帰路にて
ギルドホールへの帰路にて…
「あの仮面の悪魔ってやつは一体なんだったんですかね?」
「さぁ~わからないな。そういえばそこの女がやけに詳しそうだったがそいつに聞くのが早いんじゃないか?」
「そこの女って何よ!私にもね、ちゃんとした名前があるのよ!」
「じゃあ名乗れよ。俺はギルド【ガベラ】の幻影ベリルだ」
「あ~もう、つくづくムカつかせてくる男ね」
「そういう奴だって慣れるか諦めな」
「それをあんたが言うの?」
「別に問題ないだろ?俺のことは俺が一番わかってるからよ、この感じは直らねぇ。なら周りの奴らが都合よく解釈する方が楽だろ?」
「まぁ、それも一理あるわね」
「ほら、俺は名乗ったぜ。次はあんたの番だ。それにその連れている男の紹介もしてくれると助かる」
「わかったわよ!私は霧生梨衣よ。それでこちらの彼は私の婚約者のカイザ君。っていっても私が生まれ変わる前のだけどね。記憶を持ってるからあの時と気持ちは変わらないでいるわ」
「ふ~ん、なるほどな。うちのケントが世話になったみたいだし師として礼を言う。感謝する」
「別にいいわよ。私も彼のおかげであの空間からでることができたんだしお互い様ね」
「でだ、あの仮面の悪魔について知っていることを教えて欲しい」
「私もそんなに詳しくないわよ。さっきあなたたちに話したでしょ?あれ以上のことは私もわからないわ」
「そうか~結局謎の存在ってのは変わりないんだな」
「そうね」
仮面の悪魔についてはまだわからないことばかりだった。ただあれが今後どんな災厄をもたらすかは概ね想像できそうだった。ミスティの記憶で見たように突如現れ生きるものの魂を奪う。無慈悲に残酷に奴はそれを行うのだ。それも奴を裏で操る存在のためなのだろうが許されることではないことは確かだった。
「で、ケント!」
「はい!?なんですか」
ベリルさんに急に呼ばれて驚いてしまった。まさかさっきのことについて何かあるのだろうか…
「お前のその姿~いつまでそのままでいるつもりなんだ?それともずっとそのままなのか?」
「え、あ~これですか」
ベリルさんが指摘してきたのは猛虎と融合した俺の姿だった。確かにこの姿になったのはいいがいつまで続くかは聞いてなかったな。よし、猛虎に聞いてみるか
「猛虎~聞こえるか?この姿ってどうやったら解除?されるんだ」
『解除か?それならいつでもできるがいまやると後悔するぞ。だからギルドハウスってとこにつくまではこのままでいろ』
「後悔するってどういうことだよ?」
『いいからそのままでいろ。その時になったらわかるから』
「わかったよ」
「おい、ケントなにブツブツと独り言言ってんだよ」
「あ、えーっと色々考えてたんですよ。あれこれ考えを巡らせてたらそれが知らず知らずの内に声になってたんですね。すいません」
「そうか。ならいいが~で、いつまでそのままなんだ?」
「ギルドハウスまではこのままですかね」
「そうか。悪目立ちはしないように街についたらなんか羽織物を買うとするか」
「はい、でもどうしてですか?」
「目立つんだよその姿が!特にその手から伸びた爪が危ない。冒険者として武器の所持は認められているが商業街でそんなもんをあからさまに見せてたらあとで文句言われるからな」
「確かにそうですね」
「それがお前の持つ能力なんだろうが制御できねぇ代物をあたかも自分の力として扱うな。いつか痛い目を見るぞ」
「わかりました」
「いい返事だ。そこの嬢ちゃんのように慎ましくするのも時には必要だからな」
ベリルさんが俺の背後を歩くローブの少女について発言した。自分のことを言われた彼女は一瞬ビクッと体を震わせた。
「さっきは大丈夫だったか?俺らは別にあんたが亜人であろうがなかろうが気にしねぇからそんなに警戒しなくていいんだぜ?」
ベリルさんの言葉にすこしだけローブを握りしめていた手が緩んだ。亜人差別…あの皇女様のように見た目が違うだけであることないことを吹聴するというのは俺がいた元の世界でも日常的に起こっていた。蓋を開けてみれば皆同じ人間であるというのに少しの違いを蔑みあい嫌悪する、それがこの世界でも同じように起きているのだ。
「私たちは君に感謝しているよ。君がいなければこうして皆一緒に帰ることはできなかったかもしれないからね」
ガリズマさんがベリルさんの言葉に付け足すように言葉を発した。
「だな。あの技はすごかったぜ!治療師のそれとは比べものにならないくらいすぐ治っちまったもんな」
「私も痛みがスッと引いたのには驚きましたよ」
ベリルさんとガリズマさんが色々とローブの少女のことを褒めちぎる。確かに俺も目の前で傷が完治する奇跡を目の当たりにした手前それがどんなにすごいことかはわかっていた。それを直に受けたガリズマさんとベリルさんが言いたいことはなんとなくだけどわかる気がする。
「あの!」
「なんだ?」
「わ、私はそんなに凄くなんてないです…」
「何言ってんだ。俺とガリズマが…あんたに助けてもらった二人が賞賛してんだ。ならそれはスゲーことだろ?」
「で、でも…」
「君の名を聞いてもいいかい?助けてもらった恩人の名を知らずに過ごすなんて申し訳ないよ」
「だな。俺はベリル。そんでこいつがガリズマ、ケントに~あのデカブツがラーシャルドだ。皆同じギルドのメンバーだな」
「わ、私は…シュアといいます」
「シュアちゃんか~傷を癒してくれてありがとうね」
「は、はい」
シュアと名乗った少女はもじもじとしていたがローブの隙間から見えた表情は少し照れたような感じだった。
「失礼します。ギルド【血の番人】、暴斧ルシウス今戻りました。至急報告したいことがあります」
一足早く商業街ノーヴァへと戻りギルドホールにて受付を済ませたルシウスはギルドホール内で一際煌びやかに飾り付けられた扉の前に佇んでいた。
「入れ!」
「は、失礼します」
扉の奥より声が聞こえ入室の許可を得た。扉のドアノブをまわし中へと入る。中には特に何もなく部屋の奥に机と椅子が一組置いてあるのみだった。その椅子には二つ名執行者を持つ男、ライオが座っていた。
「なんだ?暴斧、遂に不滅が息絶えたか?」
「いえ、違います」
「そうか。急を要するとのことだったからなもしやと思ったが違ったか」
椅子にどっしりと腰掛けるその男は不気味な笑みを浮かべていた。
「で、用とはなんだ?」
「それが…」
ルシウスは今回起きたすべてのことを包み隠さずすべて話した。人の魂を奪うことのできる謎の仮面についてだ。そしてその仮面を取り逃がしたこと、その仮面は実態を持たずどう対処すればいいかわからないことなどすべてを話した。
「なるほどな…わかった。この件については俺のほうから他のギルド長に伝えておく。下がっていいぞ」
「は、失礼いたします」
ルシウスが部屋を後にしたあとひとりになったライオは何かを考えていた。
「魂を奪う実態をもたない謎の仮面か…おもしろい。クハハハ」
ライオは一言呟くと何か企んだ顔で静かに笑っていた。




