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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
91/145

成したい思い

「シュアちゃん、準備はいいかい?」


「大丈夫ですよ。レ二さんこそ忘れ物とか大丈夫なんですか?」


「あぁ、俺にはこの書記と筆、それにこの身一つあればあとはどうとでもなるよ」


「もう、そんなこと言ってると大変なことになりますよ。お金とか食べ物とか生きていく上で必要なものもきちんと持ってないとですね~」


「ふふふ」


「ん?なんですかレ二さん」


 レニーショが何かを笑ったのをシュアは見逃さなかった。今の発言の中に何か間違ったことなどあっただろうかと自分の発言を思い返しても何一つその要因は思い当たらなかった。


「いや、特に何かがあって笑ったわけではないんだ。すこし私の記憶の中の光景に今のシュアちゃんが重なって見えたんだよ」


「レ二さんの記憶と…ですか?」


「あぁ、その記憶は俺がこうして人種研究の旅に出るとき、別れ際の母さんの顔さ」


「レ二さんはご両親と別れて旅をしてますが…どうしてですか?」


「どうしてですかときたか…そうだな、俺がどうしてこうなったか話すとするか…」



「俺はこのように立派な角を持ってるだろ?これは俺の父親からの遺伝によるものなんだ。俺は大鹿亜人ディアの父と常人ジェネの母の間に生まれた。俺が生まれ育った村はそこまで大きくはなく亜人なんかもたくさんいた。親父が純血の大鹿亜人ディアだったりしてもなんら問題なく暮らせていたんだ。だって他の家庭でも亜人の親に持つ子がたくさんいたからな。いがみ合うこともなくたまーに喧嘩して、次の火にはケロっと忘れて仲良くしてるのだってざらにあった。

 そんなある日、その村に旅人が訪れたんだ。そいつは俺たちの村を見て目を丸くしてたな~そんで腰抜かして食べないでくれ~って言ってさ。俺の親父が何もしないというのを宣言するまではずっとビクビクと震えていやがった。俺の家に上がってもらってこの村に来た経緯を聞いたらそいつは学者でこのあたりの地域について調査しにきたんだと…それで村があったものだから調査協力をお願いしに来たら亜人、常人ジェネが一緒に暮らして驚いたらしいんだ。そいつの居る街には奴隷として亜人がいるくらいだったらしい。俺はその話にくぎ付けになった。だって俺はまだその村の中の世界しか見たことがなかったからな。外の世界がどういう風になってるのかなんて知る由もなかったんだよ。その学者は俺の質問に一から百まで熱心に答えてくれた。学者は自分の知り得た知識を誰かに話せて満足気だったし、俺も知らないことを知れて面白かった」


「その学者さんのようにレ二さんもなろうとしてその村を出たんですか?」


「いや、それは合ってるようで違うな。俺はその学者みたいに知識に対する探究心はあったがその先に何があるのかがもっと気になったから今こうしている」


「その先の何か…ですか?」


「シュアちゃんには前話したことがあっただろ?人種について研究してそして皆が仲良く暮らせる世界にしたいっていう夢を…」


「はい、以前聞きましたけど~」


「それが俺が成したいことさ。その学者はさ知識を持っていてもそれを何かに使おうとはしてなかったんだ。ただ知識を集めてたまにいる俺のようなやつにそれを話して聞かせる。ただそれだけで満たされていたんだと…俺はそれだけでは満足できなかった。折角他の誰かよりも知っていることがあるのになんでそれをもとに何か行動を起こそうとしないのかっていう風に思ったのさ。俺は常人ジェネからしたら数多いる亜人の内の一種でしかない。大きくて立派な角をもって実に危なっかしいが当の俺はそれを用いて誰かを傷つけようなんて微塵にも思っちゃいない。これは俺が考えていることと持たざる者の考え方の違いによるものさ。常人ジェネは何も持たないただの人、それ故に俺ら亜人を恐怖する。村に来た学者がそうだったように知らないから恐れるのだ。俺は友好的に関係を築きたいのに相手は恐怖してその域までたどり着いていないのは話にならないだろ?そこで俺が研究してきたこの書記の出番って訳だ。俺を初め、他の亜人はどういう特徴があり一般的にはどういう考え方を持っているのかってのを示せば別に怖がる必要なんてなくなるだろって思ったのさ。俺が暮らしていた村のように皆仲良くってね。

 学者が街へと変える前日にこのことについて相談したよ。学者は目を真ん丸にして驚いてたな。そんで俺の考えは素晴らしいものだって言ってくれたよ。そんでもってこの村にとどまらずもっと世界を見るべきだって言ってくれた。その言葉を聞いて俺は決心した。親父と母さんを呼んで学者とともに村を出たいって話をした。親父はすっげぇ怒ってたよ。外の世界は危険が一杯だからまだ幼い俺には危険すぎるってね。普段あまり怒らない親父が毛を逆立ててまで激昂してたのにはビビっちまったよ。やっぱりやめようかとした時、母さんがブチギレた親父の前にでて一言聞いてきたんだ…それが今やりたいことなのかってね。俺は静かに頷いた。それを見た母さんはならやりなさいって言っていってブチギレた親父と話し出した。俺は母さんからも止められるって思っていたけどそうじゃなかった。母さんの説得で親父も納得したらしく条件付きで村をでることを許可してくれた」


「条件付き…ですか?」


「あぁ、その旅が終わったら必ず村に戻ってきて研究してきたことを見せることと母さんみたいな生涯を共にするものを連れてくることってやつだな。まだどちらも道半ばってところなんだけどね」


「そうだったんですか~」


「シュアちゃんもさ、何か一つでいい。これだけはやり遂げたいってことを見つけたらそれを貫いてみるといいよ。俺のようにやりたいことをやるっていうのもその人生を豊かにするからさ」


「そうですね。私も何か目標みたいなのを探さないとな~」


「あはは、そんなに焦って見つけなくてもいいんだ。きっといつかこれってのが見つかるからさ。それまではいろんなことを体験するといいよ」


「そうですね。今もこうしてレ二さんのお世話をしていく上で色々と学ばせてもらってますしね」


「それは…そうだね。俺もシュアちゃんに頼りっぱなしで情けないよ」


「そう思ってるのならすこしは気にしてくださいよ~」


「う~ん、それは無理な話だな」


「レー二ーさーん!」


「人にはね…やってできることとやろうとしてもできないことがあるんだよ。研究に没頭すると俺は後者になってしまうみたいだからね。申し訳ないがそこはシュアちゃんに助けて欲しいものだよ」


「もう、わかりましたよ。じゃあ、しっかりと研究の成果を出してくださいね!約束ですよ」


「それは任せてくれ。おっと話をしていたらもうこんな時間か…シュアちゃんここをでようか」


「そうですね。日が暮れる前にいい場所まで行かないとですもんね」


「たまになら野宿もいいけど?」


「私は可能な限り野宿はしたくないです」


「なら急ごうか、遅れた分早く歩けばどうにかなるよ」


「レ二さんの体力が続けばの話じゃないですか?」


「まぁ、理論値ではね。結果はいつもそうとは限らない、覚えておくといいよ」


「あ~あまり参考になるものではないですね」


 そんな会話をしながらレニーショとシュアは街を出た。その先に待つ悲劇など考えもせずに…

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