陽はまた昇る
「その傷ってどれくらいで回復するんだ?」
梨衣が言うには全身大やけどでかなり危うい状況とのことだったが、よく自分の愛する人をそこまで痛めつけることができるなぁなんて思った。仲直りはできたみたいだけど…カイザさんは大丈夫なのだろうか?
「やけど自体はもう少しで治るわ。虚霧渦侵蝕はダメージが主体の技じゃなくて相手を拘束するのが目的の技なんだけど私の怒りに呼応して相手を燃やすみたいなのよね~その反動で私自身もやけどしちゃったのは誤算だったわ。使う場面には気をつけなきゃ」
「そ、そうだね…その繭はどういったもの?」
「あ~これね。これは包み込んだ対象の傷を治癒するって感じの技かしらね。ただし生きている人限定みたいだけどね」
「その技とかって誘無身さんの力だよな?」
「ええそうよ。誘無身の力よ」
「その技の使い方って誘無身さんから直々に教わったのか?」
「う~ん、なんとなく使ってる感じね。どのようなものか頭の中にイメージがあってざっくりとした使い方とかわかるんだけど詳しい効果とかは感覚でやってる感じよ。あんたのあの橙色の爪もそういう感じじゃないの?」
「そう…だな。猛虎の型はなんとなくでやってるかも…俺がベリルさんから譲り受けた手甲鉤のイメージをもとに生み出された感はあるんだけどどういったものかはなんとなくだね」
「ようはイメージしたものに呼応して技が生み出されるとかなのかしらね」
「う~ん、どうなんだろう」
「うぅぅぅっ」
梨衣と守霊の能力について話していると黒い繭の方からうめき声が聞こえた。
「カイザ君!?」
その声にいち早く気づいたのは梨衣だった。すぐさまカイザの元へとかけより容体を確認していた。
「き、君は…」
「私よ!ミスティよ」
「君が…ミスティ?私の記憶にある彼女の面影と違うんだけど…」
「この体は私がミスティとしてこの世界に生まれる前の姿なの」
「そうなのかい…一体何があったのかはあまり覚えてないけれど…私はたくさんの罪を重ねたみたいだね。私の本意ではなくともこの手でたくさんの人を…うぅぅ」
「カイザ君…」
ミスティの過去の記憶の情報でなんとなくカイザについて知っているが彼は死したものとその家族を引き合わせるそんな仕事をやっていた。生まれ持っての彼の素質を活かした職でもあったが彼自身が人と人のつながりを大切にする人であるということは見ていて伝わってきた。そんな彼が敵に操られたとはいえたくさんの人を傷つけてきたと知ったら罪悪感に苛まれないわけがなかった。
「それはあなたのせいじゃないと思いますよ」
「君は…?」
「俺は霊仙拳斗っていいます。冒険者で今あなたの目の前にいる梨衣さんと同郷のものです」
「リイ?」
「そう、それが今の私の名前、今はミスティじゃなくて霧生梨衣っていうの」
「そうなのか…」
「ねぇ、カイザ君色々と思うことはあると思うけど…あの時助けてくれてありがとうね。カイザ君が助けてくれたから今こうやってまた会うことができたんだもの。見た目は変わっちゃったけどカイザ君との記憶はしっかりと覚えているわ」
「ミスティ…」
カイザと梨衣がお互いの手を取り合い今にも抱き合いそうになっていた。本来ならば外野である俺は見て見ぬふりをしてあげるのがいいんだろうけど流石に敵の拠点で悠長にしすぎるのもあれなので覚悟を決めて彼らの間に割って入る。
「あの~お取込み中のところ申し訳ないんだけど…」
「なによ、今いい雰囲気なのわからないの?」
梨衣が明らかに不機嫌な感じにこちらを睨み付けてきた。いや~言いたいことはわかるんだけど俺の話を聞いてもらいたいんだよな。
「ミスティ…いや、今は梨衣だったかな。ここはあの仮面の悪魔の敵の拠点なんだよね」
「ええ、そうだけど…それがなんなのよ」
「おそらくケント君は私にやってほしいことがあるんじゃないかな」
「はい、敵に操られていた時にカイザさんの能力で眠らされた俺の仲間たちを目覚めさせてほしいんですけど…できますか?」
「なるほどね。誘獄…ドルフィネによって変わってしまった私の技か…対象を昏倒させ自力では目覚めることができないというもの。あれ、でも~ケント君はどうやって目覚めたんだい?」
「それはね~私のもっていた奇跡を起こす石…霊位石っていうの石の力で私と一緒に目覚めたの。カイザ君が色々と先を見越して渡してくれたんじゃないの?」
「あの石か…何か起こればと思っていたが~今こうして梨衣とケント君と出会え、私が仮面の悪魔の呪縛から解き放たれるきっかけとなったのなら渡して良かったよ。そんなことは置いといて眠ってしまっているケント君の仲間をどうにかできないかってことに話を戻そうか。結論から言うと目覚めさせることは可能だよ。ただ今の私では力不足でその技を使えるだけの魔力が残っていないんだ。何か魔力を回復できるものでもあればいいんだけれど~」
「それならこれはどうですかね?」
「これは?」
「ポーションです。ガリズマさんが魔力切れの際に飲むといいって前に言ってたんですけどどうですか?」
「すこし頂いてもいいかい」
「はい」
ガリズマさんの荷物から数本拝借してカイザに渡した。カイザはまだ傷でうまくポーションの入った瓶を握れないのか梨衣がサポートしながらそれらを飲んでいた。
「これはなかなかいいものだね。魔力が…力がみなぎってくるよ」
「なら…」
「ああ、任せてくれ。彼らを私のそばに連れてきてくれるかい」
「わかりました。シンリーさん、少し手を貸してもらえませんか」
「もちろんですじゃ」
シンリーさんと共にガリズマさんたちをカイザの元へと連れていくとカイザが梨衣に支えられ黒い繭から片腕を出して技を使う準備をしていた。
「では、始めるよ。落ちる陽はなく存在せり目を見開き立ち上がれ!醒天」




