刺客再び
ガリズマさん達を起こそうと色々と試してみる。体を揺さぶってみたり声掛けしてみたりと考えつくことを順に試していった。その中には多少痛みが伴うものもなかったわけではなく、特訓の時の仕返しとばかりにそれらはベリルさんに試させてもらった。もし、狸寝入りしていたらと考えると少し恐ろしかったが起きてくれたほうが現状いい場面ではあるので覚悟を決めて執り行った。
「これでもダメか~」
「何をしても起きる素振りすら見せませんな」
「う~おきないよ~」
「俺とさっき会った女の子…霧生梨衣は運よく霊位石の奇跡により眠りから目覚めることができたんですけど~それ以外に目を覚まさせる方法はわからないんだよな~」
「起きるのが奇跡と言わんばかりに強力な入眠技とは恐ろしいものですな。その技を使ったものにしか目を覚まさせる方法がわからないとかですかな?」
「う~ん、どうでしょうか。そもそも俺らから魂を抜き取るつもりなら俺らの意識なんてあっても無くても関係なさそうだし最初から目覚めることのないものだったりして…」
「それはないと思うのですじゃ。もし、そのような技であればケント殿が目を覚ました時点で驚くはずですじゃ。しかし、あのカイザという男は驚きもせず仕方なしと言わんばかりに儂らを打ちのめそうとしてきたのじゃ…なら、起きる術があり運よくそれを用いて目を覚ましたと考えるのが妥当かと思われるが…どうですかな?」
「確かにそうですね~それが何かわかればいいんだけど~」
「手掛かりがないですからな~」
「ですね~」
「あ、主様~」
「おわっと、どうしたんだよトーナ」
トーナが突然大きな声を出して俺にとびかかってきた。
「さっきの~」
トーナは俺にしがみつきながら自身の背後の方を振るえる指で指示した。そこに居たのはさっき取り逃がした黒剣を持った少女だった。暗闇からの登場はさながら暗殺者のそれに見えなくもなかった。相手としては余裕なんだけど手加減してやるのも難しいんだよな~この橙色の靄で形どられた手甲鉤はベリルさんに貰った手甲鉤よりも弱いのだけれど扱いなれていないせいかどうも力加減に慣れないのだ。下手に手を抜いてもさっきみたいに衝撃は伝わってしまうらしいしな。ただ敵を屠るだけなら容赦しなくていいので気にしないのだけれど、目の前の少女はドルフィネに操られているだけかもしれないため下手に傷つけるのは良くない。それゆえに自然と手加減しないといけない感じになる。実に面倒な敵というわけだ。
「コ…ロス」
「あ~はいはい」
少女は黒剣を構えて勢いよく振り切った。射線には俺、トーナ、シンリーさんと並んでおり当たれば一網打尽になるようないい斬撃だった。だが…
「虎撃連舞!」
そんなことになるわけはなく猛虎の型で生成した手甲鉤から虎撃連舞を放ち迎撃する。実に容易い…って、なんだこれ?消えないだと…
少女が放った斬撃を虎撃連舞で相殺したと思っていたがそうはなっておらず今もなお黒い斬撃が俺らを切裂こうとしている。
「シンリーさん!トーナを連れて俺の背後からどけてください」
「わ、わかったのじゃ」
想像と違った威力の大きさに慌ててシンリーさんにトーナと共に退避するように促す。退避を確認したら手甲鉤を上手く利用して攻撃先を逸らした。斬撃はそのまま直線的に飛んでいき洞穴の壁に大きな斬撃痕を残していた。マジかよ…さっきまでと比べ物にならねぇ。
「シン…うわっ!?」
シンリーさんを呼ぼうと声を出した瞬間に少し離れた場所にいたはずの少女が目の前に現れた。なんだよこれ、瞬間移動かなにかか?本当に少し前にやりやったやつなのかこいつは…格段に能力が向上してやがる。
「虎撃連舞!」
手加減なんてしてる余裕もなく間合いを取るために斬撃を放った。少女はそれを軽くいなし次の攻撃の構えを取っていた。まずいな…完全に油断していたとはいえ今の彼女をこの狭い空間で相手するのは厳しいものがあるぞ。しかも、ガリズマさんやトーナ、シンリーさんを気にしながらとなると更に厳しくなるというものだ。
「ケント殿!」
「シンリーさん、どうしました?おわっ」
少女の突き突進を間一髪躱しながらシンリーさんの声に反応する。
「その者、儂に相手させてもらえぬかの?ケント殿はトーナ殿と共にガリズマ殿たちをここから連れて行ってくだされ」
「わかりました。ここは任せます」
「うむ、任されたのじゃ!」
シンリーさんの提案は実にありがたかった。このままこの狭い空間で少女とやり合っていてもいずれ増援が来てやられてしまう。ならどうにかしてこの場から移動しなければならなかった。勿論俺が少女の相手をしている間にシンリーさんとトーナでガリズマさん達を運んでもいいのだがシンリーさんもそれなりの歳だ、大の大人を五~六人も運ぶのは骨が折れるってもんだろ?ならまだ若い俺が運搬役として動いた方がいい。シンリーさんも戦闘に関してはベテランと言ってもいいし一対一のタイマンなら問題はないだろう。
「トーナ行くぞ!」
「うん!主様~」
俺は比較的軽そうなベリルさんとガリズマさんを担いでその場を後にした。




