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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
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ローブの者

「よし、着いたぞ」


 ベリルさんの案内でたどり着いた場所は少し開けた空洞で奥には扉が開かれた牢屋があった。その扉を挟んで牢の両端に偉そうな小柄な少女とローブを深々と被った同じくらいの背丈のものが立っていた。肩や腕を組みすんごい不機嫌でもう片方はもじもじと何をしていいかわからない様子だった。


「おい、あんた。さっきは助かったぜ。ありがな」


 ベリルさんがローブを被ったほうへ一直線に歩いて行こうとすると偉そうな少女が口を開いた。


「妾を放置してどこ行っていたのよ愚民!よくものうのうと戻ってこれたわね。私から奪ったステッキを返しなさい。次期皇帝たる妾のものを盗んだ罪、あとで後悔させてあげるわ」


「んぁ?なんだよ小娘。あれはお前のじゃねぇっていってるだろ。助けられる分際でよくもそんな上から目線な態度が取れるな?次期皇帝様だろうが自力で何もできない奴が図に乗るな」


「な、なんですって~今の言葉ゼッタイ忘れないわ。泣き叫んで命乞いをしたって許さないんだから。覚えてなさいよね」


「あ~はいはい。ラスト、ウォーデンの子守りのついでにそのガキも頼むよ」


「わかったっしゃー」


 ベリルさんに頼まれてラストさんが皇女様にゆっくりと近づいていく。


「ちょっ、ま、待ちなさいよ。汚らわしい亜人なんかが妾に触れようっていうの?ふざけないでよね」


「体ならちゃんと綺麗にしているっしゃー失礼するっしゃー。あ~血糊は仕方ないっしゃ、諦めろっしゃー」


 ラストさんが一歩近づくと皇女様は二歩後ろに下がる。また一歩近づくと更に二歩下がる。なんだろ、このままでは一生捕まらないのでは?と思ったが背後にある牢まで行きつくとそれ以上下がることができず捕まりバタバタと暴れていた。なにやら汚らわしいをはじめとした差別的な暴言が飛び交っていたがラストさんは我関せずといったご様子だった。ラストさんが尻尾を胴体に絡め持ち上げて運ぼうとしていた。

 あーやってウォーデンさんを連れ歩いてるんだな~って思ってしまった。そのウォーデンさんは疲れ果てたのかうつらうつらと前後に船をこいでいた。ラストさんはそんな彼を優しく抱きかかえていた。やはりそこは子供なんだな~と思ってしまった。


「とんだ邪魔が入っちまったがまぁいいか。あんた、さっきの借りがあるのは承知の上でもう一つ頼みがある。俺らの仲間の一人が敵の攻撃を受けてかなりまずい状態なんだ。さっき俺にしてくれたようにそいつの負傷を治してくれないか?報酬なら言い値で払う、だから頼むぜ」


 ベリルさんがローブを被ったものに深々と頭を下げていた。俺もそれにならって頭を下げる。少し勢いよく下げたものだから鬣がブワッと舞い上がりローブを被ったものにバサリと当たる。


「あ、す、すいません」


 咄嗟の判断で鬣を回収する。まさかこんなことになるとは思わないよな。

 ローブを被ったものは何も言わず胸のあたりで手を遊ばせていた。怒らせてはいない…よな?隣にいるベリルさんがものすごい形相でこちらを睨んでくるのが怖すぎるんだが?もし怒って治療を断られたら色々とヤバいよな、これ。


「い、いいですよ」


「そうか!助かるぜ。こっちだ」


 ローブを被ったものが快く返事をしてくれたおかげか俺は命拾いしたようだ。ベリルさんはその方を接待するかのごとく丁寧にガリズマさんのもとまで案内していた。うん、もしこれ断られてたらその場で転がされてた。助かった~。でも、その治療法がどんなものか気になるところだな。

 ベリルさんの折れていた腕の骨を元通りに治したらしいし、この世界の治療魔法以上の治癒はできるってことなんだよ。な。俺も経験しているから知っているけどこの世界の治癒魔法とか治療魔法というのはゲームとかでよく見る完全修復のようなものではなく、傷の縫合のようなやつでどうも中途半端なんだよな。傷は塞がるけれども折れた骨は折れたまんまだし痛みもそのまま…血は止まるから出血死なんかはなくなるんだけど治療が終わりましたってな感じにはならんだろ。ま~傷が短時間で塞がるだけでも元の世界に比べれば凄いと思うけどね。実際手術で数針縫うとかよりは早く終わったもんな。さて、そんな治癒魔法の上位互換らしきその技を見させてもらいますか。


「どうだ、治せそうか?」


「はい…でも、少し時間がかかります」


「構わねぇよ」


「はい、ではいきます…朗らかに照らす陽の光、竜の吐息はすべてを癒す…陽炎息吹ヒートヘイズ


 ローブを被ったものがガリズマさんの体に手を翳し何か詠唱を済ますとその手から暖かな光が放たれ苦痛に歪んでいたガリズマさんの表情がすこし和らいだ。


「これが幻影ファントムベリルの傷を癒したというものですか…聞いた事も見た事もないものですね」


 ミヤさんが不思議そうにその様子を眺めていた。ベリルさんはガリズマさんの手を握りその様子を伺っていた。


「はぁ…はぁ…」


 数分が経過しただろうかローブを被ったものが翳していた手を引っ込めた。その者はまるでマラソンをしたかのような息遣いをしていた。


「な、治りました…」


「そうか!助かったぜ」


 ローブを被った者がベリルさんに向かって治癒が済んだ報告をしていると…


「ここは…?」


 閉ざされていた瞳が開きガリズマさんが目を覚ました。周囲を一通り見渡しそして自分を取り囲む俺たちを一人一人見ていった。


「ガリズマ!」


 ガリズマさんが目を覚ましたのに気付いたベリルさんが勢いよくガリズマさんに抱き着いていた。


「ちょっと、ベリルってばどうしたんだい」


 ガリズマさんはそんなベリルさんに戸惑いを見せながらも優しく受け止めていた。


「傷は大丈夫か?」


「傷かい?…あれ、痛みがない。ベリル、それに皆、いったい何があったんだい?」


 ガリズマさんは自身の体が不自由なく動くことに違和感を感じているらしくあちこちを触っている。さっきまで動かすこともまずいって状況がまるで嘘みたいだな。


「戦いは終わったぜ…すこし懸念は残っちまったが…いまできることはすべてやったぜ。なぁ、ガリズマ、俺たちの家に帰ろうぜ!」


「ドルフィネとの戦闘も済んで皇女様の保護ができたってことでいいかい?」


「あぁ、そういうことだ。クソガ…いや皇女様ならラストに任せている。ドルフィネについての報告は暴斧ベルセルクが一足先にギルドホールに向かっているぜ」


「そうかわかったよ…で、君が私の傷を治してくれたのかい?」


「は、はい…」


「ありがとう、すごい力だね。私たちはこの森の近くにある商業街ノーヴァに属するギルドのものなんだ。帝国の依頼で攫われた皇女様の救出と誘拐犯の捕縛をしに来たんだけれど君のように攫われた被害者の救出も依頼自体には含まれてないけれどやるつもりだったんだ。でも、救出に来た私たちの方が君に助けられちゃったようだね。あはは」


 今だこちらのことを警戒している様子のローブのものを和ませるべく事情を嘘偽りなくつげたガリズマさんだがまだローブのものの警戒は変わらなかった。

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