ちいさな嵐
「クッ、またしても邪魔をするか…いくら抗おうとも貴様らに勝ち目はないというのに」
「勝手に決めつけてもらっちゃ困るぜ。負けたかどうかはやってみねぇとわかんねぇだろ?」
劣勢なのはわかってる。だけどここで引くわけにはいかねぇんだ。使いなれた武具があれば互角以上に渡り合えるんだがな…
「ベリル!」
「どうした?」
「作戦が決まった、一度此方へきてくれないか」
「わかった!ラーシャルド、暴斧頼んだ」
「うるせぇ幻影!オレ様に指図するんじゃねぇ」
相変わらずうるせぇやつだ…だが、あれが通常運転だししゃーねぇな。ガリズマとミヤによる作戦か…うちの参謀のやり方にはなれちゃいるがミヤの考えが混ざることでどういった化学反応を起こすか期待だな。
「作戦はこうだ。ラーシャルドとルシウスで前線の維持をしてもらう。後方から私とミヤで援護って感じは変わらずなんだけど~」
「俺はなにすりゃいい?」
「ベリルには重要な役目をこなしてもらうよ」
「重要な役目?なんだそれは」
「今の私達は武具がないために力が出しきれていない。だから、ベリルには私達の武具を探してきて欲しいんだ」
「どこにあるかわかんねぇぞ?」
「そうだね。最悪なにかしら武具を調達してくれたらいいよ。それがあるとないとではかなり変わってくるからお願い」
「任せろ、俺が戻るまでやられんじゃねぇぞ!」
「うん、任せて!瞬くは刹那、光輝け!輝神来光」
ガリズマの光魔法が炸裂する。だが、魔力が集中せず目眩まし程度の効果しかなかった。それでいい…俺がどこへ行ったか悟られないのなら十分だ。
「邪魔くせぇ者共め、さっさとくだばればいいものを!」
ドルフィネは詠唱を妨害されると知ってか魂を奪う技の使用をやめ自身の力技でどうにかしようとしてくる。ラーシャルドとルシウスでどうにか抑えこめている状況だった。この均衡した状況を崩すには何かしらの手立てが必要だ。そのためにベリルに武具の調達をお願いしている。あとはベリルがもどるまで此方が耐えきればといったところか…
「さっさと片をつけるとするか」
「な、なんだ?」
ドルフィネの周りを黒い靄が包んでいくそれらはケント君とシンリーさんを覆うものからも少しずつ集まっている。ケント君とシンリーさんが奴の拘束から脱出出来れば戦況は一転するだろうがそれを考慮していない奴のこの行動はなんなのだろうか?
「さぁ、全てを終いにしようか…我が魂すらも喰らい全てを貪る獣魔と化せ、魔帝殺生!」
ドルフィネの身に付けていた仮面が砕け散りその身が黒く屈強なものへと変わり果てていく。あのマリィと呼ばれた少女が変化した獣魔にも似ているが…その大きさは三倍あった。
グルゥゥゥゥゥゥゥゥガァァァァァ
「人をやめてまでガリズマとミヤの魂を狙うとはな…意味がわからねぇ。本当に大丈夫なのか?って、心配ばかりしてても埒があかねぇ、さっさと俺は俺の役目を果たさねぇとな」
ベリルは洞穴の中に消え、開けた空間にはガリズマ、ミヤ、ラーシャルド、ルシウス、そして、ドルフィネと拘束されたケントとシンリーだけとなった。
咆哮と共に獣魔ドルフィネが片腕を振り上げそして…勢いよくそれを振り下ろす。構えをとっていたラーシャルドとルシウスが一瞬で視界から消えた。辺りを見渡し彼らの行方を探すと後方の壁に激突していた。
「ラーシャルド、ルシ…うわぁぁぁ」
彼らのもとへと向かおうとした矢先、足が地面から離れ宙へと舞った。獣魔ドルフィネに鷲掴みにされなにもできない。それはミヤも同じで奴の強靭な手の中に包まれていた。万事休すか…
「ガーリーーーーーーーー」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。
ドゴォォォン
衝撃音と共に体を締め付ける力が弱まり宙へと投げ出される。
「ガーリ、ミーヤ大丈夫ぅー?」
「ガリズマの旦那にミヤ、なにがあったでっしゃ?」
此方の心配をして近づいてきたのはギルド【血の番人】のギルドマスター不死ウォーデンと世話役の操人ラストだった。
「あぁぁぁぁぁ、ラー、ルーシーイタイイターイ」
「ラスト、はやくここから逃げてください」
「なっ、ガリズマの旦那どうしたんっしゃ!?」
グルゥゥガルゥゥゥ
獣魔ドルフィネが次はウォーデンとラストに狙いを定めてその両腕を伸ばしていた。
「よっと、なんっしゃ?」
「おててー」
それをラストとウォーデンはヒョイッと避けて何食わぬ顔でこちらをみてくる。獣魔ドルフィネは絶えず二人をとらえようと手を伸ばすがそのすべてを軽々と回避されていた。
グルァァァァァァァァ
獣魔ドルフィネが怒号に似た咆哮をあげた。目は血走りガチギレってところだろうか。ラストとウォーデンがとらえられないならば本来の目的である私とミヤに狙いを定め直し手を伸ばしてきた。私もミヤも見えていればとらえられることはないが絶えず迫り来る手を避け続けるには骨が折れた。徐々に体力が消耗されそして…
「うぐっ」
反応が遅れたタイミングをつかれ捕まってしまった。ミヤはどうにか避けれたのかとらわれた私の方を見て何かしらの魔法を放とうとしている。獣魔ドルフィネは次こそは離すまいと両手で鷲掴みにされ息をするのもやっとだった。
「ガーリーをいじめるなー」
ウォーデンがその小さな体躯で果敢に立ち向かっていくが強く握りしめられた手からは抜け出すことができなかった。




