猛虎の力と代償
「おい、ケントそういやその力について説明するって言ってたよな?ギルドハウスにつくまでに教えてもらおう」
「え、あ~そうでしたね…」
「猛虎、どうする?」
『ん?何をだよ』
「いや、守霊について正直に話していいのかってことだよ。このことについて話すってなると俺が異世界から来たことも話さないといけないだろ?」
『別にいいだろ。魔力がないってことで少し怪しまれていたんだし、いっそすべて話してしまえよ』
「そうだな。よし、全部話すか」
「ちょっとなにについて話すつもり?」
「梨衣か、いやベリルさんたちに守霊についてと俺たちがこことは違う別の世界から来たってことを話そうと思ってさ」
「守霊について話すのは今後のためにもいいことだと思うわ。でも、私たちが異世界から来たってことははぐらかした方がいいと思う」
「どうして?」
「守霊というものは私たちをこの世界の理から守るための存在ってのはあんたも知っているでしょ?魔力もなく無力な存在である私たちの唯一の武器、そんな武器が何故必要なのかって考えたことはない?別に魔力がなくても街でできる仕事を見つけて日銭を稼いでいれば力が無くても生きていくことはできるはずでしょ?でも、私もあんたも守霊を与えられている。それは普通にこの世界で生きていても危険に脅かされる可能性があるってことなんじゃないの?異世界人であるってことそのものが危険なことなのよ…たぶんね」
「そうか…」
梨衣の言い分は確証はなくとも可能性の一つとして大いにあり得ることだった。俺たち異世界人を守る存在、それが守霊なんだとそう考えるとなると俺たちが異世界から来たってことを素直に話すのは今後己の身を危険にさらすことになるかも知れない。なら…
「わかった。俺たちが異世界から来たってことは内緒にしよう。守霊についてはもう隠しきれなさそうだから魔力がない代わりに与えられた特殊能力ってことで話をつけてみるよ」
「そうね。あんたのその姿を誤魔化すのは無理ね。自分の姿を鏡で見てみるといいわよ。元の世界であったアニメのキャラみたいだわ」
「なぁ、それはカッコイイってことか?それとも滑稽って言いたいのか?」
「どっちもね」
「はぁ~まぁこの力があったからドルフィネを倒すことができたんだし見た目はこの際どうでもいいか。でも、この鬣は長すぎて邪魔だな。この力を解除したあともこの長さなんだろうか…そこだけが心配だよ」
「もしそのままだったら私が切ってあげるわよ。シャンプーのサービスもしてあげるわ」
「あ~はいはい。そのときは頼むよ」
梨衣は俺の返答を聞く前にカイザさんの元へと戻っていった。そういえばあの後シュアの力で瀕死だったカイザさんの傷も梨衣の傷も治癒してもらったんだ。自分で動くことができるようになったカイザさんは今俺らの後を梨衣とともについてきている。なんか腕を組みながら歩く二人の姿はカップルのそれだった。いや、カップルじゃなくて夫婦だったな。カイザさんにドルフィネに操られていた時の記憶があるか確認したところ、何も覚えていないとのことだった。ドルフィネにより何者かの魂と混ぜて元の肉体に戻されていたためなのかそこはよくわからないらしい。ドルフィネの情報というよりは仮面の悪魔…ガンサクについての情報が少しでも得られればと思ったが無理だった。
「ケント…おい!ケントって聞こえてないのか?」
「え⁉あ~ベリルさんどうしました?」
「どうしましただぁ~話すって言ったと思ったらあの女のとこにいって話し出すし本当に話す気あるのかよ」
「いや、話しますよ。だから少し離れてくれませんか、あと顔怖すぎますって」
「そりゃ、お前が悪い。さっさと話せ!」
「わかりましたよ~」
それから商業街ノーヴァにつくまでの間に守霊 猛虎の力についてとベリルさん達が意識を失っている間に起きたことを話した。時々ガリズマさんやベリルさんから質問があったが俺が異世界から来たってことに関すること以外は本当のことを話した。異世界から来たってことに関することは適当に誤魔化した…これがなかなか大変だった。話の辻褄があるように上手く話すのって結構難しいんだなって思ったよ。
「よし、もうそろそろだよ」
ガリズマさんの声で前を確認すると目の前に商業街ノーヴァが見えてきた。ガヤガヤと賑わう商業が盛んな街、そして俺らのギルドハウスがある場所だ。
「先にギルドに行って報告と皇女様の引き渡しをやろうか。皇女様、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、いいわよ。でも~あなた達のギルドハウスってところに妾を招待して欲しいわ」
「別に構いませんがお城にあるような高価なものなどはありませんよ?」
「いいのよ。すこし世間を見てみたいの。次期皇帝としての教養の一貫ね。おそらく従者がつくことになると思うけれどいいかしら?」
「勿論です」
「感謝するわ」
「なんだこの変わりようは?変わりすぎじゃないか。俺らに言われたのがいい薬になったみただな」
「ちょっとベリル!」
「その通りよ。あなたたちに言われて考えを改めようと思ったわ」
「そうかよ。まぁ、小賢しいガキよりは素直なガキの方がよっぽどかわいいぜ」
「ふん、妾が可愛いのは周知の事実よ。気づいていないあなたの目が節穴なだけね」
「はぁ?このクソガ…」
「ベリル!」
「あ~わかったよ。悪かったって」
「いいわよ。その感じで変に気を使われてないのって気楽でいいわね」
「皇女様がそういうなら…」
お高くとまっていたアザレアも考えを改め今はこうやってガリズマさんたちと談笑をするくらいには仲良くなっていた。一時はその無礼でどうなるかってひやひやしたけれど今はその心配はないな。
「着いたよ。ここがギルドホールだ。少し待ってくれるかいドレッドさんを呼んでくるよ」
そういうとガリズマさんは一人ギルドホールに入っていった。俺らはギルドホールの外で待つことになった。何故中へ入らなかったかというと全身ドルフィネとの戦闘で土や血でぐしゃぐしゃだったからだ。流石にこのまま入るのはギルドホールを汚してしまうから気を使ったって訳だ。
暫くしてガリズマさんがドレッドさんと全身を固めた騎士とともに戻ってきた。おそらくノーブル帝国の人だろう。
「アザレア様!よくぞご無事で…」
「ええ、あなたたちもここまでご苦労様ね」
「そんなお言葉…この度は我々の不覚の致すところ、いかなる処罰も覚悟のうえでございます」
「別にいいわよ。妾はこうして無傷でいるのだから気にすることないわ」
「いえ、しかし…」
「そう、そんなに罰してほしいの?ならそうね~帝国に戻る準備が整うまでの間この街を自由に散策させてもらうおうかしら。あなたたちは一定の距離を取りつつ護衛をすることそれで許してあげる」
「アザレア様、それは…」
「なに?できないっていうの」
「いえ、かしこまりました」
「よろしい。さぁ、護衛の者の了承を得たことだしあなたたちのギルドハウスに行きましょ」
「あの、本当にいいんですか?」
「アザレア様のご命令のままに」
「んじゃ、行くか」
「そうだね」
皇女アザレア、シュアらを連れてギルドハウスへと向かうことにした。途中商店でいろいろな食材を買い込んだ。鬣とかを隠せる大きさの大きなローブも買い早速身にまとった。皇女様のお付きの騎士から今回の報酬をたんまりと貰ったのでいつもより奮発して買い込んだ。クエストが終わりギルドに帰りやることといったらただ一つ!今回は皆と皇女様、シュア、シンリーさん、それに梨衣とカイザさんとたくさんいる。前よりも賑やかになりそうだな。
そういや、ギルドハウスについたらこの状態を解除してもいいんだったっけな。
「なぁ、猛虎そろそろお前との融合を解除してもいいか」
『あぁ、いいぜ』
「どうすればいいんだよ」
『そうだな~戻れ!猛虎って叫んでみろ』
「わかった。戻れ!猛虎」
猛虎に言われた通りに叫んだ。すると首元に感じていたふさふさ感が徐々になくなっていく。あ~鬣は融合時のみなんだと少し安心した…のも束の間だった。全身に猛烈な疲労感が襲い来る。
「こ…れ…は…」
バタッ
その疲労感にあらがえず受け身も取ることなく目の前に倒れた。
「ケント君⁉」「おい、ケント!?」
ガリズマさんとベリルさんの驚く声が微かに聞こえた。あ~なるほどね。ギルドハウスにつくまで融合を解除させなかったのってこうなると知っていたからか…これ大丈夫だよな?死んだりしないよな?猛虎なんとか言ってくれぇぇええええ!
そして、俺の意識は真っ暗になった。




