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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
78/145

金色の鬣

「な、なんだ?!」


 突如響いた大声に驚きルシウスらはその声の方を見る。そこには金色の鬣をなびかせ、両の手に鋭利な爪を持ち、橙色のオーラのようなものを纏ったケントの姿があった。


「なんだ…あの姿は?獣人か?いや、そんなんじゃないな」


「ルシウス、あれは英雄エロイケント?なのでしょうか?」


 血の回収を終えたミヤがふらつきながら歩いてきた。獣魔ドルフィネは自身の手から吹き出る血の始末に手こずっているらしくすこし猶予があるようだった。ルシウスらは拳斗けんとの神々しいその姿に暫し見とれていた。


「まさに伝承にでてくる英雄エロイのようですね」


「だな。幻影ファントムを助けたっていう話もこれを見れば納得いくぜ」


 二人は拳斗けんとを見ながらポツポツと呟いていた。



「ここは…」


 目の前に広がる光景にすこしばかりぼーっとしていた。辺りを見回して状況を確認するとルシウスさんとミヤさん、ラーシャルドさんに梨衣りいたちの姿が見えた。ルシウスに抱きかかえられたガリズマさんはぐったりとしていてすぐにでも治療が必要なようだった。だが、俺は治療魔法をなんて扱えないし今傍にいってもただ見てることしかできない。なら、目の前の敵をどうにかするのが俺の役目になるだろう。更に周りをみると俺の側に黒い塊があるのに気付いた。確か~この中にはシンリーさんが捕らわれていたはずだ。まずは手始めにシンリーさんを助けるか。


『おい、ケント!まずはなにやるんだ?』


「まずはシンリーさんを助ける。あの黒い塊をどうにかすればいいだろう。って、猛虎もうこの声がなんで聞こえるんだよ」


『あ?何言ってんだよ。今、おれとお前は一心同体だぜ。おれの声が聞こえても問題ないだろ?』


「そ、そうなのか?確かになんか俺の見た目すごくね?なんだよこの鬣は!…それにこの爪も!体中を変な橙色のオーラみたいなのに包まれてるし気持ちわりっ」


『お前な~おれの力を貸し与えてもらってるってことわかって言ってんのか?』


「わかってるってでも、流石にこれはおかしいだろ。特に鬣とかな。虎であるお前にそんなのあるわけないじゃん。鬣があるのってどっちかというとライオンの方じゃね?」


『まぁ、細かいことは気にすんなって!それよりほら、やることあるんだろ』


「そうだったな。猛虎もうこ、準備はいいか?俺はできてる!」


『愚問だな。さっさとやるぞ!』


「おう!」


 黒い塊に標準を合わせ両の爪を構える。今から繰り出すのはいつものアレだが今までのものとは一味違う。なんせ俺と猛虎もうこの合わせ技ってやつだからな!


虎撃フー』「連舞ランペイジ!」


 両の手の爪から大きな斬撃波が繰り出される。それは一直線にシンリーさんを拘束する黒い塊に向かって飛来した。


 ズザァァァァン


 大きな衝撃音とともに土煙が立ち上る。それが収まるのを待ち、様子を確認する。

 見事に黒い塊の一部が欠けており慎重にその中の様子を伺った。



「なかなかしぶといもんじゃの」


 シンリーはドルフィネが繰り出した群歪愛サバトにより拘束され無数に湧き出る蝙蝠と終わらない戦いを繰り広げていた。倒しても倒しても次から次へと湧き出るそれはまさに無限でただひたすらに戦闘を強いられていた。さながら無限戦闘といったところかの。

 歴戦の冒険者として嘗て名を馳せたシンリーではあるが今は年を重ねてただの老いぼれとなってしまっている。それでも現役から常日頃続けていた鍛錬のおかげか今もこうして体が動くといったところだった。

 湧き出る蝙蝠を打ち落としたり弾いたりとただひたすらに倒していく。それでもその襲い来る数は減ることはなく逆に増えてるまでもあった。

 拘束されて既に数十分が経過しただろうか…シンリーも体力の限界が近いのか肩で息をし、振るう拳のキレも徐々に落ちつつあった。錬武ビルドアップで高めた身体能力も常に高められているわけではなく体力が尽きればそれと同時に消え去る。そういうものだった。


「さすがにこれは厳しいものがあるのじゃ」


 弱音なんて吐かないシンリーでさえも心身ともに疲労しているせいかポツリと口からこぼれていた。

 この技がどういったものかもわからないがただ今は目の前の敵を葬るしかないのだ。もしこれが解き放たれ他のものに害をなそうならば我が人生の一生の不覚になりかねん。若い衆には黒幕であるドルフィネに集中してほしいからの~儂はこの蝙蝠どもとできるだけ長く戯れておればよかろう。

 それにしてもこの無数に湧き出る蝙蝠をどうしたものか…儂の体力も当に限界寸前じゃ。あとどれくらいもつかもわからぬ。


 ズザァァァァン


 突如ドデカイ衝撃音が響いた。何事かとその音のなるほうに目を向ける。


「うっ、眩しいの」


 目に入り込んで来たのは数十分ぶりの外界の光だった。暗闇に慣れた目には眩しすぎる代物じゃな。しかし、何事かの?


「シンリーさん!大丈夫ですか?」


「ケ、ケント殿か!?一体何事かの?」


「今そっちに行きます!」


「いや、待たれよ。この技はどういう原理かわからぬが無数に敵がわき出てきおる。こちらにかまけていては埒があかないのじゃ。儂に構わず外の敵を倒してくだされ!」


『無数に湧き出てくるねぇ~なぁ、ケントそんなもん一掃してやれよ』


「そうだな。今の俺らなら」


『楽勝よ!』「一瞬だな!」


「ケ、ケント殿!?」


 シンリーの制止などお構いなしに黒い塊の中へ足を踏み入れる。それと同時に無数の蝙蝠の標的に定められる。キィキィとうるさい鳴き声の中、冷静に構えをとる。イメージは大きな横凪、無数に迫りくる全てを一網打尽にせんとする斬撃波だな。


「シンリーさん見ててください。いきます!虎撃連舞フーランペイジ!」


 両の手の爪を思いっきり振り切る。振り切りと同時に橙色の衝撃波が放たれる。それは一直線に蝙蝠を斬り散らしながら飛翔する。


 パリンッ


 ガラスが割れたような音が響いた。するとどうだろうか周囲を取り囲んでいた黒い膜が溶けるように消え失せ始めた。無数に湧き出ていた蝙蝠も急に勢いをなくし、その原型が朧気になっていく。


「やったみたいかな?」


『だな。核となる何かを壊してしまったみたいだぜ』


「な、なんと…」


 シンリーさんは唖然としていた。そりゃそうか自分が長い間相手をしていた敵がたったの一撃で消え失せたのだからな。驚かないほうがおかしいってもんだね。それにしても相手が悪かったとしかいえないな。シンリーさんの戦闘スタイルは一対一のタイマンスタイルだ。おそらくこの敵の技は全体攻撃で核となる何かが壊されない限り無限に発動するものだろう。そりゃ目の前の敵を倒しててもどうにかなるわけないな。


「ケント殿、加勢感謝するのじゃ」


「いえいえ、それより無事で何よりですよ」


「まだまだ若いもんには負けてはおれぬのでな。いやしかし、ケント殿そのお姿はどうされたのじゃ?」


「あ、これですか?まぁ~色々あったんですよ。簡単にいうなら秘めたる力を解放した?みたなやつです」


「なるほどですじゃ」


 末恐ろしい子じゃな。この少年はまだまだ秘めたる力を持っているようじゃ。戦闘経験も行動意思もまだまだだと思っていたが持ち合わせたるポテンシャルは儂の知るどんな冒険者をも凌駕しおるの。


「シンリーさん、一段落すんだところ悪いんですけど…まだ戦えますか?」


「勿論ですじゃ。まだ本丸は残っておるようじゃしな。儂だけゆるりとはできんて」


「俺一人じゃ力不足ですからね~力を貸してくれませんか?」


 この少年はまだそんなことをいうのか…もう既に儂らの及ばぬ域の力を持っておろうに儂らの力が…助けが欲しいとそういうのじゃな。一人ではできることに限りがある…なら皆の力を合わせればよい話じゃ。皆を奮い立たせ導く…それはまさに英雄のなせる技じゃな。あ~嘗ての友を思い出すようじゃ。無鉄砲で前しか見ぬ奴ではあったが常に仲間のことを見ていたあのもののようじゃな。儂の答えはもう決まっておる。答えは一つ!


「無論じゃ!このシンリーの全力をもって敵を倒して見せようぞ!」


「ありがとうございます!」


「うむ!」

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