暫しの安息?
「さて、こんなものかの~ケント殿、こちらはひと段落つきましたのじゃ。今そちらに向かいますじゃ」
「あの子はどうなりました?」
「おそらく気絶しているものかと思われますじゃ」
「そうですか。でも、急に強くなっていたのには驚きましたよ。油断大敵とは言い得て妙ですがどんな手を使ったんですかね?」
「儂にもわからないのじゃ。ただの少女がああも急激に強くなる、そんな力を敵は持っていると想定して挑んだ方がいいかと思われますのじゃ」
「ですね。あの~戦闘の後で申し訳ないんですがラーシャルドさんとルシウスさんを運ぶの手伝ってもらってもいいですか?」
「もちろんですじゃ。もとよりそのためにはやく決着をつけたまで…お二方は他の皆さまよりもガッチリとした出で立ちをしている故、ケント殿だけで運ぶのには厳しいだの」
「そうなんですよね。ベリルさんたちは先に運んでトーナに周囲を警戒してもらってます」
「では、さっさと運んでしまいましょうぞ」
「はい」
シンリーさんと共にラーシャルドさんとルシウスさんをベリルさんたちを運んだ元へと連れて行った。その場所はベリルさんたちが捕らわれていた場所へ行く道との分岐点で残された方へ進んだ先にあった開けた空間で扉の壊れた檻などが数点並べられた場所だった。
「トーナ大丈夫だったか?」
「あ~主様~おかえりなさ~い。まわりにはね~だ~れもきてないよ~」
「なら良かった。でも、これからどうやるかだな」
いまだ敵の領地と言っても過言ではないこの場所に安全な場所なんて存在はしない。いつ敵が攻撃を仕掛けてくるかわからない中でみんなを守り続けながらっていうのは厳しいとしか言えなかった。ルシウスさんを運び終え立ち上がろうとすると体の力がスッと抜けて膝をついてしまった。常に緊迫した状況は徐々に俺たちを蝕み俺もシンリーさんも気づかないうちにかなり消耗していたようだった。
「ケント殿大丈夫ですかな?」
「大丈夫…とは言い切れませんね。気づかないうちに疲労が蓄積してしまってるみたいです。これが猛虎の型に影響してあの橙色の靄がでなくならないか心配ですね。あれが使えないとなると丸腰とほぼ変わりませんから…」
「その時は儂が交戦するのじゃ。ケント殿はトーナ殿と共に皆殿のそばにいてもらえればいいかと…」
「その時は頼みます…今はそうならないように少しでも体を休めながら出口を探しましょうか」
「わかりましたのじゃ」
ズザッ
「誰だ!?」「何者!?」
背後から何者かの足音が聞こえた。瞬時に戦闘大勢へと移り構える。
「あ~構えるのはなし!私よ」
背後に居たのは黒い繭のようなものを背に背負った女性…霧生梨衣だった。
「霧生梨衣さん!」
「ええそうよ。もうフルネームでいうの、なれないから梨衣でいいわよ」
「そっちは終わったんですか?」
「ええ、ちゃんと話したわ」
「そうですか。で、それは~なんですか?」
「あ、これ?これは~」
梨衣は黒い繭の上部をゴソゴソとさわりだしその繭の中にあるものを見せてきた。
「これって~」
「ええ、そうよ。カイザ君ね」
繭に包まれていたのは梨衣の…正確にはミスティであった頃の夫であり、敵に魂を変質され別人になっていたカイザの姿だった。
「だ、大丈夫なんですか…急に暴れたりしないですよね?」
「大丈夫よ、もう敵じゃないわ。ちょっとオイタが過ぎたから反省してもらってるの」
「反省ね…」
「そう、反省、私以外のことを我が愛なんて言うんだものこれだけで許してあげてるのを逆に感謝してほしいものね」
そういう彼女自身も両手に包帯を巻いておりそれなりの激戦が起きていたことが見て取れた。梨衣も俺同様守霊の力を使っていたみたいだけれど俺以上にその力の扱いに手慣れいるみたいなんだよな。梨衣は彼女の守霊である誘無身とその身を分かち合っているからか俺よりもその恩恵を扱いやすくなってるのかもしれない。
でも、俺も梨衣も自身の守霊との会話はあの時の空間以外ではできないってのが問題なんだよな~守霊にその力の使い方を聞いて扱えれば今以上に強くなるのは明確なのだが…霊として存在していて俺らが霊感を持ち合わせていないから認識できないのか、はたまた世界が彼らとの干渉を妨害しているのか…いずれにせよ今知っていること、できることでこの場をやり過ごさないといけない。
「で、あんたの仲間たちには会えたの?」
「あ~うん。合流はできたんだけど…」
「何か問題あるの?」
「話すより見た方がはやいかも」
そう言って梨衣をガリズマさんやベリルさんたちがいるところへと連れていく。
「ふ~ん、なるほどね。カイザ君の能力で皆眠ったままで目覚めないと…そういうことね」
「ああ、大体こういった場面って技をかけた本人がやられたりしたら目覚めるのが王道なんだけど~そうはならないみたいなんだよね」
「そうね。なら、カイザ君にそれはどうにかしてもらいましょう。今は私との戦闘でかなり傷を負ってしまってるから回復にはもう少しかかるけど彼が目覚めたら話してみましょう」
「わかった。そっちの戦闘も結構激戦だったみたいだな」
「あ~これのこと言ってるの?別にこれはカイザ君にやられたわけじゃいわよ。私自身の力の反動みたいなものね」
梨衣は俺の視線を見て何がいいたいのか察したみたいでそれについて説明してくれた。カイザもその力で全身大やけどを負ってるらしい。下手にその傷口をさらして悪化させないために梨衣の能力で高密度の雲を生成してそれで繭のようにカイザを包み込んでるとのことだった。どういう原理なのかは梨衣自身もなんとなくでやってるんだとか…守霊の力ってまだわからないことばかりだな。




