独特な三人組
「えーっと、どれにしようかな」
冒険者になって初めてのクエストだ、それらしいものを選ばなくてはと俺は掲示板とにらめっこしていた。
「赤ピンの魔生物討伐とか冒険者らしいといえばらしいけど、今の俺じゃあ素手で戦うことになるんだよな~手頃に武器なしでも倒せる魔生物とかいないのか?」
漫画とかアニメの影響か冒険者といえば魔物退治ってイメージがついてしまっているらしい。何故か勝手に目線が赤ピンのクエストのほうへ惹きつけられる。でも、よく考えたら今の俺って武器なんて持っていない。つまり戦闘は素手、ステゴロ、パンチファイトってことになる。俺は生粋の戦闘狂ではないのであまり気が向かない。てか、荒野で出会ったような危険な魔生物との殺し合いとか怖すぎて無理!絶対にムリ!うん。ここは理想を捨てて堅実に達成できるものを選ぶとしよう。俺の本来の目的は無事に元の世界に戻ることだ。下手に無理して死んだら元もこもないよな。俺は赤ピンのクエストを諦めて他の掲示板のほうへ行こうとしたら…
「おい、あんたそこどいてくれねぇか」
「あ、すいません。すぐどきます…うわっ」
俺が考え込んでいた間に他の冒険者が赤ピンの掲示板を見に来ていたらしい。ドスの利いた声で言われて腰を抜かしてしまった。
「あ~もう、ベリル何やってるのさ。そんな風に言うから驚かせちゃったみたいじゃないか。すまないね、悪気はなかったんだ」
「あ、はい。俺も見るの邪魔してたみたいなんですいませんでした」
さっきの声とは別の優しそうな声で謝られ、誰かが倒れた俺に対して手を差し伸べてくれている。
「あの、ありがとうございます」
「礼なんていらないよ。もともと私の仲間が急に話しかけたのが悪いんだから気にしないで」
「は、はい?」
差し伸べられた手を支えに立ち上がり相手をみる。相手は三人組で俺に手を差し述べてくれた人は冒険者というにはどこか高貴な雰囲気を纏っていてすこし違和感を覚えた。隣にいたもう一人は鋭い目つきで例えるならヤンキーみたいな人だった。二人の背後に立っている大男は口を真一文字に結び、よくわからない圧を感じた。
「ガリズマ、なんでお前が謝ってんだよ。こいつが邪魔だったから退く様にいっただけだろ」
「ここは冒険者みんなが使う掲示板だよ。例え邪魔だったとしてもさっきのような声で脅して退かすのは違うと思うな~」
「ちっ、確かにそうだがな~」
「クエストを受ける人数が足りなくて焦るのはわかるけど、すぐにクエストがなくなるわけじゃないからさ~落ち着きなってほら、まだ貼り出されているよ」
目つきの悪い男は受けたいクエストがあるらしく、それがまだあるのか確認しに来たようだ。クエストには期間が設けられており、一定期間がすぎると条件の緩和や取り消しなどがある。また誰かがクエストを受けると一時的に掲示板から除外される仕組みだ。何故除外するかはクエストのダブルブッキングの防止のためだとか受付の女性が言っていたっけ。で、この人たちは三人でクエストを受けようとしていたけど、頭数が足りなくて一度断られたけどあきらめきれないらしい。
「そうか、まだあるのか…なら良かった。悪かったなぼうず。すこしイラついてたんだ勘弁してくれや」
「あ、はい。別に気にしてないので大丈夫です」
「それにしてもな~どうするよ。あと一人だろ?」
「そうだね、あと一人。他のギルドをあたってみたけど別に受けているクエストがあるからって断れたしね~どうしようか」
何やら目の前で美味しい話が繰り広げられている。これってもしかして俺のことを誘っているんではなかろうか。でなきゃ、こんな目の前で話さないよな?
「あの~すいません。クエストを受けるために人を探しているんですよね?」
「ん?あ~そうだよ。このバーハニーの採取ってクエストを受けたいんだけど参加人数制限があってね。私たち三人だとあと一人必要になるから困ってるんだよ」
高貴な雰囲気を纏った男が赤ピン掲示板の一つのクエストを指さして事情を話してくれた。そのクエストにはバーハニー採取、参加人数制限四人(二人陽動、残る二人が採取)って書かれていた。採取に二人ってどんなものだろうか。
「あの、バーハニーってなんですか」
「は?!お前、知らないのか。バーハニーってのはエイトビーっていう蜂の魔生物が作る蜂蜜で薬や食品として扱われる貴重なものだ。とても甘くてこの世のものとは思えないほど旨いんだぜ」
「そうなんですか~皆さんはそれを確保してどうするんですか」
「はっ、そんなのたべ…いや、薬として使うに決まってんだろ。俺たちは冒険者なんだからな」
「食べずに薬として使うってどれだけすごい効能なんですか」
「はぁ~もう、ベリル。変に意地はらないで食べるために取りに行きたいって素直に言えばいいじゃん」
「な?!で、でもよーこの前それでいったらダメだったじゃないか」
「あとからわかることだしさ~薬としてもいいけど私は食べたほうがいいと思うんだよね」
「えーっと…」
「すまないね。ベリルが変に意地はったせいで話がこんがらがっちゃったけど要するに私たちはバーハニーを採取して食べたいんだ。で、君にお願いがあるんだけどさ…一緒にクエストを受けてくれないか?君も薄々私たちの意図には気づいてたと思うんだけどさ~頼むよ。このとお~り」
高貴な雰囲気を纏った男が頭上で両手を合わせて必死に頼んでくる。
「俺からも頼む」
目つきの悪いヤンキーも一緒になって頭を下げている。
「俺、冒険者になりたてでよくわからないですけど大丈夫ですかね?」
「そうなのかい?赤ピンのクエストを見ていたからてっきりソロでやっている人かと思ってたよ。初心者か~うん、大丈夫だよ」
「本当に大丈夫ですかね?戦いになったら間違いなく役に立たないと思いますけど…」
「大丈夫さ。クエストに行くまでに鍛えるからね~ベリルが!」
「ブフォッ、おいガリズマお前な~」
「バーハニー欲しいんでしょ?なら使える戦力はベリル自身で育てないとね~」
「ちっ、分かったよ。ぼうずクエストに行くまでみっちりしごいてやるから覚悟しろよな」
「は、はい!」
なんかあっという間に俺の初めてのクエストが決まった。バーハニーの採取、どんなクエストなんだろう。
「そうだ、まだ名乗ってすらいなかったな。俺はベリル!幻影のベリルだ」
「自己紹介か~そうだね。これから一緒にクエストを受けるんだしお互いの名前を知っておかないとね。私の名前はガリズマだよ。奇煌子のガリズマだ。で、こっちにいる大男は沈黙の獣のラーシャルドさ。少し事情があって口がきけないんだ。そこは大目に見てほしい」
「わかりました。俺の名前は霊仙拳斗です。みなさんこれからよろしくお願いします」
「うん」「ああ」「………」
なんか唐突ではあるけれどガリズマさん、ベリルさん、ラーシャルドさんという冒険者の方々と一緒にやっていくことになった。初クエストがんばるぞ!