賑やかな食卓
「主様~あ~さ~だ~よ~」
トーナがそういいながら窓のカーテンを開く。窓からは朝日の光が差し込み拳斗の顔を照らし出す。倒れた拳斗は自室にて寝かされていた。クエストを終えてギルドハウスにたどり着いた日…つまり、拳斗が倒れた日から丸二日が経過していた。その間、トーナは毎日朝になると窓から陽の光を部屋へと取り込み拳斗が目を覚まさないかと暫しソワソワし、起きなければカーテンを閉めるというのをやっていた。
「うぅぅ、朝か…」
眩しいってのが瞼の上からでもわかった。二日間閉ざされていた瞼をそっと開けてみると暖かな陽の光が拳斗の目に飛び込んできた。
「あ!?主様起きた~」
二日ぶりの主の起床に喜び勇んだのは彼の目覚めを誰よりも待ち望んでいたトーナであった。
「主様~‼」
まだ朦朧としている状態の拳斗だったが明るく元気なトーナの声を聞いたらなんだか嬉しくなっていた。
「トーナちゃん、どうしたんだい?」
トーナの大声を聞きつけたガリズマやベリルが拳斗の部屋へと駆けつける。
「おはようございます、ガリズマさん、ベリルさん、それにラーシャルドさん」
「おう、呑気に寝てたようだがもう大丈夫なのか?」
「はい、もう大丈夫です」
「そうか」
ぐぅぅぅうううう
一際大きな音が鳴り響いた。二日間まともな食事をとっていないせいか腹の虫ははやくも血気盛んなようだ。
「ふふふ、お腹が空いているんだね。もうすぐ朝食の準備が整うからまっててね」
「はい、すいません」
「ううん、お腹が空くのは元気になった証拠だから良かったよ。一時はどうなるかと心配したけどもう大丈夫だね」
「はい!」
「ケント、お前覚悟はできてるんだろうな?二日間猶予は与えたんだぜ。いまさら心の準備がどうとか言わないよな?」
「なんの話ですか?」
ゴツッ
「痛ぇ!何すんだよガリズマ」
「特訓はまだ駄目だよ。少なくとも明日からにすることいいね」
「なんでだよ」
「やっと目が覚めたのにまた倒れるようなことになったらダメでしょ?」
「そ、それは~そうだがよ」
「わがままは言わない!いい?」
「わーったよ。ケント、修業は明日からだ今日は好きにしろ!」
「はい」
ガリズマさんに諫められたベリルさんは少し不服そうだったが自分なりにガリズマさんの言い分を考えた結果、今の答えになったようだ。正直疲労感とかはもう大丈夫だが今すぐベリルさんのハードな特訓を受けるのは厳しそうだった。
「ガリズマさん、俺が寝てた間は何がありました?皇女様とかシンリーさんはどうなりました」
「あ~それについては朝食を食べながら話すことにするよ。できたら呼ぶからそれまでトーナちゃんの相手をしてあげてね。ケント君が寝ている間、付きっきりで身の回りのお世話をしてたんだよ」
「そうなのか?」
「うん!トーナがんばったよ~」
「ありがとうなトーナ」
「うへへ~主様に褒められた~」
トーナはそっと俺の側によってきて頭をぐりぐりと押し付けてくる。彼女なりの嬉しいって気持ちの表現方法なのだろう。魔生物の時にも頬を摺り寄せてくることがあったがそういうのは人になってもあまり変わらないようだ。
暫しトーナを撫でたり他愛もない話をしたりしているとガリズマさんから朝食ができたとの声がかかった。
「さぁ、召し上がれ!」
食卓に並んでいたのは朝食の量とは思えないほどの大量の料理だった。
「ガリズマさん?」
「なんだいケント君?」
「さすがに多すぎませんか?」
「ケント君は倒れちゃってクエスト達成後の宴ができなかったでしょ。だから起きたらお腹一杯食べさせようってみんなで決めていたんだ」
「そうだったんですか?」
「まぁな、今回の一番の功労者はお前だしな」
「そんな、俺が功労者だって…」
「あ~もう、謙遜とかいらねぇんだよ。こういう時はありがとうって言えばいいんだ、わかったか?」
「はい。皆さん、俺のためにありがとうございました」
「うん」「おう」
「あら、起きたのね。よかったじゃない」「おはよう皆さん」
「お、おはようございます」「おぉ、ケント殿、目を覚まされたのじゃな。それはなによりじゃ」
ギルドの皆と楽しい朝食をとろうとしていたら聞き覚えのある声がちらほら聞こえた。
「え、梨衣にカイザさん、シュアちゃんにシンリーさん?!皆さんがどうして…」
「あら、まだ聞いていないの?」
「話なら朝食を取りながらって話なんだけど~ガリズマさん、どういうことですか?」
「別に隠すことじゃないか…えーっとねケント君。ここにいる霧乙女霧生梨衣、霊干渉者カイザ、シュアちゃん、不動明王シンリーの四名が新しくギルド【ガベラ】に加わることになりました~はい、拍手!」
「え…えぇぇぇええええ」
「そういうことよ、よろしくね」
「儂は冒険者を引退したつもりじゃったが~まだまだやめるのは惜しいと思ってしまっての、ガリズマ殿にお願いした次第じゃ」
何ということだろうか今回のクエストで苦楽を共にした仲間が本当の仲間になるなんて思いもしなかった。
「あ、あの…私も皆さんと一緒にいていいんですか?」
シュアが自信なさげにそう告げた。彼女の能力はかなり強力なものだ。仲間になってくれるのならありがたいことこの上ないだろう…だけど、能力面だけを見て彼女を仲間にするってことはガリズマさんもしないはずだ。いくら恩人だからって人を道具のように扱う人ではない。一体どういった理由があって彼女をギルドに加えたのだろうか…
「シュアちゃんの力はかなり希少なもので冒険者なら誰もが喜んで仲間に加えようとするだろう。冒険者に限らず治癒師や奴隷商なんかも同じような理由で彼女を我がものにしようと狙う。ギルドに入ってもらったのは保護のためとシュアちゃんの目的のお手伝いをするためだよ」
「で、でも…私は…」
「なんだ、自分が竜亜人なのを気にしてんのか?」
「は、はい…」
「んなもん気にすることはねぇぜ。俺らはやりたいように自由に冒険をする者、故に冒険者だ。亜人だろうがなんだろうがそんなくだらねぇこと考えてる暇があったらな~己の欲望を満たすべく牙を研げ!立ち塞がる猛者、魔生物、環境に立ち向かう力を身につける、そんで足りなきゃ仲間を頼れ。そのためにギルドってもんがあるんだからよ」
「亜人を差別的な扱いする人はいるけれどここにいる私たちはそんなことはしない。君を一人の大切な仲間として扱う。どんな問題を抱えていようと大丈夫だよ。大切な仲間の問題なら私たちを頼って欲しい。一緒に解決に取り組むよ」
「わ、私は…」
「シュアちゃん、この人たちが言いたいのは要するに…あなたは私たちの仲間で人種とかそんなのは気にしないってね。それに…こんなに可愛い子を粗末に扱うなんてできないでしょ?」
「皆さん…ありがとうございます」
「うん。ほら折角のご馳走が冷めてしまうよ。温かいうちに頂こう」
皆で小さな食卓を囲み用意された料理を食す。新たに加わった仲間と話をしながら楽しい食事を済ませた。




