総力戦
「間に合ったか…」
ガリズマの指令のもと武器を持ち帰り、皆の元へと帰ってきたベリルの目に映ったのはルシウスに抱きかかえられ動かない友の姿と今まさに黒い塊へと突入しようとする金色の獣だった。
「ガリズマぁ‼」
得体の知れないものもすぐそばで暴れる化け物も目に留めず一目散に友の元へと駆け寄った。
「噓だろ…俺がいない間にどうしてこんなことに…なぁ、ガリズマ…目を覚ましやがれって!ガリズマぁ‼」
「幻影ベリル、落ち着いてください。ガリズマはまだ生きています」
「うるせぇ!ならなんで目を開けないんだよ」
「そ、それは…」
「幻影、今はゆっくりさせてやれ、じきに目を覚ます。それよりお前は任されたことをやり遂げてきたってことだよな。さっきまだ意識のあったガリズマから話は聞いている。武器はどこにある?」
「武器ならそこに…ガリズマ…本当に大丈夫なんだよな?」
「フン、あの幻影がこうもうろたえるなんてな。酒があれば良い肴になったであろう」
「うるせぇ、暴斧。ガリズマがこんな目にあってるのによくもまぁそんなに呑気でいられるな?ここは戦場だぞ」
「そんなことわかってる。ガリズマには感謝しているぜ。あの化け物に狙われたときミヤを庇ってくれたんだからな。なぁそうだろ?」
「えぇ、あのまま二人とも捕らわれていたら一貫の終わりだったでしょう。幻影ベリルが武器を持ち帰る前に決着がついていたかもしれません」
「何が言いたい?」
「オレ様たちは呑気にやってるんじゃねぇ。ただ冷静にこの状況を覆す算段を整えてるんだ。闇雲に向かっていって勝てる相手じゃねぇのはお前もわかってるだろ?そのためにお前を待った。この使い慣れた武器をもって反撃の狼煙をあげる。準備はいいか、幻影?」
「そういうことか…少し頭に血が昇ってしまってたようだぜ。焦りや不安は腕を鈍らせるって前にガリズマに怒られたっけな。俺としたことがトンだへまをするとこだったぜ。準備ならできてる。腕のケガも万全だぜ!」
「幻影ベリル、どうやって腕のケガを?」
「武器を探しに行ったところでローブを被ったガキに治してもらった。治癒魔法のそれとは違うなんか不思議な魔法をつかってたな…あ!そうだ、あのガキにガリズマの治療をしてもらえばいいんじゃねぇか?なら話ははやいぜ。さっさと目の前のデカブツを片付けねぇとな」
「治癒魔法とは違うケガなどを癒す魔法ですか…私も存じ上げませんね。しかし、幻影ベリルのその腕を見ればどういったものかは大体想像がつきます。そのような魔法を扱えるものがいれば確かにガリズマは助かりますね」
「ラーシャルド!やれるよな?そこの女も手伝ってもらうぜ。総力戦だ!」
「それがあなたの人に頼む態度なの?まぁいいわ、私も奴に因縁があるんだもの…協力はしてあげる。傷はまだ癒えてないけれど関係ないわね。カイザ君の分までぶん殴ってやるんだから」
「ミスティ、無理は…だめだよ」
「わかっているわ」
その場にいる皆の意識が一点に集中した。その標的たるは諸悪の根源であるドルフィネであった。友を傷つけられたベリルら、実の夫の魂を弄ばれ自身の転生体を亡き者にされた梨衣…彼らの持ちうる力をもってこの悪魔の討伐を開始しよう…とした矢先…
パリンッ
ガラスが割れたような音と共に黒い塊から金色の鬣の男と老師シンリーがあらわれた。皆が揃ったな…ん?待てよ。
「おい、そこの金髪野郎は誰なんだよ!」
ベリルが唐突に叫んだ。ルシウスらはその発言に少しあきれ顔だった。今から総力戦が始まろうとしてるのにそんなことどうでもいいだろうって様子だった。
「ベリルさん、俺ですって!霊仙拳斗ですって」
「ケントだって?!お前なんなんだよその恰好は?」
「あ~もう、後で話しますんでまずはこいつを倒しちゃいましょうよ!」
「そうだな。じゃあ、やるか。お前ら武器はもったな?行くぞ!」
「おう!」
ベリルの掛け声のもと獣魔ドルフィネへの反撃が始まった。
「疾踪からの穿刺!」「一意専心!掌滅拳」
まずはベリルとシンリーによる最速の初撃が獣魔ドルフィネにクリーンヒットした。両者クロスを組み加速からの突きと全体重を乗せた拳による一撃は獣魔ドルフィネになかなかのダメージを与えたようだった。
「我らを包め、霧の乙女!そして…喰らいなさい、疑似水砲」「紅き血潮よ深紅の月となれ、血操球そして、散りて降り注げ、血雨」
次に梨衣とミヤによる遠距離攻撃が繰り出される。梨衣はお得意の水を用いた技だ。自身の周囲を多湿の空間に変化させ自身の指先に水泡を作り出し射出するそれはドルフィネの体を貫き壁にめり込んだ。
ミヤは先程傷つけ地に溜まっていた血だまりをかき集め球体に変化させた。それを獣魔ドルフィネの頭上から細かく分散させてまるで雨のように降り注がせた。降り注ぐ雨は一粒一粒が槍のように鋭く強靭な肉体を持つ獣魔ドルフィネの皮膚に大量の切り傷を付けた。その傷から滴る血は血操球により回収され血雨として降り注ぐ、血が枯れ果てるまで降りやまぬ雨が出来上がった。
ラーシャルド、ウォーデン、それにラストはただひたすらに獣魔ドルフィネに向かって渾身の一撃を食らわせていた。ウォーデンのそれはただの無謀な突撃でしかなかったが鬱陶しさだけは段違いだった。蹴散らそうともなんどもぶつかってくるそれはさながら周囲を飛び回る羽虫のごときうざさがあった。
ラストはそんなウォーデンに振り回されつつも鉤爪でひっかいては引いてを繰り返していた。
ラーシャルドは拳に気流を纏わせズドン、ズドンと鈍い音を響かせる一撃を浴びせていた。
そして、俺はというと…
『虎紋瞬光と虎撃連舞を組み合わせて繰り出せ!出力はMAXだ』
「わかってるって、虎紋瞬光Lv3…参虎!」
猛虎の助言のもと虎紋瞬光の最大レベルである三虎まで出力を上げる。全身に電気を纏い鬣が逆立ってしまっている。三虎は威力と速度に電気の力で加速をつけるものだ。耐性ギリギリの出力になるためあまり長いことはつかうことができない。
「行くぜ!虎撃連舞!!!」
最速の一撃が獣魔ドルフィネに向かって飛んでいく。途中ミヤや梨衣の繰り出した技を斬撃波に纏わせて獣魔ドルフィネにヒットした。
ぐあぁぁあっぁぁぁあああぁああああ
さながら断末魔のようだった。俺が放った最大の一撃は仲間たちの技と共に獣魔ドルフィネの肉体を真っ二つに切裂いたのだ。盛大に血飛沫をまき散らしながら諸悪の根源は地に伏した。
「終わったんですよね?」
「そのようですね」
「だな」
「わーい」
「あっけない最期ね」
「すこし疲れたのじゃ」
「ガリズマ、やったぜ…俺たちの勝利だ!」
うぉぉぉおおおお!!!
皆で掴み取った勝利だった。獣魔ドルフィネの肉体は風船のようにしぼんでいき上半身と下半身に分かれた人の形に戻っていた。まるで壊れた人形のように目を見開き自身の敗北が信じられないといった様子だった。




