阻むもの
「君は奴らの都合のいいように操られているのかい?なら…ガリズマさん達を助けるついでだ。君のことも助ける!」
「コ…ロス」
少女は俺の言葉など聞こえてないとばかりにその手に持った黒剣を大きく振るった。その動きは素人のそれと変わらずキレなんて一切なかった。これくらいなら…と剣先すれすれで回避する。ベリルさんにしこたま転がされたからなのか素人の剣なら余裕を持って対応できる。この程度の実力の敵なら問題ないな…カイザを相手にすることに比べて天と地の差だ。
「早々に決着をつけるか。下手に力を入れすぎると彼女を傷つけてしまうからいい感じの塩梅を見定めて…虎撃連舞!」
威力を限りなく殺して両の手の手甲鉤を振るった。斬撃は彼女に直撃し、そのまま後方へと吹っ飛んでいった。手加減をしたといってもそれなりの衝撃があるみたいだ。流石にこれで倒れることはないと思うが確認しとかないと…もしも加減が効いておらず致命傷になっていたら大変だ。
「シンリーさん、俺は確認しにいくのでトーナと一緒にガリズマさん達のこと見ててもらえますか?」
「うむ、任されたのじゃ」
ガリズマさん達のことはシンリーさんとトーナに見てもらって、洞穴の奥へ吹っ飛んだ少女の様子を伺いに行く。だが、少女がいるだろう場所にきて辺りを見回したがどこにも少女の姿はなかった。おかしい、いくら手加減したにせよ気絶していてもおかしくない攻撃を食らわせたのに…もう既に起き上がり移動したとでもいうのだろうか?暗闇で足跡なんて見えないしどうしたものか…いや、動けるということは致命傷ではないということだ。復帰が早いのも手加減が過ぎたのだろう。なら、ここはシンリーさんとトーナのもとに戻ってどうするか考えた方が良さそうだな。一応彼女は敵の刺客みたいなものだしこれ以上の心配は無用だろう。襲撃に警戒しつつ操っている黒幕であるドルフィネを倒してしまえばいずれ彼女も解放される…はずだろうしな。
その場を後にしてシンリーさんたちの元へと戻るとトーナがガリズマさん達の様子を見ているところだった。一人一人心臓のあるあたりにケモ耳をあててまずは生存確認をしているといったところだろうか。
「今戻りました」
「あ、主様~戻ってきた~」
「ケント殿先程の刺客はどうなされたのじゃ?」
「刺客はどうなったのか分かりません。彼女もドルフィネに操られていると思われたのでできる限り手加減して攻撃したんですが吹っ飛んで行った先を確認しても、もう既にいなくなっていました」
「そうですか…見た限り素人に武器を与えただけのようでしたな」
「そうですね。なんか拍子抜けしちゃいました。でも、見張りが弱くて良かったかもしれません。ドルフィネは倒す予定ですが先にガリズマさん達と合流できたのは良かったです。どうにかして目を覚まさせてみんなでかかればさっき見積もっていた勝算よりも高くなるかと…」
「そうじゃな。もともと儂らでやりあうところじゃったからの。手数が増えればできることも増えるというものじゃな」
「ええ、そういうことです。トーナ、ガリズマさん達は大丈夫か?」
「ん~っとね~みんなケガとかしてないけど~起きてくれないの~なんで~?」
そういえば俺やガリズマさん達はカイザの力で眠らされていたけどトーナは普通に起きていたっけ。カイザの能力は魔生物に効かないということなのだろうか?それとも運よく能力を喰らわなかっただけなのか…まぁ、考えてもしょうがないか。というか俺らがそれぞれこの洞穴に連れてこられてこうやって別々に移動されたときトーナは見ていたんじゃないのか?
「トーナ、お前があの檻に入れられたとき誰に入れられたんだ?」
「んきゅ?えーっとね~わかんな~い。トーナ寝てたんだもん♪」
あ~なるほどね。カイザの能力とは別に既に寝ていたから眠らせる力を受け付けなかったと…そういうことだろうか…で、寝てるうちに檻に入れられて俺らと離されたからこの状況を理解していないのか…納得したよ。さて、そんなことはさておきガリズマさん達をどうしようか…俺と霧生梨衣を目覚めさせたのは霊位石だが…その石もトーナの人化で真っ二つに割れてしまっている。ただ二つに割れただけであの時の奇跡をもう一度起こせないってことはなさそうだけど~シンリーさんの起こせる奇跡にも限界があるって言葉を考えるともうダメな気もする。
「ケント殿、ガリズマ殿が目覚めないのですじゃ。どういたしますかな?」
「そうですね…」
こればかりは俺にも手立てがなかった。霊位石の奇跡に頼っていたわけではなかったがああも簡単にカイザの能力を打ち破れたのはまさしく奇跡だったのかもしれないな。霧生梨衣とカイザの戦闘はどうなっているのだろうか?カイザが敗れていればこの能力は解除されるのか?はたまた霧生梨衣が敗れてるのか…戻って確認しようにも先程の刺客が他にいないとも限らないしガリズマさん達を運びながらの移動をすることも得策とはいえないんだよな~




