私は何者?
シュアの過去の話になります
私が物心ついたころには父も母も傍にはおらず人目を避けて生活を送っていた。
「トカゲの化け物がでたぞ!捕まえて物見小屋に売り払え」
「わ、私は…」
生まれつき角と尻尾、それに小さな羽を持って生まれた私はこうやって度々他の人から奇異の眼差しを向けられてきた。ある者は恐怖し私から距離を置き、またある者は私の姿を面白がり捕まえようとした。今も複数の大人から物珍しさに狙われている。私はそれから必死に逃げる…そのような日々を送っていた。
「ここまでくれば…」
何とか逃げおおせた私は森の木陰で休憩を取った。今日もまたこうなってしまったと頭を抱えた。ここはまだ街や村の離れにあたるところだというのに運が悪かったとそう思うよりほかなかった。
街の中に入るとき、この見た目のせいか入る前にこのような者たちの標的になる。それか衛兵に脅威とみなされ追い返されてきた。それが私の日常となっていた。
どうして私だけ?と思ったことがある。なんで他の人には角も尻尾も羽もないのに私にはそれがあるのかと…私は持ってして生まれたこの異質の姿が何よりも嫌だった。
ある日、運よく大きなローブを手に入れることができた。これさえあればとそれを身に纏い行動することにした。そうしたらどうだろうか…今まで感じてきた奇異の視線を感じなくなったのだ。私は嬉しくなって今まで行けなかったところへと足を運んだ。人が多く無理だと思えたところにもこのローブがあればなんなく行くことができ、周りからの視線を感じることなく過ごすことができた。
初めて見る街の様子は様々な景色に彩られていた。見たことのない食べ物や煌びやかな衣類、胃袋に訴えかけてくる香ばしい香り…とどれも新鮮で私の目を楽しませてくれた。その中でも一番驚いたのが亜人の存在だった。通りを歩く人の群れの中に私のように異質な見た目をしている者がいたのだ。彼らは私のように角や尻尾、翼といったものを持っていたが周りの者に狙われることなくそのままの姿で買い物や食事を楽しんでいた。
「あの…すいません」
「あなたのその角って隠さなくても大丈夫なんですか?」
「なんだい嬢ちゃん、この俺様の立派な角にケチつけるってのか?」
「い、いえ…そんなんじゃないです。ただ私はこの街に入るときに見た目で追い返されたのでどうしてかなって…」
「ん?なんだい嬢ちゃんも亜人なのか。なるほどな~確かに既にこの街に入ってしまってる亜人には衛兵もどうこういわねぇが新参者となると話が違うってか…で、嬢ちゃんはその大きなローブでカモフラージュして入ったとそういうわけか?」
「はい、そうです。あの~亜人ってなんなんですか?」
「おっと、亜人ってものを知らないときたか。嬢ちゃんの親はそんなことも教えてくれなかったのかい?それは酷だね~」
「私、物心ついたころには父も母も傍には居ませんでした。あの…もしよかったら亜人について教えてくれませんか?」
「そうかい、こんなにかわいい子を一人にしちまうなんて残酷な親もいたもんだ。俺でよかったら教えてやるよ。ほら、ついてきな」
「はい!」
私は街でたまたま話しかけた角を生やした亜人の後について行くことになった。
「ここが俺の住んでるところさ、入りな」
「失礼します…」
角を生やした亜人の示した一軒の家に入る。中は特に目立ったものはなくただの住処としか言えなかった。だが、森や外で野宿するのに比べて雨風を凌げる壁と屋根があるだけで私は素晴らしいところだと思った。
「ほら、ここじゃ周りの目も気にならねえだろ?その大きなローブも脱いじまいな」
「はい、では失礼します」
角を生やした亜人に言われるがままローブを脱ぎ小さくたたんで傍に置いた。
「ほう、こう見ると更に可愛らしい嬢ちゃんだねぇ。で、えーっと角に尻尾…それに翼か~そんな要素をもった亜人となると~」
角を生やした亜人が何かの書記と睨めっこしながらブツブツと独り言を言い始めた。私はその様子を大人しく見ることにした。まともに話すことができたのはこの人が初めてかもしれなかった。いつも一方的に追いかけまわされてそれから逃げるだけで話し合いというものが欠如していたのだ。こうやって親身に考えてくれている存在が私は嬉しかった。
「蜥蜴亜人…にしては翼を持っているしな~うむぅぅ」
数十分が経過しただろうか。まだ角を生やした亜人は書記と睨めっこの最中らしい。
「あの~」
「ん?なんだい嬢ちゃん」
「あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「あ~そうだったな。名乗ってなかったか、俺は大鹿亜人のレニーショだ。レ二と呼びな。人種について研究している者だな」
「人種について研究?ですか…」
「そうだぜ。この世界には様々な奴がいやがる。何の変哲もないがこの世界の大半を占める人…常人、俺らのような体のどこかしらに魔生物のような要素を持つ亜人、人のもつ五感と言語能力のいずれかが不自由な代わりに特殊な力を持つ封人、血を吸うことでその真価を発揮する血人とたくさんいやがる。俺はそんな奴らがどうして生まれたのかについて一人でに調べてこうやって本に記しているのさ」
「レニさんは何の亜人なんですか?」
「俺か?さっきも言ったが大鹿亜人というやつだな。ほら頭から生えてるこの立派な角がトレードマークってやつさ。イケてるだろ?」
「はい、なんか大きくて凄いです!」
「いや~いいね。その反応!気持ちがいいよ。嬢ちゃんの角は可愛らしいな。おっとそういや血人には血を吸うと角が生えるという話があったな。嬢ちゃん、もしかして血とか吸ってたりしないかい?」
「血ですか?す、吸ってないです」
「そうかい。ん~となると…」
レニーショはまた書記との睨めっこを始めた。たまに私のことを見て一つ質問をしては違うかといいまた書記と向き合う。そんなことを何十回と繰り返していた。
「ん~これも違うか…うむ、嬢ちゃんが何の亜人かまったくもって検討がつかないよ。これでも長いこと人種について研究してきたというのにそれでもまだ知らない種があるとは奥が深いものだね~」
「色々調べてくださりありがとうございます」
「いやいや、俺としてもまだ知らないことがあったとわかって嬉しいよ」
「そうなんですか?」
「あぁそうともさ、知らないってことはそれを知るためにまた頑張れるってことだからね。人は何か目標があったほうが迷わずに進めるだろ?最近の俺は少し行き詰っていたのさ。君と会えて本当に良かったよ…ところで~君の名前を聞いていいかな?調べることに夢中になりすぎていて忘れていたよ。俺はさっき名乗ったがレニーショだ。よろしく頼むよ」
「私は…シュアです。よろしくおねがいしますレニさん!」
「いや~また忙しくなるね~楽しみができて良かった良かった。おっともうこんな時間か~シュアちゃん、君は何処か行く当てはあるのかい?」
「いえ、ないです。お金もないですし何処かで野宿しようかと思ってました」
「野宿!?そうかい…よし、シュアちゃん暫くここに泊まりなさいな」
「え、でも…いいんですか?私お金なんてもってないですけど…」
「そんなもの気にすることはないさ。でも、そうだね~私は研究に夢中になると食事も何もかもダメになっちまうみたいでね。ここに居る条件に私の身の回りのお世話をするってことでどうだろうか。食事に部屋の掃除とまぁ~色々だね。別に得意でなくとも構わないさ。見た目少しばかり綺麗にしてくれればいいし食べられればなんでもいいんだが~」
「私がここに居てもいいんですか?」
「構わないさ。寧ろいてくれた方が助かるよ。それに研究した結果を君に伝えたいからね」
「それじゃあ…よろしくおねがいします」
「そうかい、此方こそよろしく頼むよ」
ぐぅぅぅうううう
「おっとお腹の虫が催促しているみたいだ。早速で悪いがシュアちゃん、夕食の支度をお願いできるかな?お金はそこの棚のを好きに使ってくれて構わないよ。用意が済んだら呼んでくれ。それまで調べ物をすることにするよ」
「わかりました」
レニーショはそういうとまた書記と睨めっこを始めた。私はローブを纏い商店街へと夕食の材料を回に向かった。私が居てもいいと言ってくれたこと…それがなによりも嬉しかった。




