英雄死す?
「ケントそれは…属性魔法かなにかか?でも、お前に魔力なんて…」
「雷属性の魔法かな?扱いにくいことで知られているそれを武具に纏わせて攻撃するなんて流石だよケント君!」
「英雄が雷と共に駆けるのですか…伝承にありそうな話ですね」
ガリズマさんをはじめ皆がなにやら言っているが今は奴に集中しなくてはな。虎紋瞬光も扱えてるみたいだしこれでなんとかなるといいが…
依然感電によるダメージで麻痺しているのかドルフィネはその場に立ち尽くしたままだったがまたいつ攻撃してくるかわからないため常に警戒の目を向けている。戦闘において油断が一番だめなんだ。随時集中するのは体力的にも厳しいが気を抜くと一気に流れを持っていかれるかもしれないからな…ここは頑張る!しかない。
帯電による痺れもあるかと思われたが耐性がしっかりしているのかあまり感じられなかった。敵よりはやく動き、敵は麻痺により動きが制限される。状況としては圧倒的に有利だな。数の利も此方にあることだしあとは詰め将棋のようにジリジリと王手をかけるだけだ。
「ドルフィネ、お前もそろそろ年貢の納め時だな」
「何を言っている貴様…よくわからんな。我が負けると言いたいのか?なんと愚か…搾取されるだけの有象無象が図に乗るな!何をしてる魂命侵食、さっさと奴らの魂を貪れ!」
グガアァァァァァァァァァァ
再びの咆哮と共に獣魔が迫り来る。何度同じ手を使うのだろうか…流石にワンパターンにも程があるとおもうのだが?今の俺には虎紋瞬間光があるから真っ正面からの突進なんて怖くねぇ。
真っ直ぐ走り来る獣、それを横に飛び退いて避けようとした…だがそれは突然その姿形を変容させ俺が回避しようとしている範囲もろともを包み込む大きな布のようになり、そして…
「うわっ!?」
別に油断なんてしてなかった…ただ予測の域をこえた行動に対応ができなかったんだ。戦闘経験の差なんて言われたらそうとしか言えないな。相手の方が一枚上手だったってこと…
俺は獣魔だったそれに包み込まれ、真っ暗闇にとらわれてしまった。
「フハハハハハハハ、所詮この程度か。ざまぁないな。さて、残るは…」
ケントを仕留めたことを確認したドルフィネはその矛先をガリズマらへと移した。もとよりガリズマ、ミヤの二名の質のよい魂を奪おうとしていたのだ。それを邪魔する輩が消えた今、その悪逆非道をとめるのは自分の力で抗う他ない。だがしかし、ガリズマらはその愛用している武具の類いを全て奪われているため本来の力を十分に発揮できない状況だった。
劣勢という言葉がピッタリだ…数の有利こそあれど戦闘力に欠ける。一人一人が一としての能力を持ち合わせてるのなら数勘定的にもいいのだが、武具の有無により一人が一人分の能力を発揮できるかはわからない。数の有利もないとなるとあとは猛獣に抗う哀れな小動物と大差ない。
「ガリズマ、どうしましょう…英雄ケントはぶじなのでしょうか?」
「わからない…でも、ケント君なら無事だと信じたい」
「ラーシャルド、暴斧!お前らでアイツの動きをどうにかしてくれ!ガリズマ、ミヤ、その間に作戦を練ってくれ!俺はできる限り双方のサポートをやる」
ベリルの声に皆頷きそれぞれ行動を開始する。流石冒険者としてやってきた人たちだ。仲間が一人倒れようとも冷静に状況判断してそれ以上の被害を出さずに乗り切ろうとしている。
「主様~」
魂命侵食に呑まれたケントの側には彼に懐いていた元魔生物、トーナの姿があった。霊位石とよばれる奇跡の石により人化した彼女はその主の生存を気にしていた。
黒い布に包まれ身動きひとつとらないそれは、もう既に息絶えたと思う他ないのに彼女は主の生存を誰よりも願っていた。
「主様~トーナをおいていかないでよ~」
半泣きになりながら黒い布の側で涙を流す彼女のことを意識しつつガリズマらは目の前の敵と戦っていた。
戦況は劣勢だ。力のある大男二人でなんとかドルフィネの猛攻を抑え込んでいる感じだ。といっても徐々にその抑えは効かなくなり一歩また一歩と後退していた。
「ガリズマ、どうしましょう…このままでは圧しきられてしまいます」
「武具がない今、これ以上力を出せないのが厳しいところだね。せめて武具さえあればこの状況を一転させることができるというのに…ケント君が敵の攻撃からはやく脱出してくれることを願って私達は今できることをやろう」
「そうですね」
「愚か者どもよ、もうこれで終いとしよう消…」
「ベリル!」
「わかってるって!」
ドルフィネが魂を奪う技の詠唱に入るなり阿吽の呼吸でそれを阻止しようと動き出す。どういったものかはわからないがケントがそれだけはダメだと言っているのを聞いている手前、何がなんでも発動させてはいけないんだという考えが皆の中でできていた。戦況は劣勢…でも、まだ希望は英雄ケントが戻ってくるとそれだけを信じて目の前の強敵に抗うのであった。




