名
「トーナ待てって!」
薄暗い洞穴の中で先を走るトーナを必死に追いかける。霧は晴れて幾分か視界は良くなったがそれでも松明の火さえ一つない暗がりをこうも全力で駆け抜けられるのは元々魔生物だったころの名残なんだろうか…追いかける俺らは転ばないように注意しながら行かなければならないためどんなに急いでも追いつくことはなさそうだった。
「はぁ~げほっげほっ…うぇ~流石に速すぎる。ベリルさんの特訓に似たキツさがあるな~これ。シンリーさん、大丈夫ですか?」
「う、うむ。儂も何とかついてこれておるのじゃ。しかし、元気な子であるのじゃな~トーナ殿は…」
「元気すぎて困っていますね。人化してすぐにこんなに動き回れるのなら心配とかいらなそうだな」
「あ~る~じ~さ~ま~」
遠くでトーナが俺のことを呼ぶ声が聞こえる。洞穴内であるためどれくらい離れているかはわからないがようやく俺らがついてきていないことに気づいたってことはわかった。
「トーナのやつ結構大きい声を出してるけど大丈夫ですかね?これ近くに敵がいたら聞こえてますよ」
「もうすでに見つかっておりますし問題ないのではないですかな」
「あ~そうですけど…俺らがカイザの足止めを突破したってことは気づかれてない方が此方に都合がいいと思ったんですけど~ドルフィネを倒して皆を助けるってことにはあまり変わりないですね」
「そうですじゃ」
「も~う、主様もおじいちゃんも遅いよ~」
トーナが俺らが遅すぎるのを待つのにしびれを切らしたのか俺たちがいるところまで戻ってきた。
「トーナ、俺たちはこの暗闇で目があまりきかないんだ。ここの地面は整えられてもいないし無理して急ごうとすると転んでケガをするかもしれないだろ。早くその場所に案内したいのはわかるが俺たちの速さに合わせてくれると助かる」
「う~ん。しょうがないな~主様のお願いならトーナがゆっくり行ってあげるね」
「ああ、頼むよ」
「わかった~」
トーナが俺のお願いを聞いてくれてすこし速足ど向かう感じになった。これくらいなら転ぶ心配もないな。
「シンリーさん、周囲に反応はありますか?」
「今のところは何もないの。トーナ殿、あとどれくらいでケント殿の仲間のもとへ着きそうですかな?」
「う~んとね~このまま真っ直ぐぐーんといって~右にびゅーんっていって~角を左に曲がればつくよ~」
「なるほど…わかりましたのですじゃ」
えっ…シンリーさん、今の説明でわかったのか?距離の説明のとこぐーんとかびゅーんとかすっごい曖昧な表現だったけど…祝の能力に魔生物の表現理解とかいうのがあるんだろうか…いや、流石に長年の経験による推測ってのが妥当だな。俺たちはトーナの説明に従ってなのかそのまま真っ直ぐ進みある程度進んだところで二つに分かれた道を右に曲がってまた真っすぐ進んだ。ある程度進んだところで行き止まりにたどり着いた。
「あれ?なぁ、トーナ行き止まりに着いたんだがここに来るまでに左に曲がるとこなんてあったか?」
「んきゅ、こっち~だけど…あれ~壁があるのなんでぇ~」
「シンリーさん、何かわかりますか?」
「そうですな~この壁…まだ新しい感じがするのですじゃ」
「新しい壁…ですか?」
「そうですじゃ。誰かが新しく作りこの先へ行くのを阻んでいるそんな感じのものですじゃ」
「それじゃ~この壁を打ち破れば…」
「おそらくトーナ殿がいう道があると思われますのじゃ」
「そうか…じゃあ、俺に任せてください」
「あの技を使うのですかな?」
「はい、ですのでトーナと一緒に少し離れていてください」
「わかったのじゃ。トーナ殿此方に」
「な~に~?」
またあの時のように手甲鉤があった場所にイメージを集中させる。前は雄たけびを上げるみたいにやったけど何か技名みたいなのがあればいいよな~虎撃連舞とは違う感じの…
『猛虎の型ってのはどうだ?』
猛虎の型か~悪くないな。って、あれ?今の声って~いや、気のせいだな。ここはあの特殊な空間じゃないんだ。だから、猛虎の声が聞こえるなんてありえない。ただの空耳だよな。まぁ、空耳にしてはいい感じのを提案してくれたしそれを使わせてもらおう。
「猛る虎の爪を我が手に…猛虎の型」
技名を叫ぶと俺の両手にあの時の橙色の爪が現れた。あの時と同じように何かが足りない感じがするがそれでもかなり強くなっていると錯覚するほどの力が感じられた。
「それじゃ~行きます!虎撃連舞」
ドゴォーン
壁を思いっきり橙色の爪で切りつけるとそれは轟音を立てて崩れ落ちた。辺りには土煙が上がりすこし咽てしまった。暫くその場で様子を伺っていると舞い上がった土煙がだんだん晴れて壁の先が見えた。
「道だ…」
「主様~この先だよ~」
「ああ、行こう」
「うん!」
道の先は今まで通り暗いままだったがこの先に皆がいる。ドルフィネを倒して商業街ノーヴァに帰るんだ。




