雄たけび
目の前が暗い…またやらかしてしまったのか。油断するなってあれだけ肝に銘じていたのに俺ってやつは…
力を身につけて悦に浸っていたのかもしれないな。皆を助けるってイキってこの様かよ。ほんとに情けない…
あ~でも、何を言ってももう終わっちゃったみたいだし俺の冒険活劇も終焉だな。くそっ!恵まれない異世界生活だった。でも、その中でも出会えた最高の仲間たち…ないと思っていた異能も俺が気づくのが遅すぎただけで知らず知らずのうちに与えられていたんだ。
気づけなかった俺が悪いと言われればそれまでだけど…もっとできたんじゃないかって悔しさだけが残る。
『オイオイ、情けない主様だな。しっかりしやがれって、な?』
「猛虎…俺はまたやられたんだぜ?この短時間に二度も…」
『だな。で、それでお前はどうするんだ?』
「どうするって…わかるわけないだろ!この暗闇はシンリーさんを包み込んでいたものに似ているがあれとは何か違うし、脱出しようにも誘無身さんのような状況を説明してくれる者もいない。てずまりさ…」
『フハハハハハ』
「笑いたきゃ笑えよ。情けない主で悪かったな」
『そうだな、情けねぇ主だ!何もしねぇで他人任せか?くだらねぇ。お前はこの状況を脱するために何かやろうと試みたか?してねぇだろ』
「何ができるってんだよ。ただの凡人によ」
『そういう卑屈になるところ直した方がいいぜ。我の主様に相応しくねぇ』
「うるさい!誰が好き好んでお前の主になったんだよ。俺の守護精霊なら全力で守れよ!」
『うじうじするんじゃねぇ!』
猛虎が吠えた。怒号のそれとは何か違っていた。恐る恐るその顔を見上げると…目を見開き仁王立ちしてこちらを見ている姿が映った。
『立て!その腐った根性叩き直す。ベリルって奴のやり方を真似てみるか…こいよ、主!』
「来いって何するつもりだよ」
『もういい。主がそんなんじゃこの先もやってらんねぇからな。なら無理やりにでもその肉体を奪ってやる。代替わりってことだ。我が霊仙拳斗としてこの世界で生きて元の世界への戻り方ってやつも見つけ出してやる。お前は精々俺の目を通して羨んでいればいいさ』
「なっ?!お、お前…」
『さぁ、こいよ。霊仙拳斗!お前という存在をかけて勝負と行こうか。逃げるなんて言わねぇよな?』
「ちょっと待てって」
『待つわけないだろぉぉぉおおお!』
容赦なしに詰め寄ってくる猛虎、俺は咄嗟に装備していた手甲鉤で攻撃を受ける。ズドンっと重い衝撃が手甲鉤を通して伝わる。こいつ…本気だ。
真剣なまなざしとその行動に一切の迷いを感じなかった。俺も真剣でやらないとヤバい。
「猛る虎の爪を我が手に…猛虎の型!虎撃連舞」
俺のもつ攻撃技の最高峰、虎撃連舞を繰り出す。どうだ?お前が俺に教えた技だぜ。受けられるもんなら受けてみやがれ!
『笑止』
猛虎は一言呟くと俺の放った虎撃連舞を片手で弾いた。
「なっ?!」
『驚いてどうした。元々我の技だぜ。教わってものにしたと思っていたのか?愚か者め。真なる虎撃連舞はこういうもんだ!くらえ、虎撃連舞』
両の爪を大きく振るい橙色の斬撃波が襲い来る。俺が繰り出したものとは比にならないくらい大きく、そして恐ろしいそれは一直線に俺に向かって飛んできて…
ズザァァァァン
轟音とともに命中した。
『フッ、さてその体もらい受けよう。傷だらけでもどうにかなろうよ』
「うぅぅ…」
『ほう、どうやったか知らんが受けきったというのか?』
「あぁ、そうだ。お前に好き勝手やらせるのは癪だからな。これは俺の体だ!そんでもってお前は俺の守護精霊だろ?身分をわきまえろ!」
『弱小主が何をいう。何もせずに我に縋る奴に力を与えるのも守るのも無駄だろ?うじうじしやがって、何かをやろうともせず。他人任せもいい加減にしろ!』
「悪かった…」
『フッ、謝るのは簡単だぜ。その後何をするかが重要だ。さぁ、何をしたい!』
「俺は皆を助ける…力も経験も何もかも足りない。でも、その思いに迷いはない!だから、誰よりも前線に向かいできることをやる。持ちえるすべてを己の力として利用する。それは…お前も一緒だ、猛虎!そのすべてを俺に寄越せ!」
『フッ、フハハハハハ。片腹痛いな。だが、うじうじしているよりは数倍マシだ。そうだ!その意気だぜ、拳斗!多少傲慢でもいい己が目的を果たすためにありとあらゆるものを使い倒せ!我の主たれば高らかに笑い、強者も弱者も何もかもを我がものにせんと力をふるえ!』
「あぁ、わかった。今一度言う…力を寄越せ、猛虎!俺の力不足?そんなもん気にするな。例えこの肉体が砕けようとも俺は進み続ける。我が目的を果たすめ!」
『あい、分かった!』
全身が雷に撃たれたように痺れる。燃えるように熱く皮膚が焼ける匂いがする。死?そんなもん怖くねぇ、俺は進むんだ。仲間たちを、大切なモノを守るために…何度目だろうかこうやって奮い立つのは…だが、これが最後だ。もう俺は下を向かない、例え負けようとも果たすべき野望のために立ち上がる。そのための力だ。
うるぅぅぁぁぁああああああ!!!
雄たけびとともに己を覆う黒い何かをぶち抜いた。




