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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
58/145

霊位石の奇跡

 シンリーさんの後をついて行き通路らしきところへ入った。霧生梨衣きりゅうりいが言うにはこの先が俺たちが進むべき道らしい。まだ霧がかかっていて本当にそうなのか、牢へ続く道なのか区別はつかないんだけどね。


「お主よ、この近くに小さな空洞があるようじゃがそこも見ていくかの?」


「誰かいる反応はありますか?」


「うむ。人ではないが小柄な魔生物らしきものが一匹…」


「小柄な魔生物…あっ!?それってトーナかもしれません」


「トーナ?ですかの」


「あ、トーナは俺の~お供みたいな感じの魔生物です。トリスターナって種族の魔生物なんですけど~知りませんかね?」


「おぉ、トリスターナですかの。あのえり好みの激しい魔生物に好かれたのですかな?」


「まぁそんなところです」


「なるほど。では、先にそのトーナ殿を助け出してから先へ参りましょう」


「はい」


 トーナも捕らわれていたのか…目が覚めたときに周りにいなかったから心配していたけど近くに捕らわれていたんだな。捕らえるってことは魔生物の魂も奴らにとっては価値があるのだろうか…とりあえず助けてあげよう。


「ここですじゃ」


 キュ~キュッキュ!


 シンリーさんの指示した場所には小さな檻の中に入れられたトーナがいた。俺に気づくなりぴょんぴょこと跳ねて小さな檻の天井に頭をぶつけていた。


「トーナ落ち着けって~今だしてやるからな」


 キュ~


 檻の錠を手甲鉤ハンドクローで破壊しトーナを出してあげるとその腕を介して俺の肩までよじ登ってきて頬ずりを始めた。ほんと愛らしいやつだな~


「では、先へいきますのじゃ」


「そうですね。トーナ、みんなのところとかわからないか?ってわかっていたとしても無理か…」


 トーナは魔生物だ…例え知恵が高く、俺の言ったことを理解したとしてもそれを伝える言葉を話せない。最悪シンリーさんの力で周囲を索敵できるから問題はないんだけど詳しい情報があれば対策もしやすいってもんだよな。


 キュ~?キュッキュキュッ


「お、おい~なにすんだよ。くすぐったいだろ~」


 トーナが急に俺の肩から降りて俺のズボンのポケットに潜り込もうとし始めた。おいおい、今は遊んでいる場合じゃないって~さっきのが遊びましょうって言っていると思ったのか?これが人と魔生物か~簡単には意思疎通は測れないと…


 キュー!


「それはおもちゃじゃないって~トーナ返しなさい!」


 ポケットをまさぐっていたトーナが俺が霧生梨衣きりゅうりいから受け取っていた奇跡を起こす石…霊位石を抱えて勝利のポーズみたいにポージングしていた。そのポージングは数秒しか持たず体制を崩して地面にポテッっと転げ落ちていた。トーナからその石を取り返そうとしたその時、またあの眩い光が石からすこしずつ漏れ出した。


「うっ、この光って?!」


「な、なんじゃ~」


 突然の光に俺とシンリーさんは目がくらみ暫く動くことができなかった。暗い中、唐突に光り出すのはやめてもらいたいものだ。ただでさえ目が暗闇になれてしまっているのにそんな中に正反対である眩しい光を見ると普段以上に目がくらんでしまう。


「ト、トーナ?どこにいるんだ。早くそれを返しなさい」


「はい、主様!」


「あ~よしよし、いい子だぞ…って誰?」


「主様~トーナのこと忘れちゃった~?」


「えっ…えぇぇぇぇええええええ」


 目を開けて目の前の光景を確認して二重に驚いた。先程まで霊位石を持ったまま転がっていたトーナがいた場所にけもの耳をはやした幼い少女が立っていたのだ。しかも、その子は俺のことを『主様』って呼んで差し出した手の上には霊位石があったのだ…これは一体どうなってんだ?


「ト、トーナなのか?」


「そうだよ~主様~」


「その姿は…どうやったんだ?なにか変化する技か何かか?」


「んきゅ?へんげって何?トーナはトーナだよ」


 うん。なんなんだこの状況は…霊位石に触れたトーナが人化しやがった。しかも結構可愛いときたもんだ。奇跡を起こす石らしいがこれはその奇跡によるものだろうか?でも、魔生物を人化させて何の価値があるんだ?


「主様~これ~」


「あ、うん。ありがとう」


 ピシッ


「え?!」


 トーナから霊位石を受け取ると石は真っ二つに割れてしまった。それを見てトーナは自分が原因で壊れたと思ったのか小さくうずくまりチラチラとこちらの様子をうかがっていた。


「起こせる奇跡にも限りがあるようじゃの」


「シンリーさん、どういうことかわかりますか?」


「儂にもわからんて…じゃが~トーナ殿、お初にお目にかかる。儂はシンリーというただの老いぼれじゃ。ケント殿とは同じ牢に入れられておっての。ともに脱出してケント殿のお仲間を探しているのじゃ。トーナ殿もケント殿のお仲間について何かご存じではなかろうか?」


「主様の仲間~?それならトーナ知ってるよ!こっち~」


 シンリーさんの問いにトーナは元気に答えてこっちに進むべきだと言わんばかりに薄暗く霧で見えにくい洞穴を走っていった。


「トーナ!まって」


 俺とシンリーさんもトーナに置いて行かれないようにそのあとを追った。


「ケント殿、もしや霊位石の奇跡は先程の問いに答えようとするトーナ殿の願いを叶えたのではないですかの」


「先程の問い…あ~俺が何気なしにトーナに語り掛けたやつか…なるほど…」


 トーナは実際、皆のところを知っていたが伝える言葉がなかった。だから、俺に伝えられるようになりたいと…そう願ったのかもしれない。それでその願いに呼応して石が奇跡を起こした…そういう筋書きなら納得しないこともないか…

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