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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
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秘術

「一体どこにやったんだ?」


 ガリズマらの元を離れ奪われた武器を探しに来たベリルは暗く広い洞穴内を彷徨っていた。


「任せろと言ったもののそもそもどこにあるかもわからないんじゃ話にならないな。早く見つけて戻らないといけないってのに…くそっ!」


 一刻もはやくと気持ちだけが先走り闇雲に洞穴内を捜索しているがいまだ手がかりすら掴めていなかった。

 ガリズマらと別れて数十分が経過しただろうか…常に駆け足で移動したせいか息も上がりその足取りも重くなっていた。


「休憩なんかしている場合じゃねぇってのによ…」


 ピンチを迎えている仲間のためにと事を急ぐがそれに結果がついてこずイラつき更に焦る。負の悪循環とは言わないまでも冷静さというものはもうすでになかった。今あるのははやく見つかってくれという願望と仲間への心配だけだった。


「誰かいないの?はやくここから出しなさいよ!」


 遠くから女?の叫ぶ声が聞こえる。おそらくドルフィネらにより捕まった被害者なんだろうがこの洞穴の至るところに収監しているらしいな。今はそれどころじゃないか…確かに本来の目的としては攫われた皇女様の救出を第一にとか言っていたがドルフィネを倒してしまえばそんなの後でどうにかなる。それよりも仲間がピンチなんだ、そのピンチを打開するためにも武器がいる。悪いがもうしばらく牢なりなんなりで捕まってるほうがそいつらにとっても安全だぜ。


 カンッ…カンッ…


「もう、何なのよこれ!全然役に立たないじゃない」


 女の声がするほうから金属と何かがぶつかり合う音が聞こえる。


「この音は…もしかしたら…」


 一縷の望みにかけて音のするほうへと急ぐ。その場所は少し開けていて奥には頑丈そうな牢獄があった。中には小柄な少女とローブを纏った者がいた。二人の間にはそれなりの距離があり、小柄の女の方は片手に棒状のものを持ち牢の鉄格子に向かってブンッブンッとそれを振るっていた。


「だ、誰よ?」


 俺の存在に気づくなり、小柄な女がでっかい声で尋ねてきた。暗くてよくわからないが女の持つ棒状のものに俺の視線は釘付けだった。だってそれは…


「俺が誰かなんてどうでもいい!おい、お前そのワンドをどこで手に入れた?」


「なによ、あんた!妾が誰だと知っての発言かしら」


「あぁ?そんなことなんてどうでもいい。そのワンドを寄越せ!今はそれが必要だ」


「知らないなら教えて上げるわ。妾はノーブル帝国次期皇帝…アザレア・ノーブルよ。頭が高いわよ、跪きなさい」


「うるせぇ!いいからはやく寄越せって言ってんだ。はやく武器を持って行かないといけないんだよ」


「なによ、この愚民!そんなことよりはやく妾を助けなさい!」


「あの~武器がいるんですか?」


「そうだ!武器がいる。お前らを捕まえたやつを倒すためにもな。だからはやく寄越せっていってんだよ」


「いやよ。この棒切れ、なかなか手に馴染むのだもの。次アイツらが来たらこれで殴ってやるの。あなたみたいな愚民に渡さないわ」


「このクソガキ…」


 焦りと怒りで手が出そうになっていた。だが、ビーインフィニティとの戦闘による負傷で両腕が使えなかったのが幸いしてかその女に手を出すのだけは踏みとどまった。


「牢をあけて…くれませんか?牢の奥に斧だったり武器になりそうなものがあります」


 ローブを纏った奴が怯えながらも俺の意図を汲み取って声を発した。武器が牢の中にあるのか…なら話が早い。


「すこし離れていろ」


 両腕は使えないため牢を壊すための手段を考える。多少手荒いことになるがこうするしかないな…そう思いながら少量の爆薬を牢の扉の稼働部に設置し火をつけた。


 ボンッ


 爆発音とともに牢の扉がゆっくりと開いた。うまくいったみたいだな。爆発による煙の中、扉をくぐり抜けて牢の中へと入る。爆発に驚いた皇女を後目に牢の奥へと向かう。


「武器なら…そこに…」


 ローブを纏った奴がオドオドとしながら近づいてきて奥の一角を指さしている。そこには愛用している手甲剣ジャマダハルをはじめとした仲間たちの武器が置かれていた。


「よし、これで戦える…」


 武器を運ぼうと手を伸ばしたが重大な問題に気付いた。


「おい、この腕でどうやって運ぶんだ?」


 手甲剣ジャマダハルやガリズマのワンドならいざ知らず、ルシウスの扱う大斧は持つことすらできない。頑張って持とうものなら治りかけている骨が粉々になっちまう。さてどうしたものか…


「あの…」


「なんだ?」


「腕の…ケガ…」


「あぁ、これか?気にすんな。こういうのには慣れてんだ。しかしなぁ~どう運んだものか…」


 腕のケガは今すぐにはどうこうできる話ではない。ならそのことを踏まえて今はどうすればいいかを考えなくっちゃならない。


「わ、私が…治しましょうか?」


「傷なら塞がっている。治癒魔法でどうこうできる次元はもうとっくに過ぎてるんだぜ」


「だ、だから…動く様に…治すの」


「お前…それはどういうことだ?」


 治癒魔法では負傷した傷を塞ぐことができてもその痛みや内部の損傷を完全に元通りにすることはできない。なのに動くように治すだって?もしそれができるというのなら是非ともお願いしたい。


「腕をこっちに…」


「わかった。腕が動く様になればそれでいい。お前の言う言葉を信じる」


 提案してきたローブの者にすべてを委ねた。できるというのならそれにかけてみるのも一手というものだもんな。要は試しってやつだ。


「朗らかに照らす陽の光、竜の吐息はすべてを癒す…陽炎息吹ヒートヘイズ。この者の傷を癒して!」


 腕全体が段々と温かくなった。慣れて感じなくなっていた傷の痛みがスッと消えていく。巻かれている包帯を少しずつ剥がしていき軽く動かしてみる。うん、痛みもなければ違和感もない負傷する前のように意のままに動く!まさかな…信じてはいなかったが本当に治しやがった。これならいける!


「ありがとな!これなら問題ない。んじゃ、俺は行くぜ、お前らはここにいな。俺についてきても危ないからよ。あとで迎えにくる、それまで待ってな」


「は、はい」「ちょっとはやく出口につれいきなさいよ!」


「急ぐぜ!瞬け、疾踪ハヤテ


 武器を持つなり全速力でもと来た道を駆けて行く。武器を担ぎとにかく急ぐ。待っている仲間のもとへ一刻も早く戻るために…

 皇女が持っていたワンド疾踪ハヤテ発動と同時にしれっと回収した。下手に話し合いとかでやるよりこうするのが手っ取り早いんだよ。待ってろガリズマ、今戻る!

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