達成感
「うぅぅ、あったま痛ぇ、それに全身に力はいんねぇ、どうなってんだよ」
猛虎との融合を解除した瞬間とてつもない疲労感に襲われたまでは覚えているんだが~どうなったんだ。
『よぉ、ケント元気そうだな』
地面に転がっている俺の頭の上の方から猛虎の声が聞こえる。力がうまく入らず動くのもやっとの状態でどうにかこうにかその方向を見ると猛虎腕を組み俺のことを見下ろす姿が目に映った。
「猛虎か…これどうなってんだよ」
『行き過ぎた力の代償ってやつだよ。限界を超えて能力を発揮し続けていた反動みたいなもんだな』
「なんだよそれ、そんながのがあるなら先に言えっての」
『言ってもよかったが別に言わなくてもあの時のお前は今の選択したんだろ?だからいう意味ないんじゃないって思ってよ』
ハハハと笑う猛虎だったが彼の言う通りだなって思ってしまった。例え代償に何かを失おうとも男にはいかなければならない時があるんだよ。でも、欠損とかではなくて良かったとは思ってる。折角どうにか乗り越えることができたのにボロボロでそのあとに影響を及ぼしてしまっては本末転倒だもんな。
「で、これはいつになったら回復するんだ。ただの猛烈な疲労感のようだが丸三日くらい寝込めば治るのか?」
『知らん!』
「はぁ?お前どういうことだよ」
『どれくらい体の細胞が損傷しているかは我も把握しているわけではないからな時期に良くなるとしか言えないな』
「なんだよそれ。てか、ギルドハウスにつくまでって言ったのはここなら倒れてもどうにかなるとかか?」
『まぁそういうことだな。森の中でぶっ倒れるよりはいいだろと思ってよ。幸い、アドレナリン効果かなんかで能力を解除するまでは疲労も襲ってきそうになかったし、なら可能な限りあのままで移動しようと思たわけだ』
「お前のその判断はいいと思うが流石にこれ今後はどうにかなんないか?融合して能力を解放したあと毎回こんなことになるのは色々とまずいだろ」
『なんとかなるだろ』
「おい、ちょっと無責任すぎないか?」
『次第に体の方が慣れてくるから大丈夫だぜ。限界を超えて体の細胞が破壊されるってのを繰り返すと耐性がつくもんよ。あれと同じさ、筋トレみたいなもんだ』
「そういう感じでいいのか?」
『いいだろ。結局は荒療治みたいになったが一気に成長しちまったな。その様とはいえ俺の力の一端をうまく扱えていたと思うぜ』
「そうだな」
確かに猛虎の真の力を今の俺があれだけ使えたってのはすごいことだ。力不足だと言われ技も一つや二つくらいしかできないって言われた俺が守霊 猛虎をその身に宿して駆け回ったのだ。それが凄くないわけがない。
「それより、どうしてまたお前と話せているんだ?融合を解除したんじゃなかったのか」
『融合を経験したせいかお前とのパスがつながりやすくなったみたいだぜ』
「それでこうやって俺が意識を失ってるときには話せると?」
『そういうこと』
「なんか面倒なシステムのようだな」
『システムとは失礼な。いつでも我と話せてうれしいだろ?な、そうだろ』
「別に嬉しくはないだろ」
『またまた~』
「なんか猛虎、お前おかしくないか?」
『おかしい?どこがだよ』
「絡みが軽々しいというか馴れ馴れしいというか」
『お前との仲が深まったってことだよ。なぁ、相棒!』
「おい、俺は守るべき主様じゃなかったのか?」
『んぁ?別にいいだろ。守るのには守るんだからよ。主従関係とか疲れんだよ』
「それをお前が言っていいのか?」
『守霊にも意志ってのはあるんだぜ。それとも主従関係をお望みか?』
「いや、いいよ自然体で」
『おう!』
「それより俺はどうしたらいいんだ。お前も見ていないで起こしてくれてもいいだろ?」
『あ~悪かったってなんかケントが転がってる姿ばかり見てて違和感がなかったんだ』
「おい、確かにお前に会うときって毎回打ちのめされて膝をついてた時が多かったけどそれに慣れるなよ」
『ほら、少し痛むだろうがこれで大丈夫か?』
猛虎が俺の胴体を抱きかかえ地面に胡坐をかくような姿勢で座らされた。正直この状態をキープする力もないので振り子のようにゆらゆらとふらついている。猛虎が指をパチっとならすと背もたれと肘置きがついた座椅子があらわれた。そこに俺は座らされ目の前に机を一つ挟み反対側には猛虎が座る用の椅子があらわれていた。
「なんかお前と会うこの空間ってなんでもありなのか?」
『そういうわけではないぜ。ここで出せるのはケントが今まで生きてきた中でその目で見たものを再現したやつしか出せない。言い返せばお前が覚えていなくても一度でも認識した扱いになればこの空間では出現させられるって訳だ』
「ってことはこの椅子も俺は一度みたことあるってことか?」
『そういうことだな。まぁこの際そういうのはいいだろ、今のお前に都合の良い座椅子を見たことがあったってそれを過去の自分に感謝すりゃいいわけよ』
「そうだな」
「おーいケント~大丈夫か~」
「ベリル、ケントの容体はどうかい?」
一方その頃ぶっ倒れたケントの肉体というと~ベリルたちにギルドハウスないの自室に運ばれ様子を見られていた。
「主様~」
「生きちゃいるぜ。あんだけ暴れたつけが一気に押し寄せてきたったところか。すこし休めばどうにかなんだろ」
「トーナちゃん、大丈夫だよ」
「ほんとう~?」
「ケント君はすこし頑張りすぎちゃったんだよ」
「主様、かっこよかった~」
「そうだね」
横になっているケントの側にはトーナがべったりとくっ付いていた。その後ろに様子を伺うベリルとガリズマがいた。
「ちっ、明日から特訓をやろうと思ってたのによ。この様なら俺ひとりでやるか」
「ベリルもすこしは体を休ませるってことをするようにね。シュアちゃんの力で腕も治ったとはいえ疲労は蓄積してるでしょ?」
「だがな~限界の時の修業が一番の伸びるんだよ」
「言いたいことはわかるけどしっかりと休むこと!いいかい?」
「あ~わかったって」
「ふふふ、素直でよろしい」
コンコン
「ん、どうぞ~」
「あの~」
「あ、シュアちゃん、どうかしたかい?」
「お料理が冷めてしまうかと思って…」
「お、わざわざ持ってきてくれたのか助かるぜ。疲れは気合でどうにかなるが、空腹にはかなわんからな」
「ありがとうね」
「いえ」
「そっちはどうだい、楽しんでるかい?」
「はい、こんなにおいしいもの初めて食べます」
「そうか、なら良かったよ」
「あの、その人は大丈夫ですか?」
「あ~ケント君かい?大丈夫だよ。ただ今は疲れて寝ちゃってるだけ、しっかり休養をとればまた元気になるよ」
「でも、ケントもタイミングが悪いよな。よりにもよって宴の前にぶっ倒れるんだから」
「そうだね。今回の功労者が不在なのは盛り上がりに欠けるね。目を覚ましたらまたみんなで美味しいもの食べればいいよ」
「そうだな。今のはその予行演習みたいなもんだな。ははは」
シュアから渡された温かい料理を口にしながらガリズマとベリルはケントを見ていた。今回も無事にクエストをこなせた達成感も味わっていた。




