原初の三龍と亜人種について
本編の内容からすこし外れますが亜人種と封人に関わる話です
これはこの世界が生まれた創生記…龍創真夢伝説の一部である。
世界が生まれたその日、大陸の遥か天空高くを舞う三頭の龍がいた。世界には大陸があり、大海原があったがそれ以外には何もなかった。生物という概念は天空にいる三頭の龍のことを指すものであったがあるとき三頭の龍の内一頭がそれを寂しく思い己の力で最初の生命を誕生させた。この龍はのちに創造龍ルツと呼ばれることとなる。
誕生した生命は意思も欲望もないただの抜け殻であった。何をするということはなく誕生した場所に佇み、その命が尽きるまで存在するモノでしかなかった。それは植物も動物も同じで子孫を残すことはなくただ創造龍ルツの気まぐれで生まれただけの存在であった。三頭の龍の内一頭はその存在をつまらないとしそれらに己で思考し生きたいという欲望を与えることにした。この龍はのちに真理龍ウィルと呼ばれることとなる。その与えられた生に執着し己が子孫を残すという欲望が生まれた生命はこの世界で活動を始めた。
意志を持ち生きるための知恵を与えらた生命は各々が生まれたその地で生活を営むようになった。大陸で生まれたものは食物を得るために手足が発達し群れを成し狩りをするようになった。大海原で生まれたものは水中をより早くより深く動けるようにエラやヒレなどが発達した。数千年の時が経ち生命は繁栄を見せていた。創造龍ルツ、真理龍ウィルはそれを誇らしげに見ていた。自らが生み出したものにより世界が色鮮やかになっていくのを見るのが面白かったのだ。もとは何もなかった無の世界が時を経るごとに様々な景色を見せてくれるようになり寂しさも退屈もなく満たされたのだ。
だが、三頭の龍の内残る一頭の龍は面白く思っていなかった。生まれた生命は実に愚かで大陸を…大海原を…そしてこの世界さえも我が物顔で生きているのを快く思わなかったのだ。この龍、夢幻龍ドリムはそんな愚か者どもを排除したいと考えるようになった。この世界を好きにしていいのは世界が生まれた頃から存在する三頭の龍のみでありそれ以外が好きにしていいわけがないとしたのだ。夢幻龍ドリムは世界に生きる生命に優劣が顕著に表れるように力を授けた。その力は魔なる力…魔力と呼ばれるものでこの世界で生きる生命すべてが誕生とともに持ち合わせるものとなったが、それぞれの個体で持つ魔力の量は異なっていた。生命はその違いを徐々にひがみ合うようになっていった。協力して生きていた生命が些細なことで争い、力あるものはその持つ力で歯向かう生命の命を奪った。魔力を持つ者=強者であるというような考えが世界にはびこり生命にも序列のようなものが生まれた。同じ種でも魔力が多ければ同等に扱うことはなく魔力が多いものは少ないものを蔑み、下僕のように扱うようになった。
夢幻龍ドリムはその争いあう光景を天空から眺め、愉悦に浸っていた。愚か者どもにお似合いの姿だとそう思ったのだ。創造龍ルツ、真理龍ウィルはそのようになった世界も一つのあり方だとし夢幻龍ドリムの行いに何も言うことはなかった。
長い年月を経て生命は生まれては滅びを何千、何万、何億と繰り返し三頭の龍を楽しませた。三頭の龍はその世界に時折降り立ち自らもその世界観を直に味わったりもした。降り立った際に気まぐれで生物の姿を弄んだりもした。それにより生まれたものは魔なる獣…魔生物と呼ばれた。三頭の龍は戯れに生命と交わり自らの血を持つ子孫を生み出した。それをのちに竜人と呼ぶことになる。
竜人は他の種よりも強靭な肉体をもち、長寿で龍の血から遺伝した龍の鱗や翼、尻尾、角などといったものを持っていた。その圧倒的な力でその他の種を蹂躙した。自らの欲望のままに多種族を弄び好き勝手に生きた。時には魔生物とも交じり子を成した。その子は魔生物の性質を色濃く受け継ぐ人型の生命となった。これが亜人が誕生した起源となる。竜人は人型の生命とも交じり子を成した。その子は龍の要素をいくつか持ち合わせる存在で竜人のまがい物として竜亜人と呼ばれることになる。
三頭の龍は自らが生み出した竜人という存在を危険視するようになった。もともと争いを生み出すために生命に優劣を与えた夢幻龍ドリムもそれは手が負えないものだとしたのだ。三頭の龍の血は生み出した生命には猛毒だったようで他生命を滅ぼす勢いで勢力を伸ばしていった。
三頭の龍は自らの失態をどうにかすべく行動に移した。創造龍ルツはその生み出す力を…真理龍ウィルはその叡智を…夢幻龍ドリムはその魔なる力を…それらを駆使して世界を好き勝手に弄ぶ竜人を抑圧した。一部の竜人はその抑圧からどうにか逃れひっそりと暮らすようになった。三頭の龍に見つからないように慎ましくその人生を生きることにした。抑圧された竜人はその体に流れる龍の血とその身にあらわれた龍の要素を奪われ代わりに特殊な力を授けられるがまた好き勝手にすることの無いように人の持つ五感と言語能力のいずれかを封じた。この者らは封人の根源となったものだとされている。
竜亜人はその混ざりあった龍の血が奪われることはなかった。三頭の龍も混血の混血を回収するのを諦めたのだ。竜亜人はその身に龍の要素があらわれるが竜人のように多種族に対して悪事を働くことはなく、竜人に反してあらゆるものに底の無しの優しさを振りまく、三頭の龍は彼らはこの世界に必要な存在だと判断したのだ。
異質な存在は悪だという認識が広まっていた。亜人というものが嫌われているのは遠い過去にそれらに虐げられて者らが代々、その子孫に語り継いできた結果である。ノーブル帝国のようなものがそれにあたる。竜亜人はその底なしの優しさで多種族を支えてきた存在であったがその見た目が竜人のそれに類似するあまり、いい行いよりも竜人の行ってきた悪事が勝りいわれのない差別を受けている…悲しき種族なのだ。三頭の龍は原初の三龍と呼ばれ伝説として語り継がれている。今もこの世界の天空高くからこの世界で生きる生命を見ていることであろう。
~龍創真夢伝説より原初の三龍と亜人種について~




