信頼
「んじゃ、やるとするか。その前に…」
猛虎が俺に手を翳すと全身に広がる重度のやけどが徐々に治癒していく。わざわざ治療するくらいならこんなことしなければよかったのでは?とは言わないでおこう。不甲斐ない主への嫌がらせだったのかもしれないしな。
「で、その属性技ってのはどんなやつなんだよ」
治療が終わるとまず第一声に技の詳細について問うた。その返答によっては今後の身の振り方を考えないといけないからな。守護精霊様が常に味方であるという保証なんてされてない。さっきのも雷の属性技の伝授だとかこつけて弱い俺に嫌がらせしたかっただけかもしれないしな。よく相手を見定めないと…
「今、我らは電気を体に纏っている状況なのはわかるよな?」
「あぁ、生きてるのが不思議なくらいだ」
「ケント、怒ってるのか?」
「怒っちゃいないさ。で、はやく技について教えてくれないか?」
「あ~悪かったって細かい説明をするのが面倒だったんだ。だが、属性技をやる上で必要なことだったんだ。そこだけは信じてくれ」
「はやく説明…」
「お、おう…体に電気が流れると筋肉が刺激されて自身の意思とは関係なく動くことがあるのはしってるか?」
「腹筋を鍛える腹巻き的なのとかか?」
「そうだな。あれも電気を用いて筋肉を意図的に動かして鍛えるってのがコンセプトの代物だな。でだ、今からやろうとしている属性技は電気の力をかりて人の反応速度の上限を取っ払ってしまうようなやつだな」
「なんだよそれ、よくわからねぇ」
「人が動くには先ずは目で情報を仕入れて脳にその情報を伝達、脳でその情報を処理し適した行動を行えと命令が己の四肢に伝達される。あまり気にはしないだろうがその処理には多少の時間がかかってるのさ。その多少の時間ってのが人間の反応速度の限界ってわけだが~例えば手で熱いものとかを触れると咄嗟にその手を引っ込めたりするだろ?刺激に対して体が即座に反応する反射ってやつだ。これは脳を介さずに脊髄が反応してるらしいんだが~これについては詳しくしらなくてもいいぞ。電気を用いて意図的に自身の体に刺激を与えて今よりもより速く動けるようにする。要するにだ人間の限界を越えた速さで反応する術を今から教えてやるってことだよ」
猛虎が言いたいことはだいたいわかった。だが、それがあのドルフィネとの戦闘でどう役に立つのかはわからなかった。いくら速く反応できたからといってやつの相手の魂を奪う技の対処になるかはわからないのだ。
「速く動いてどうやって奴の攻撃に対応するんだよ。くらえば即敗退のチート野郎だぞ」
「くらえばだろ?誘無身ってやつから得た過去の記録で、その技にも詠唱がいるのは覚えてるか?速く動ければその詠唱がままならないくらいの連撃を浴びせてしまえばいいんだよ」
「そんなこと可能なのかよ?」
「無理じゃあないな。だが、多少のリスクはついてくる」
「リスクってなんだよ。もう十分痛い目にはあったぞ」
「電気で強制的に筋肉を動かすんだ。戦闘後はその反動で暫く動けねぇ。お前が日頃から鍛えてればその動けない時間も短く済むんだがな…」
「悪かったな!元の世界では誰かと戦うなんて滅多になかったんだよ。それこそ武道とかやってなきゃ鍛練なんてしねぇって」
「なぁ、ケント…お前はリスクがあるのならその技を使わないのか?お前はお前の大切な仲間を守りたいんだろ?我はお前さえ生きていれば他のやつなんてどうでもいい。だが、お前はそうじゃない。仲間を助けるんだろ?」
「そうだよ。皆大切な仲間だ…この世界にきて右も左もわからない俺に手を差しのべてくれた人達だ。厳しくも優しく戦い方を教えてくれた人達だ。そんな皆を俺は大切にしたい。ピンチのときには助けてあげたい。俺は無力だったけど今は猛虎がついている。戦うための武器と技があるんだ。逃げてなんかいられない」
「なら、やることはわかってんだろ?」
「はなからやるつもりだよ…猛虎!俺にその技を教えてくれ」
「リスクがあるってことは覚えておけよ。どれくらいで体が悲鳴をあげるか我にもわからないんだからな」
「あぁ、別に体が動かなくなる前に奴を倒してしまっても構わんのだろ?」
「フッ、よくもやる前からそんな大口が叩けるもんだな。だが、それでいい。成し遂げてやるというその意気込み、大いに結構!よし、それじゃあ属性技について伝授といくか」
「なんでも来やがれ。お前の主としてそれを扱いこなしてみせよう!」
お互いに手を固く握りあい。信頼関係を深めた。こいつは俺のことを第一にって考えてくれる奴だが、俺のやりたいことも考慮してくれる頼もしい友だ。弱いからって嫌がらせをするようなやつじゃねぇ。俺が困難に立ち向かうのならそれを乗り越える術を教えてくれる。なぁ猛虎、お前が俺の守霊で本当によかったよ。今はまだ弱い俺だけどお前が何も言わず見ていられるくらい強くなってやるからさ…それまで助けてくれよな。




