな三頭の龍も他の種と交ざったものまでどうこうするのは面倒だとおもったらしく難を逃れたんだと…」
「そうでしたか…私は竜亜人…」
「竜亜人について更に詳しい話があるんだけど聞くかい?」
「はい!」
「この街の近くにある洞窟を抜けた先に竜亜人が隠れ住む里があるらしいんだ。そこに行けば詳しい情報が得られると思うんだけど~どうだろうか?」
「その里に行くってことですか?」
「もちろん!」
「危険じゃないんですか?」
「危険かもしれない…でも、それがどうしたんだい?俺はもう自分の探究心を止めることはできないんだ。いくら危険だろうとその先にある答えのためならばどんなところでも行くつもりだよ」
「はぁ~レ二さんはそういう人でした…わかりました。三日ください、旅支度のために色々やらないといけないので!もう、レ二さんがお金をほとんど使っちゃうからですよ~」
「でも、そのおかげで情報が手に入った…悪くはない買い物だったろ?」
「そうですね」
そういうとシュアは自分の荷物をまとめ始めた。三日後、旅立ちのための下準備ってやつだ。




