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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
63/145

老師の拳

「儂が相手するのじゃ」


「コ…ロス!!」


 相手など関係ないと言わんばかりに目の前の敵に向かってつるぎを向ける少女…それを受けて立つのは盲目の老師だった。直線的に突きを繰り出す少女に対しまるでその動きが見えてるかのように受けの体制に移るシンリー、それは彼の持つ祝福エメ万感強化エネスと呼ばれるはふりの力を活かした行動だった。

 シンリーは封人シラと呼ばれる人種に当たる男だ。生まれつき目が見えずそれはいかなる治癒術をもってしても治ることはなかった。しかし、シンリーは目が見えずとも特に支障のようなものはなかったのだ。それは目が見えないという呪いと共にもつ祝福エメの存在だった。祝福エメは呪われたものへせめて幸あれと与えられた神からの恩恵なのかその全貌は謎のままなのだが呪いと共に生きていくだけの力…はふりが含まれていた。

 万感強化エネスとは目の見えないシンリーに対してあらゆる感覚を鋭敏に研ぎ澄ませるという力だ。目で感じるのではなく肌に触れる空気やら相手の息遣い、微かな音など視覚以外から得られるあらゆる情報をより詳細に全身で感じるという力…それが万感強化エネスというものだった。誰も物音ひとつ空気を振動させずに何かをやることはできない。よってそれらのいずれかを元に対象の行動を認識して対処するそれがシンリーが得意とすることだった。


「さぁさ、どんどん来るといいのじゃ。儂がすべていなしてみようかの」


 少女は次から次へと手を変え品を変えシンリーを切裂こうと黒剣を振るった。だが、そのすべてをシンリーは余裕の表情で受けきり次は?とほほ笑むのであった。


「ウァァァアアア…コロスゥゥウウ」


 少女は声を荒げ黒剣を握る手に力を込めた。その手からはツゥーっと赤黒いものが腕を伝い地面へと落ちた。


「おっと、激昂させるつもりはなかったのじゃが~これはまずいの。そこまで怒るでない、お主は十分に強いのじゃ。じゃが…人には向き不向きというものがあってだの~儂に向かって武具の類を扱うのは些か愚策というものということじゃの。状況も儂に味方しておるしまず負けはせぬよ」


「ウァァァアアア」


 闇雲に黒剣を振るう少女は先程と変わらずシンリーにうまくあしらわれて何もできない様子だった。シンリーが何故一方的にあしらえるのかというと彼は空気の流れから少女の剣筋を予想しそれを受ける…ただそれをやっているだけなのだ。誰しも次どこに攻撃が来るのか分かってさえいれば回避するのは簡単だというのは言うまでもない。シンリーははふりの恩恵で他人よりそれに長けているのだ。


「ケント殿、そろそろそちらは大丈夫かの?」


「は、はい~あとはラーシャルドさんとルシウスさんだけ…です。ちょっとこの二人を運ぶのは骨が折れますね」


「そうかの~では、そろそろ終わらせて手伝うとするかの」


 そう告げるとシンリーは少女に向き直り両手を合わせ合掌した。


「ふふ、懐かしいの~これをやるのはいつぶりか…我がたいで感ずるあらゆる感覚を研ぎ澄ませ、錬武ビルドアップ。さてここからが本番じゃよ」



「あ~結構厳しいものがあるな~人ってこんなに重いのかよ」


 俺はシンリーさんに敵の刺客のことを任せ眠らされて目覚めないガリズマさん達を別の場所へと移動させていた。この洞穴全体が敵の手中にあるというのは置いといてとりあえずこの狭い空間からは移動しとかないといざ戦闘となったときにガリズマさん達を戦闘の巻き添えにしてまうんだよな…とそんなことを考えながらひとりずつ運んでいく。比較的軽そうなベリルさんやガリズマさん、ブラッド番人ウォーデンのミヤさんを運び終えてあとはラーシャルドさんとルシウスさんとなった。この二人はとにかく大きくがっちりとした肉体をもっていて俺一人で運ぶのは厳しいところがあった。シンリーさんは敵の刺客をうまくいなしているみたいでいまのところはいい感じだった。


「ケント殿、そろそろそちらは大丈夫かの?」


「は、はい~あとはラーシャルドさんとルシウスさんだけ…です。ちょっとこの二人を運ぶのは骨が折れますね」


「そうかの~では、そろそろ終わらせて手伝うとするかの」


 なんかシンリーさんが両手を合わせて何か大技でも繰り出すみたいだ。刺客もドルフィネたちに操られている可能性があるから身動きを封じて連れ出す算段なので一発きついのを食らわせて気を失わせるつもりだろうか?それがうまくいけば一緒にこの二人を運ぶとしよう…流石に限界だわ。



「うむうむ。久々に使うがやはりこの感覚はいいものじゃの~ありとあらゆるものが手に取るようにわかるのじゃ」


「コロスゥゥウウ」


「お主もそのような物騒なことを言わずにおしとやかにできないのかの?これも敵に術中によるものかと思うとあわれきわまりないの」


 黒剣が目前まで迫っていた。今まで通りそれをいなすかと思われたが今回は違った。突きだされたつるぎを人差し指と中指で挟み込みすんで受けきったのだ。少女は黒剣を持つ手を震わせていたがシンリーの掴む力が強すぎるのかつるぎはビクともしなかった。


「なかなかの威力じゃな~流石に危なかったの。ほれ、その力まるっとすべてお返しするのじゃ、共振撃リフレクト


 シンリーがパッと挟んでいた手を開くと少女は黒剣とともに背後にぶっ飛んだ。まるでそれは拳斗けんと虎撃連舞フーランペイジで吹き飛ばしたのと同じ感じだった。

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