属性技
「さぁて、んじゃやるか」
「おう!で、先ずは何をすればいいんだ?」
「そうだな~ケント、ベリルってやつが使ってた疾踪って技を覚えてるか?」
「あの残像を残しながら移動する技のこと?」
「それだ。今から教えるのはそれに近い、あの技を頭の中に浮かべながらやるといいさ」
「了解!で、その技名はなんてやつなんだ?」
「虎紋瞬光、それが今から教える技の名だ。一応レベルが三段階あってだな。Lv1から段々と能力が向上する感じだ。バイクとかのギアのような感じだな」
「具体的にはどんなやつなんだよ」
「ギア1…壱虎、速さに特化したやつだな。反射神経が格段に向上しあらゆる攻撃に反応できるようになる。ベリルってやつの疾踪と速さは同じか反射反応ならそれ以上だな。
次にギア2…双虎、速さだけではなく攻撃威力にも加速がかかるようになる。素早く動いてヒット&アウェイのような立ち回りができるようになる。
最後にギア3…参虎、これは電気の力が更に向上するものだ。ギアの段階が上がるごとにそれに応じた電気負荷が生じるのだがギア3にまでなるとかなり高い負荷を受けるようになる。その分すべてのスペックが最高位まで引き上げられるから強さは段違いだぜ」
「なるほどな」
猛虎の説明によると電気を体に纏い自身の筋肉を刺激しその反応をうまく活用して通常の人の動きよりも速く行動するのがこの虎紋瞬光って技らしい。
虎撃連舞のように必殺技って感じではなく相手を翻弄して隙をついたり敵の攻撃を回避するキャラクター・コントロールのようなやつだな。
「先ずは壱虎からだ。虎紋瞬光の基礎となるからしっかりと見てろよ」
猛虎はそういうと短距離走とかのスタート姿勢でお馴染みのクラウチングポーズをしていた。
え、まさか!?と思うまもなくバチッっと火花のようなものが舞い先程まで目の前にいたはずの猛虎がその場から消えていた。後には黒と黄色の縞模様が微かに残っていた。
「猛虎?」
「我はここだぜ、ケント!」
声のする方を見ると遥か先で手を振る猛虎の姿が見えた。距離にして数百メートル、それをほんの一瞬で移動するなんて本当に人間の限界を超えてしまってるぞこの技!
「さぁ、ケント!次はお前の番だぜ」
「どうすりゃいいんだよ」
「見よう見まねで同じようにやってみろ。イメージはベリルの疾踪だっていったろ?足が交互に地を蹴り前へと進む感じだ。体に纏った電気がそれをサポートしてくれる。とにかくやってみろ!」
「あ~もう、よくわかんねぇけどとりあえずやってやる。足が交互に地を蹴るようなイメージでとにかく速く前へと…あとポーズはこれでっと…」
猛虎と同じようにクラウチングポーズをとり頭の中では地を蹴り走るイメージを巡らせる。あとはどうにかなることを願って…
「いくぞ!虎紋瞬光Lv1 壱虎!」
技名を叫ぶと同時にふわっとした感覚がした。そして、気づくと目の前に猛虎が両腕を組んで立っていた。
「あれ?」
頭の中に疑問符が浮かび背後を確認するとほんの数秒前にいた場所に黄色と黒の縞模様の残像と砂ぼこりが舞っていた。
「なぁ、猛虎…」
「ん?どうしたんだケント、よくできたじゃねぇか」
「本当にできたんだよな?」
「あぁ、できてたぜ。流石、我の主様だな。ハハハハ」
ほんの一瞬の出来事だったけど俺は虎紋瞬光Lv1 壱虎を扱えた…らしい。あまりにも呆気なさすぎて拍子抜けした。なんだよ簡単じゃねぇか、そう思いながら立ち上がると脚にすこし痺れたような感覚があった。なるほどな、これが技の反動だと…まだこれくらいならどうにかなりそうだ。ベリルさんの疾踪を初めて見たときはあんな人間場馴れしたもの俺には無理だって思ったけど案外できちゃうもんだな。
「よし、じゃあ~次だな。最低でもLv2 双虎まではできるようにしておきたい。Lv3 参虎はまだお前の耐性では体が持たないかもしれないからな、今できるレベルまでは習得してもらうぞ。双虎と虎撃連舞の組み合わせを用いれば敵との戦闘もどうにかなるだろうよ」
「おう!」
「いい返事だ。双虎は壱虎よりも更に自身にかける電力の量が多くなる。筋肉は多少の電気信号で反応してくれるから余りの電力を攻撃の威力に振り分けるイメージだ。爪を振る動きなら空間さえも切り裂く感じだな」
「わかった。とりあえずお手本を見せてくれ」
「あいよ。じゃあいくぜ!」
すこし場所を変え大岩のようなものがあるところへと移った。威力を確認するためには攻撃対象があったほうがいいだろとのことだった。それにしてもこの場所、色々とあるもんだな。一体どこなんだろう…まぁ、そんなこと今はどうでいいか。
準備が整ったのか猛虎が構えそして、一瞬で腕を振りきった態勢になった。爪を振るうというモーションそのものが目でとらえられない速度で完了していた。猛虎の前にあった大岩には大きな斬撃痕が残り縁には微かに電気を帯びた形跡があった。
「さぁ、やってみろ!」
猛虎に促され見よう見まねで爪を振るう。先程よりも自身が纏う電気の量を多くイメージしながらやった。結果は猛虎の斬撃痕よりも小ぶりではあるが似たようなものを残すことができた。
「よし、これくらいなら及第点といったところか」
「ありがとうな猛虎」
「なんだよ急に」
「お前が力を貸してくれるから俺は戦える。ただの無力な人間ではなく困難に抗うことができるんだ」
「まぁ、主様には死んでもらっては困るからな。守護精霊としての使命も全うしないといけないんでね」
「うん」
「それよりそろそろ時間だぜ」
「時間?」
「いつまでもここにいてはいけねぇだろ?仲間を守るためにはあのドルフィネってやつを倒さないといけない…そうだろ?」
「わかってる…でも、ここがどこなのかもわからねぇしな…お前、戻りかたとか知ってるのか?」
「あぁ、知ってるさ。なんなら今すぐにでも戻してやる。だが、また暫く会えないぞ?聞いておきたいこととかないのか?」
「大丈夫。今は皆のところにはやく戻りたい…頼む、猛虎…俺を皆のもとに戻してくれ」
「御意」
猛虎が両手を俺のほうに向け目を見開く…頭上から雷が降り注ぎそこで意識が途絶えた。




